2017-06

     本日の一言 : スマッシュブラザーズを空いた時間にやってます。ゲッコウガとロゼッタ使ってます。
     ☆仮面ライダーアルズ 第5話 デルザー軍団編 開始! 大好評 新規公開中!! 「かっと燃えるぜ正義の心
     【次回情報】 次回チャットライブは未定です。
     【出演情報】 30日(火)ハチベサさん主催 「ねるとん」 出演! 23:00- ガタラ採掘地区6759
     NEW!! 9月22日(月) ブログ記事更新!! 「今宵は大道芸語り+ヌンチャクさんの花火大会+はじめてのグラコス レポ

Latest Entries

スポンサーサイト

上記の広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。
新しい記事を書く事で広告が消せます。

仮面ライダーアルズ 第1話 我らを狙う黒い影

注:この小説は創作小説です。現存する団体とは一切関係がありません。

バックナンバーは「こちら」から! もしくは、サイドバーのリンクからどうぞ!



仮面ライダーアルズ
……Masked Rider Al-z

o0350053912859023263.jpg

第1話 「我らを狙う黒い影」

仮面ライダー、本郷猛は改造人間である。
彼を改造したショッカーは、世界征服を企む悪の秘密結社である。
仮面ライダーは、人間の自由のためにショッカーと戦うのだ!!

――「仮面ライダー」より




二つの光がぶつかり合っていた。

赤い光と緑の光。

それが、見渡す限りの廃墟の中、所狭しと飛び回っている。

光の中心には、異様な姿をした者達がいた。

昆虫のようなマスク。

複眼のような大きな目。

そして、体全体を覆うボディスーツ。

赤い光の中にも、緑の光の中にも、それはいた。

同じような姿形をしているが、違う。

見た目がまず大きく違ったが、何よりそれらの纏う雰囲気、オーラとでもいうのだろうか、それが圧倒的に違った。

赤い光は激情。

緑の光は絶望。

それぞれ相反する感情をぶつけ合うようにして、空中で組み合い、殴り合い、蹴り合っている。

赤い光の中にいる者が叫んだ。

「一文字先輩! 目を……目を覚ましてくれ!」

赤い光に殴り飛ばされ、十メートル以上もの空中から地面に叩きつけられた、一文字と呼ばれた男が、もうもうと土煙を上げながら立ち上がる。

「風見ィ!」

憎しみ。

怒り。

悲しみ。

それら全ての負の感情を乗せたおどろおどろしい声を発し、一文字は、自分に向けて空中で回転し、右足をつきだして急速降下してくる相手を見た。

「V3!」

はるか上空から、まるで矢のように赤い光が疾走った。

「反転!」

雄叫びを上げ、風見と呼ばれた赤い光は蹴り抜いた一文字の胸を踏み台にし、さらに高く舞い上がった。

人間の跳躍ではおよそ成し得ない、先ほどよりも高く飛び上がる。

そう、まるで虫のように。

「キィック!」

絶叫とともに、先ほどとは比べ物にならない速度で、赤い光が緑の光に突き刺さった。

数十メートルも地面を滑り、抉り、土煙をまきあげ、瓦礫を爆散させながら、風見が一文字を吹き飛ばしたかに見えた。

しかし、そうではなかった。

一文字は、その赤い両手のグローブで風見の足を掴み、地面をスライドしながらその場に踏みとどまっていた。

「手加減とはな……ひよっこが……!」

くぐもった声でそう呟き、掴んだ風見の足を、まるで発泡スチロールのサンドバッグを振り回すように、大きく振りかぶって地面に叩きつける。

何度も、何度も。

一度。

二度。

三度。

数えきれない程地面に叩きつけられ、風見の昆虫のようなヘルメットに嫌な音がしてヒビが広がっていく。

数分後、ボロ雑巾のようになり赤い光が消えたその体を、一文字はゴミのごとく脇に放り投げた。

鈍重な音がして、風見は力なく地面に転がった。

「俺は2号……『力の』2号だぞ……」

一文字は足を振り上げ……。

「なめるな」

そう言って、それを躊躇なく風見の頭に向けて踏み抜いた。

ゴキィ、と何かが砕ける音がして、ヘルメットに入ったヒビから、放電が走り始める。

風見は、自分の頭を踏み砕こうとしている一文字の足を掴み、血反吐と共に言葉を絞り出した。

「一文字先輩……あんたの力が、必要だ……奴らの封印が解けたら……大変なことになる。昔の……誇り高かったあんたは、どこにいった……!」

「一文字隼人という男は死んだ」

足に力を込めていきながら、異形の男は喉を鳴らして笑った。

「お前もそうなるのだ。『仮面ライダー』……V3」

「逃げろ! こいつは本気だ!」

風見が必死の声音で叫ぶ。

……俺は、しかしその場から動くことが出来なかった。

何もかもに圧倒されていた。

人間業ではない戦いの応酬にも。

目の前で繰り広げられている惨劇にも。

剥き出しの殺気にも。

絶望や怒り、悲しみの感情に、圧倒されていたのだ。

「零距離……ライダー……」

一文字が両手を天に向けて高く伸ばす。

そして顔の脇で両腕を握るような動作をする。

「逃げろォ!」

――だめだ。

俺は叫んだ。

今、風見さんを失ったら。

何もかもが狂ってしまう。

何も変えられないまま、世界は暗黒の渦に落ちていってしまう。

――やめろ!

殺さないでくれ。

その人を。

その人は……その人は!

「キィック!」

「逆! ダブルタイフーン!」

一文字と風見の声が同時に、乾いた廃墟に響く。

嫌な音がした。

次の瞬間、俺の目に天を衝くほど巨大な竜巻が、突然目の前に発生したのが見えた。

強風。

暴風。

狂気の風が体を襲う。

周囲の瓦礫が吸い上げられ、空中でぶつかって爆発する。

地面の砂が吹き上がり、炸裂した。

俺はたまらず吹き飛ばされ、体をしたたかに何かにぶつけた。

意識が薄れていく。

体が、何かに引きずられるように二人と逆方向に動いていく。

風見さん。

俺は……。

意識を失う寸前、最後に見たのは。

竜巻の中心で鮮血に濡れる緑色の光と。

力なく横たわる風見……仮面ライダーV3の姿だった。



息ができなくて目が覚めた。

苦しくて、辛くて、このまま死んでしまうのではないか。

そう思って、青くなって飛び起きる。

夢の中で俺の目の前に、唯一覚えている記憶、そのままの緑の怪人。

昆虫のような頭部に、ボディスーツを着た異様な男が、近づいてくる。

それは手に、何かボールのような大きさのモノを持っていた。

赤い。

液体がその切断面からボトボトと垂れている。

口を開けて絶叫の表情で絶命している、ソレ。

緑の怪人は、ゴトリとソレを地面に落とし、俺に向かって指を突き出した。

決まってそこで目が覚める。

――最悪の気分だ。

頭を抑えて荒く息をつく。

時間が経過するに連れて、段々と肺に空気が入ってきて、呼吸が正常に戻っていく。

あばら屋の屋根の隙間から、朝日が差し込んでいた。



とりあえず着ていたタンクトップとジーンズ姿で、彼……龍一は、水道の前に並んでいる人々の列に加わっていた。

ひしゃげた古いバケツを地面に置き、大きく伸びをして欠伸をする。

筋骨隆々というわけではないが、しっかりした体。

黒のボサボサな長髪を、首のあたりで一つにまとめている。

見た感じ十七、八ほどの青年だった。

快活で明晰そうな顔立ちをしている。

そこで彼は、ボン、と背中を強い力で叩かれて、よろめいて振り返った。

「やっと起きたか、龍一。この俺よりも遅く起きるとは、肝っ玉だけは相変わらず据わってやがる」

後ろから大きな声をかけてきたのは、ウェスタンハットを被った壮年の男性だった。

五十代ほどの顔立ちだったが、人の良さそうな笑みを浮かべている。

体にはマントを着用していた。

「おやっさん、おはよう」

軽く手を上げて龍一はヘラヘラと笑ってみせた。

おやっさん――そう呼ばれている男性は、呆れたように胸の前で腕を組むと、息を吐いた。

立花藤兵衛。本名かどうかは分からないが、龍一はその名前を教えられていた。

みんなは親しみを込めておやっさんと呼んでいる。

「まったく……お前はそうやっていつもニヘラニヘラしおって。早く水を汲んでこい。そうしたら、砂出しの仕事だ」

「うへぇ。人使いが荒いぜ」

「居候の分際で何言ってやがる。いいからさっさと来い。人出が少なくて困ってるんだ」

そこで藤兵衛と龍一は、少し離れた所で、地面に座り込んでボソボソと会話をしている、薄汚い男たちに目をやった。

「……また人さらいだとよ」

「酷いもんだぜ……昨日は五番地の一家が全部やられたそうじゃねぇか……」

「機動隊は何してやがるんだ……」

「奴らは上層の機動隊だ。どうせ下層のスラム市民がどうなろうが、上層の連中は知ったこっちゃないんだろうて……」

龍一はそれを聞きながら、軽く唇を噛んだ。

「やっぱり、まだ滅んでないんじゃないか……あの……『デストロン』は……」

男の一人がそう呟く。

藤兵衛は、その単語を聞いた途端、龍一の瞳孔が異様な色に変色し、拡散したのを見て口をつぐんだ。

ワインレッド。血の色に瞳が染まっている。

「龍一、落ち着け」

手を伸ばし、ポンポンと彼の肩を叩く藤兵衛。

龍一はハッ、として、次いでポカンとした顔で藤兵衛を見た。

「ん? 何が?」

「ほら、マントだ。着ておかねぇと砂とお天道様にやられるぞ」

バサ、と龍一に持っていたマントを放って、藤兵衛は軽く笑った。

「何せ、ここは『神様に見放された世界』だからな」



大災害、と人は呼んでいる。

実際何が起こったのかは、誰も分からない。

分からないのだが、三十年前のその異変により、世界は大きく退化した。

一説によると、何らかの原因により地球の自転そのものが狂ってしまった、という学者もいる。

世界には奇妙な磁場が多数出現し、電波は阻害され、大気の状態は著しく不安定になった。

何より一番大きな変化は、「コリオリ力」の変動によりそれまでの「戦争」に関する事柄が一変したことだった。

コリオリ力とは、地球の自転により、直進する物体は一定の力を受けるというものである。

例えば十km離れた場所を狙撃する際。

予想された着弾地点よりも、少し曲がって到達することを計算して撃たなければならない。

しかし大異変後。

そのコリオリ力が一変した。

力は不規則に変動するようになり、銃などの射撃武器が一切使えなくなった。

気候の変動などにより、磁場の影響も受け、航空機や新幹線などの高速移動手段も絶たれた。

各地で戦争を勃発させていた人間たちは、それにより、電子化されていた戦争を、白兵戦に切り替えざるを得なくなった。

それと同時に、人々は「生き残る」ために必死にならなくてはいけなくなった。

気圧、気候、大気、磁力。

全てがめまぐるしく変わる世界。

そんな中で、地表は砂漠化が進行し、廃墟は続々と砂になり、生き残った人々は「シティ」と呼ばれる生命維持機関を作り、ひっそりと生きながらえていた。

シティには日を遮る建物や、水道設備、下水設備、そして何より、滅亡の危機に瀕している「植物」が存在している。

主に、環境が整備されている上層、そしてあまり整備が整っていない下層に分けられるが、生活している市民の大部分は下層市民だ。

龍一がいるここ、第十五番地もそんなシティの、下層スラム街だった。

ちなみに、シティは世界中に点在している。

ここは「ジャパン」と呼ばれているシティだ。

それら知識は、全て龍一は藤兵衛から聞いて、学んだものだった。

そもそも、「龍一」という名前。

それは、呼ぶときに名前がないと困るから、という理由で藤兵衛がつけたものだ。

龍一がここに来たのは、一週間前のこと。

流砂の中に埋もれていた彼を、藤兵衛達スラム街の住民が総出で救出した。

救出された龍一には、外傷や内傷は見受けられなかったものの……。

彼は、全てを思い出すことができなくなっていた。

嘘のような話なのだが、本当のことゆえ始末が悪い。

自分が誰で。

どこから来て。

どこに住んでいて。

家族は何人か。

知り合いはいるのか。

恋人はいるのか。

何も分からないのだ。

覚えているのは、緑の怪人と赤い怪人が戦う光景。

そして

「風見」と、「一文字」という名前。

それだけだ。



水を汲んで顔を洗う。

自分に何があったのか、不安でたまらないといえば嘘になる。

しかしどんなに悩んでも、苦しんでも、変わらず世界は回り、朝はやってくるものだ。

もともと少しばかり楽天的な性格だった龍一は、藤兵衛の世話になりながら、ずるずると彼の所に居続けて今に至る。

マントを羽織り、バケツに水を汲んで列を出る。

歩き出した彼の目に、こちらに手を振りながら歩いてくる少女の姿がうつった。

十五、六くらいの小さな女の子だった。

スラム街の住民のため着ているものは薄汚れているが、珍しくきれいな顔立ちをした可愛らしい子だった。

「紗代子、いいのか? 外に出てきて」

龍一が声をかけると、紗代子と呼ばれた女の子はニッコリと笑ってそれに返した。

「うん。おやっさんが少し散歩してこいって」

「無理すんなよ。お前は人より全然体弱いんだからさ」

紗代子――藤兵衛が開いている町医者の医院に入院している少女だった。

心臓の病を抱えているようで、定期的に医療の心得がある藤兵衛の治療を受けなければいけない体だ。

痩せていて、普通よりも一回りくらい小さな彼女の腕を掴んで、龍一は自分の方に引き寄せた。

「ほら、俺に掴まれ」

「ありがとう。リュウは優しいね」

「そうか? まぁ、人は褒めときゃバチは当たらんってな」

「ふふ、何それ? おやっさんの受け売り?」

「いや、俺の言葉だ。適当に考えた」

軽く雑談をしながら、あばら屋が立ち並ぶスラム街を歩く。

しばらく歩いていると、紗代子は少し表情を暗くして龍一に言った。

「リュウは知らないと思うけど……最近人さらいが多く出てるの。私の知り合いも、いつのまにかさらわれていなくなっちゃった……」

「…………」

知ってる、とは言わずに、龍一は口をつぐんだ。

紗代子の深刻そうな顔を見て、口を挟むのを憚られたからだった。

「ねえ、機動隊は一体何をしてるんだろう。私達だって市民の一員なのに、上層は動いてくれない。やっぱり……下層のことなんてどうでもいいのかな……」

寂しそうにそう言った彼女の頭をポンポン、と叩いて、龍一は軽く笑ってみせた。

「大丈夫だ。紗代子がさらわれそうになったら、絶対に俺が助ける」

「え……」

「だから安心して、お前は早く病気を治せ。言うだろ? ヒーローは意外と身近にいるってな」

「クスっ……何それ」

「今適当に考えた俺の格言だ」

軽く笑った紗代子が顔を上げ、小さく笑う。

「リュウは、いきなりいなくなったりしないよね?」

無邪気にそう聞かれ、しかし龍一はとっさに答えを返すことが出来ず、唾を飲み込んだ。

紗代子の両親、兄は、テロリストによる自爆テロで、一ヶ月前に他界したそうだ。

藤兵衛からそう聞いている。

貧困と格差は、時にして危険思想を生む。

下層市民が上層市民に対する抗議のために活動を起こすことは、残念ながらそう珍しいことでもなかった。

事実、龍一が目を覚ましてから一週間で、暴徒による抗議活動が数件、上層の機動隊により鎮圧されていた。

その現場に居合わせたこともある。

藤兵衛に止められて、容赦なく警棒などで叩き伏せられていく市民を前に、龍一は歯噛みするしかなかった。



「何でだよ! こんなの……こんなの数の暴力だろ! あっちは武装してるのに……!」

怒鳴る。

悲鳴、怒号、断末魔。

爆薬が炸裂する音。

藤兵衛と、患者がいるからと来た別の区画で起こった抗議活動は、地獄の様相を呈していた。

黒いボディスーツにヘルメットを被った機動隊員たちが、特殊警棒で火炎瓶や刃物を持った暴徒達を、感情を感じさせない動きで叩き伏せていた。

頭を殴られ、嫌な音を立てて動かなくなる者。

胸を抑えて崩れ落ちる者。

藤兵衛は、今にも飛び出さんとしている龍一を押さえつけ、悲鳴に負けないくらい大きな声で怒鳴った。

「こうなりたいのか!」

ズボンの裾をまくり上げる。

彼の左足は、太ももから下が金属。

義足になっていた。

藤兵衛は龍一の肩を掴むと、押し殺した声で言った。

「よく見ておけ、龍一。これが上層の奴らのやり口だ。奴らは下層に住む同じ人間を、人間とも思っていない。殺すことに一切の躊躇がない。立ち向かえば、お前は奴らにマークされ、数の暴力で殺されることになる」

「でも……!」

「そして覚えておくんだ」

ドン、と握りこぶしで胸を叩かれ、龍一は口をつぐんだ。

「これが……俺達の世界の、『現実』だ……!」



「リュウ?」

下から紗代子に顔を覗きこまれ、龍一はハッとしてから笑い、くしゃくしゃと彼女の髪を撫でた。

「当たり前だろ。俺は、強いからな」

「本当?」

「ああ、本当だ。見ろこの筋肉」

腕を曲げて力こぶを見せると、紗代子はクスクスと笑った。

本当ならば、いつこの区画も暴動を起こし、そして上層に鎮圧されるか分かったものではなかった。

本当だ。

本当なのだ……。

あの、無気力な住民達が噂していたことは。

上層の機動隊は、下層の市民などいなくなったところで、気にかけはしない。

それは、誰もが感じていて。

そして、口にしない「真実」だった。

「あら?」

そこで紗代子が口を開き、軽く走って道端に移動する。

「どうした?」

それを追っていくと、彼女はしゃがみこんで、手の平サイズの何かを掴みあげた。

「珍しい……機械だわ。無線かしら」

「え?」

龍一が聞き返したのも無理はなかった。

電波が変調をきたしているこの社会では、上層の機動隊が持っているような高性能品ではない限り、無線などという装置は使えない。

たまに砂の中から、大異変前の骨董品が発掘されるくらいだ。

「それにしては綺麗だな」

紗代子からそれを受け取って、龍一はバケツを下ろしてからまじまじと見つめた。

携帯できるサイズの、何かの端末だった。

前面が全て画面になっていて、特にボタンなどは見受けられない。

背面が砕けて、中の端子などが飛び出していた。

「売ったらいい値段になるかもしれねぇな」

「いいの? 誰かの落し物かも……」

「とりあえずおやっさんに見せてみるよ。この近くで誰かが落としたってんなら、おやっさんに話が行くだろ」

龍一はそう言って、壊れた端末をポケットにねじこんで、バケツを掴みあげて歩き出した。

「ほら、行くぞ」

「うん」

その時の龍一は、深く考えなかった。

誰がそれを落としたのか。

そもそも、何に使われていたものなのか。

骨董品ではないなら、何故壊れていたのか。

その大事なことを、その時の彼は考えなかったのだった。



スラム街の夜は暗い。

近くに街灯などがなく、電気系統が安定しないからだ。

電柱を立てても砂で倒れてしまうため、大概は発電設備を利用するが、その発電設備も古くなって安定しないのだ。

ろうそくの光に照らされた部屋の中で、龍一はベッドに横になっていた。

――リュウはいきなりいなくなったりしないよね?

朝、紗代子に言われた言葉が、頭を反響する。

「いきなり……か」

突然降って湧いたように現れた自分が、あんな約束をして良かったのだろうか。

何となくそう思う。

自分が誰かさえも分からないのに、守るなんて言ってしまって、良かったのだろうか。

もしかしたら。

もしかしたら自分は、機動隊の一人で。

下層市民を叩き伏せる無慈悲な存在だったのかもしれないのだ。

「俺は……」

小さく呟く。

声に出すことで不安を押し飛ばすかのように。

「誰だ……」

『……ザザ……その問いに対する答えが見つかりません。質問の再入力を……』

唐突にベッドの下の方から男の声がした。

飛び上がるほど驚き、龍一は実際飛び上がって跳ね起きた。

「え?」

『思考回路が安定しません。バッテリーに重大な損失を確認。至急修理を要請』

「誰かいるのか!」

声を上げる。

男の声はしばらく沈黙した後、淡々とそれに返した。

『現在地のダウンロードを開始。マップ照合。現状の認識不能。記憶領域の損失を確認』

そこで龍一は、声が自分のズボンのポケットからすることに気がついた。

慌てて手を入れ、紗代子が拾った携帯端末を掴み出す。

完全に存在を忘れていた。

そのディスプレイが光って、大きく赤い字で「×」と表示されていた。

『現端末の再起動コードの入力が不正です。異常ジャンクションを確認』

音は、携帯端末から鳴っていた。

「壊れた端末……誰かと通信が繋がってるのか……?」

呟いて、呆然とそれを見る。

端末の「×」が点灯し、龍一の声を認識しているのか、それに淡々と答えが返ってきた。

『私、「AL―Z(アルズ)システム」は通信ではありません。当端末にインストールされた、ナビゲーションデータ集合体です』

「インストール? ナビゲーション?」

聞きなれない言葉が出てきたことで混乱した龍一に、端末の声は静かに言った。

『当端末は、電送システムの中継地点として機能する複合オペレーションシステムです。あなたの声紋を確認しました。カメラ良好。指紋認証開始』

「何だ……?」

『認証終了。あなたのことを、当端末のナビゲーターとして登録しました。おかえりなさい、システムを再開します。呼称を入力してください』

「……俺の名前?」

『はい』

「俺は……龍一。あんたは……?」

『リューイチ、了解しました。私は当端末にインストールされた、ナビゲーションデータ集合体です』

先ほどと同じことを繰り返し、アルズシステムと言った声は続けた。

『記憶野に重大な損失があります。現状認識ができません。ここはどこですか?』

「データってことは……機械なのか? ここは、ジャパンシティの下層だよ」

『はい。私は機械により制御されたAIです。ジャパンシティ……未登録の単語です』

「喋る機械か……何かすげぇもん拾っちまったな……」

頭をボリボリと掻いて、龍一はベッドの上に胡座をかいた。

「よく分からねぇけど……アルズシステムだっけ? あんたも、俺と同じ記憶喪失なのか?」

『記憶喪失……正確には私の場合、「記憶野を消去されている」という表現になりますが、おそらくはそのような状況かと推測されます』

「お互い難儀だな……あんた、上層の機動隊の持ち物か? すげぇ機械持ってるんだな」

『質問の再入力をお願いします。上層とは何ですか?』

「そういう場所があるんだよ。なぁ、丁度暇してたんだ。話し相手になってくれ」

『了解。コミュニケーションをとりましょう』

「はは、まずは空いてる穴を塞がなきゃな」

軽く笑う龍一。

携帯端末に表示されていた「×」が「○」になった。



龍一の部屋のドアの反対側に、寄りかかるようにして藤兵衛が立っていた。

彼は義足を庇うように壁に背中をつけ、龍一が持っているのと同じ端末に指を付けた。

そして耳に当てる。

「被験体がシステムと接触したようだ」

藤兵衛がそう呟くと、端末の奥からノイズ音と共に、くぐもった男の声が聞こえてきた。

『早いな……』

「ああ」

『奴らの動きが活発化している。接敵するのも時間の問題か……』

「やはり、今回も……」

『君の役目は「見届けること」だ。余計な私情は挟まないでおいていただこう』

「…………」

『それが君の「正義」のためにもなるんだよ。ナンバー1……いや、今は「立花藤兵衛」と名乗っているんだったかな……』
「……動きがあり次第連絡する」

藤兵衛はそう言って端末を耳から離し、ポケットに突っ込んだ。

ドアの隙間から部屋を覗くと、ベッドの上で端末に向かって親しげに話しかけている龍一と、僅かな光を発している端末が目に映った。

藤兵衛は少し歯噛みすると、足を引きずりながらその場を後にした。



「アルズシステム?」

紗代子が素っ頓狂な声を上げて、目を丸くする。

スラム街の一角で、道端に座り込んだ彼女に、通行人には見えないように、龍一はポケットから端末を取り出してみせた。

『おはようございます。お嬢さん。私の名前はアルズシステム。当端末にインストールされた、ナビゲーションデータ集合体です』

「機械が喋ってる……」

「最初は通信してるのかと思ったけど、どうやら違うらしい。この端末自体が意思を持ってるって考えたほうがいいかもな」
『その認識で間違いはありません』

穴が開いていた端末は、龍一がセットした無骨な鉄くずのカバーで覆われていた。

「これ……やっぱりまずいんじゃ……もし上層の人の落とし物だったら大変よ。リュウ、おやっさんに相談した?」

不安そうに紗代子が言う。

龍一は軽く肩をすくめてから答えた。

「そうも思ったんだけど、『こいつ』がどうも、それを止めるんだよな」

『こいつ、ではありません。私の名前はアルズシステム。当端末にインストールされている……』

「ああ、はいはい。分かってるよ」

アルズの声を打ち消してから、龍一は続けた。

「だから何でだよ、アル。おやっさんは信用できるって」

『アル?』

「お前の愛称だ。今適当に決めた」

『了解。登録しておきます。リューイチ、タチバナトウベエを信用してはいけません』

「え?」

きょとんとした紗代子を見て、龍一は肩をすくめた。

「昨日の夜からこの調子なんだ」

『記憶野が消去されているため、原因は分かりませんが、あなたがタチバナトウベエと呼称したあの人物は、私の中に、特A級危険人物として登録されています』

端末のディスプレイが点灯し、藤兵衛の顔写真が映し出された。

「そんな……おやっさんはいい人よ?」

戸惑いながら紗代子が口を挟む。

アルズは少し沈黙した後、繰り返すように言った。

『信用するのはお勧めできません。これは、世界重犯罪者データベースの登録に照合されたデータです。九十%の確率で、彼は黒です』

「お前が間違ってるんだろ。十%も白の確率があるじゃねえか」

『確かに、現状その可能性も否定はできません。しかし私の登録者の身に、九十%の割合でエマージェンシーが発生すると考慮しますと、可能な限りそれを避けるべきかと提案します』

「だけどな……おやっさんは俺の命を助けてくれた大恩人だ。昨日今日拾ったばっかの、お前の言葉をはいそうですかと鵜呑みにするわけにもいかねぇんだよ」

ボリボリと頭を掻いて、龍一は息を吐いた。

「まぁ、そういうわけなんだ。まだおやっさんには相談できてなくてな……」

「そうだったんだ……」

紗代子は困ったように目を伏せてから言った。

「アルズ君……だっけ?」

『イエス、お嬢さん』

「人を最初から悪いって決め付けるのは、正直どうかと思うな……おやっさんは私達全員の恩人よ。それを悪く言うのは、感心できないわ」

『…………』

アルズが沈黙する。

カリカリと端末から、何かを書き込んでいるような音がしていた。

少しして、アルズは淡々とそれに返した。

『了解。以降発言には気をつけましょう』

「とりあえず、今日は紗代子がもともと住んでいた家に、家財道具を取りに行く。それより……いいのか? 紗代子、お前……」

つらくないのか、と聞きかけて、龍一は口をつぐんだ。

紗代子がニッコリ笑って、自分の手を握ったからだった。

「行こ。アルズ君も、おやっさんのことをよく話せば、きっと分かってくれるよ」

「ああ……そうだな」

軽く笑って、龍一は彼女の手を握り返した。



紗代子の家は、三区画ほど先のスラム街の隅にある。

正直、龍一はあまり乗り気がしていなかった。

すぐ近くの区画で、先日暴動があったばかりだったからだった。

心臓が悪い紗代子を、できるだけ争いには巻き込みたくない。

そう思うのも、当然のことだろう。

おやっさんから借りた、骨董品の砂地用スクーターで、低速に進む。

これは電気で動くもので、三日前から充電していたので、何とか動くくらいにはなっていた。

しかし古く、いろいろガタついているため中々速度が出ない。

砂をかき分けるようにして大きなタイヤが進んでいるので、やはり早く進めることは困難だった。

自分の腰に抱きついている紗代子の調子を確認して、龍一はアクセルを更に踏み込んだ。

太陽が二人をジリジリと焼く。

空気も熱い。

マスクをつけていなければ、肺に変調を起こしてしまいそうだ。

しばらく進んで、龍一は転々と家が立ち並んでいるのを見た。

目的のスラム街だ。

しかしそこで、彼は、ドンッ! と重低音がして少し離れた家屋から爆炎が上がったのを目にした。

慌ててスクーターを止める。

砂を押し分けながらスライドしたスクーターの上で、紗代子が小さく悲鳴を上げた。

「何だ……?」

もうもうと黒煙が上がっていた。

「まさか……」

暴動。

最悪の予想が頭をよぎる。

もしそうなら、紗代子もいるのだ。

すぐ引き返して隠れなければいけない。

しかし……。

龍一は見てしまった。

燃え盛るあばら屋の中から、人間を抱えた「何か」が出てくるところを。

人間、のように最初は見えた。

しかし決定的に違った。

それには、まるで虫……そう、蝶、いや違う……もっとおぞましい、蛾のような白と紫の斑点を持つ「羽」が、背中から生えていたのだった。

顔も異常だった。

巨大な複眼が顔面の二分の一を覆っている。

口元には鋭いトゲ。

触覚も見て取れる。

人間大の、人間の四肢を持つ蛾。

そう、龍一には見えた。

その蛾人間は、両腕に子供を抱きかかえていた。

そして、火がまたたく間に燃え移り、たちまち地獄のような様相を呈し始めたスラム街の、あばら屋の屋根から屋根に飛び移り始める。

『リューイチ、エゾルデ反応です。直ちにこの場所から離脱してください』

ポケットからアルズの声がした。

それにハッとして、龍一は口を開いた。

「エゾルデ反応?」

『デストロンの生体兵器が放つ、パルス信号のことです。距離からして、ハザード特一級事態と思われます。即刻離脱を』

「デストロン……!」

その単語を聞いた途端、龍一の眼の色が変わった。

瞳がワインレッドに染まり、瞳孔が僅かに拡散を始める。

「リュ……リュウ……?」

それを見て、不安そうに紗代子が口を開いた。

ハッ、として龍一は振り返り、スクーターを降りてから、瓦礫の影に抱き上げた紗代子を降ろした。

「紗代子、見たか?」

聞かれて紗代子は、青くなって彼に言った。

「な、何を……? 暴動? 火が凄い燃えてる……!」

「ここにいろ。絶対に動くんじゃないぞ」

「リュウ! ど、どうしたの!」

「人さらいだ。子供が連れ去られていく所を見た」

「ちょっと待って! 今行ってどうするの、相手は武装してるかもしれないのよ!」

「でも……見過ごしてなんていられない!」

龍一はそう言って、紗代子に背を向けて走り出した。

それに。

この胸の奥に湧き上がるドス黒い感情は……一体。

何なのだろうか。

デストロン。

その単語を聞くたびに、何か自分ではない別のモノが胸の奥からせり上がってくるのを感じる。

紗代子が背後で何かを叫んでいたが、龍一は振り返らなかった。

視線の先には、燃え盛る炎の向こうに屋根から屋根に飛び移る蛾人間の姿。

抱えられた数人の子供が悲鳴を上げている。

「待てェ!」

『リューイチ、落ち着いてください。エゾルデ反応がこちらに向きました。危険です』

「何のことだか分からねえが……逃すわけにはいかないだろ!」

怒鳴り返し、龍一は足元の石を手に取った。

デストロン。

カイジン。

怪人。

蛾人間が、数十メートル離れた先で屋根の上に立ち上がり、こちらを向いたのが見えた。

――当てる。

石を投げる。

それがコリオリ力の変動により、直進しないことは子供でも知っている。

時には九十度近く曲がってしまうこともある。

しかし、ワインレッドに瞳孔が拡散した龍一は、何も考えず、本能的な動きで石を振りかぶった。

彼の腕の筋肉が、異様な音を立てて盛り上がる。

それは生物の音が発するものではなく。

さながら、機械。

ギチギチに詰まった機械繊維がきしみを立てる音のようだった。

『力場が変動しています。それに距離が遠すぎます。投石は到達しません』

もう片方の手に持った端末の中のアルズが言う。

「当たれ……!」

龍一は小さく叫ぶと、血液色の瞳を見開いて、石を投げた。

一直線に石は飛ぶと、大きく右にカーブして上空に舞い上がった。

コリオリ力の変動により、直進しないのだ。

しかし、次の瞬間だった。

右に曲がった石が、まるで磁石のSとNが引き合うように、蛾人間に向けて急速に吹き飛んだ。

まるで矢、いや。

光。

閃光となった何の変哲もない石は、蛾人間の翼を貫通して、遥か向こう側に消えた。

『……サイキックウェーブの発動を確認。リューイチ、あなたは……』

呆然としたアルズの声が聞こえる。

羽を貫かれた蛾人間は、子供を離すと、よろめいてそのままあばら屋の向こう側に消えた。

龍一はそれを見て、その場に両膝をついた。

ぜぇぜぇと荒く息をしていた。

何か凄まじく重いものを持ち上げた時のように、体全体から力が抜けていた。

しばらく息を吐いて、彼はそこで、ハッと我に返った。

――紗代子。

気づいて青くなる。

俺は、紗代子を置いて何をしていたんだ。

この大火事に紛れて、暴徒がいたるところに発生していたのだ。

「紗代子!」

慌ててスクーターの方に駆け戻る。

しかし、先ほど紗代子を降ろした場所には、誰もいなかった。

代わりに転々と青い液体が、砂に落ちていた。



「馬鹿野郎!」

藤兵衛に思い切り頬を殴られ、龍一は砂に叩きつけられた。

「何のためにお前を、紗代子ちゃんにつけたと思ってやがる……暴動に巻き込まれて見失っただぁ? 寝言ほざいてるんじゃねぇぞ!」

「く……」

言い返せず歯ぎしりした龍一をもう一発殴ろうとした藤兵衛が、スラム街の住民に止められる。

「おやっさん、足の傷に障る

「くそ……!」

藤兵衛は吐き捨てると、倒れたまま起き上がろうとしない龍一に言った。

「お前は家の中でおとなしくしてろ。みんな、紗代子ちゃんを探しに行く。手伝ってくれ!」

「おやっさん……教えてくれ」

そこで龍一は、吐き出すように言葉を絞り出した。

「デストロンって……何だ? 紗代子は、奴らにさらわれたのか……?」

「…………」

藤兵衛が口をつぐみ、拳を握りしめる。

「人間じゃないものを見た……火の中……」

「やかましい!」

しかし大声でそれをかき消され、龍一は口をつぐんだ。

「今は紗代子ちゃんの命だ! みんな、行くぞ!」

バラバラと集まっていた住民たちが散っていく。

藤兵衛も、倒れている龍一を無視して脇を抜け、スクーターを起動させて走り去った。

「ぐ……」

歯ぎしりして、龍一は握った拳を砂に叩き付けた。

「俺は馬鹿だ……! 紗代子は、俺を信じてついてきてくれたのに! あいつは俺を信じてたのに!」

『リューイチ。追跡しましょう』

そこでアルズが端末越しに、龍一に淡々と言った。

「え……?」

『もうじき夜になります。捜査の手も中断せざるを得ないでしょう。提案します。サヨコ嬢を救出するため、エゾルデ反応の追跡を提言します』

「お前……紗代子がどこにいるのか分かるのか!」

『正確には、サヨコ嬢を連れ去ったと思われるデストロン生体兵器の反応を追跡可能です』

「考えるのは後だ! 教えろ……紗代子の居場所を!」

龍一は怒鳴って立ち上がった。

「助ける……俺が、絶対!」

『了解。反応値追跡を開始します』

龍一は端末を持ったまま走りだした。

そして藤兵衛の家の納屋にとめてある数台のスクーターから一台を選んで飛び乗る。

アクセルを全開にして、彼はあばら屋を飛び出した。



じゅるり、じゅるり、何かを吸い込むようないびつな音が響いていた。

紗代子は胸の痛みを押し殺すように息を吐き、霞んだ目を開いた。

そこは、ボロボロになった廃倉庫の一角だった。

人が屈んで何かをしていた。

「リュウ……?」

見覚えがあるその背中に、紗代子は恐る恐る声をかけた。

しかし振り返った彼は……。

異常。

その一言だった。

目の前の光景をやっとのことで認識した紗代子は、次いで空気をつんざく悲鳴を上げた。

目の前の青年が、音をたてて「何か」をすすり、貪り食っている光景を見てしまったからだった。

倒れている人、ヒト、ひと。

そのどれもが、頭を鋭利な刃物でカチ割られていた。

内蔵が見えている。

脳だろうか。

ピンク色の肉が散乱している。

――違う。

リュウじゃない。

ゆらりと立ち上がった青年は、震える紗代子に近づき、傍らに置いてあったチェーンソーを手にとった。

そして起動ロープを引っ張ってドルン、と起動させる。

見た目は、龍一にそっくりだった。

いや。

瓜二つと言ってもいい。

背丈も、顔立ちも、何もかもがそれは「龍一」だった。

マントを羽織り、体には何も着ていないようだ。

しかし何より異様だったのは、その体。

右腕から、血。

「青い」血が流れていたことだった。

死体が転がる中、紗代子は立ち上がろうとして腰が抜けていることに気づき、青くなった。

体が動かない。

「リュウ……リュウ!」

この人は違う。

優しくて、大きくて、強い龍一ではない。

いない彼のことを、紗代子は絶叫して呼んだ。

「リュウ!」

「紗代子ォ!」

次の瞬間だった。

廃倉庫の扉を蹴破って、スクーターに乗った人影が踊り込んできた。

所々ろうそくのあかりに照らされた、血なまぐさい倉庫の中に、スクーターのライトの光が差し込む。

飛び込んできた龍一は、あまりの光景に絶句して、スクーターをスライドさせながら止まった。

チェーンソーを持つ、自分と同じ顔形をした人間。

いや。

人間なのだろうか。

その理由不明な不安が、心の奥に湧き上がる。

「リュウ! 助けてえ!」

紗代子が絶叫した。

「うおおお!」

龍一は雄叫びを上げ、チェーンソーを振りかぶった、自分そっくりな男に、肩口から体全体を叩き付けた。

よろめいた男を蹴り飛ばし、紗代子を抱きかかえて離れたところに転がる。

「リュウ……!」

「紗代子、大丈夫か!」

「怖いよ……!」

「アルズのナビを聞いてここまで来たんだ……もう大丈夫だ!」

荒く息をつきながら、龍一は声を絞り出した。

『リューイチ、エゾルデ反応が増大。生体兵器、「改造人間」の姿を確認』

「何だと!」

――改造人間。

その単語を聞いた途端、龍一の頭にズキリと鈍い痛みが走った。

龍一そっくりな青年は、血に濡れたマントをその場に脱ぎ捨てた。

自分自身の全裸を見て息を呑んだ龍一の目の前で、彼は身を屈め……。

その体が、まるで昆虫が「脱皮」するかのように背中の皮が破け、中からズルリ、と人間大のモノが顔を出した。

人の皮が、嫌な音を立ててその場に転がる。

「脱皮」……そう形容するしかない。

人間の皮を脱ぎ捨てたそれは、蛾。

先ほどスラム街で龍一が見た、蛾人間の姿だった。

右翼から、ボタリボタリと青い血液が流れている。

「きゃああああ!」

紗代子が絶叫する。

「くそ……! 何なんだあれは!」

彼女を庇うように前に出た龍一に、そこでアルズが静かに言った。

『リューイチ、私を「着装」してください』

「着装?」

『ジャンクションコードは「変身」です。あなたのサイキックエナジーを、着装に足るレベルと判断しました。迎撃プログラムを起動します』

「何? よく分からねぇぞ!」

『変身。私を掲げてそう声を上げてください』

アルズがそう言うと、携帯端末の光が白く明滅し始めた。

『フレキシブルサイキックアーマーを転送します。準備完了。オールレディ』

「い……言えばいいのか?」

『はい』

龍一は、携帯端末を顔の前にかざし、そして怒鳴った。

「変身!」

『電送機構、通常転送を確認。電送完了。実体化します』

アルズの声とともに、龍一の体を白い光が包んだ。

次の瞬間だった。

チェーンソーを掲げた蛾人間が、人間とは思えない跳躍で数メートルも宙に浮き、龍一に向けて思い切りチェーンソーを振り下ろした。

「く……」

歯ぎしりして龍一は手を伸ばし……。

その、チェーンソーの刃を手で掴んで。

粉々に握りつぶした。

「え……」

自分のしたことに唖然として言葉を失う。

『リューイチ、攻撃を開始してください』

目の前に蛾人間の顔があった。

複眼。

トゲ。

触覚。

人間ではない。

「うああああ!」

龍一は悲鳴のような絶叫を上げ、握り拳を振りかぶった。

足で地面を踏みしめ、蹴り、正拳突きの要領で腕を振り抜く。

『武装「サイキックナックル」を使用します』

一瞬後。

龍一の拳は、まるで流星のように蛾人間の頭を捉え。

そして人間一人を段ボールのように吹き飛ばし、実に十数メートルも弧を描いて打ち上げた。

ドチャリ、と蛾人間が、背中から倉庫の地面に落下する。

「何が……」

『実体化完了』

アルズの声。

龍一はそこで、床に溜まっていた青い血液に、自分の姿が反射しているのに気がついた。

ほとんど暗闇のはずなのに、ハッキリと周りのものが見える。

血だまりに映った姿は。

赤い複眼。

触覚。

昆虫のようなヘルメット。

白と黒のボディスーツ。

ベルトのバックル部分に、携帯端末がはまっている。

プシューッ、と音を立てて、マスク下の排出孔から水蒸気が噴出した。

これは……。

……色は違うが、あの記憶にある赤い光。

2号、そしてV3。

あれら「仮面ライダー」……その姿に酷似していた。

――そうだ。

俺は……。

そこで、龍一の脳裏に、赤い昆虫のようなヘルメットを被った風見の姿がフラッシュバックする。

――いいか、よく聞け。本当に誰かを守りたい時。自分に力が足りなくて、絶望した時。お前は変わる。「変身」しろ。そして名乗れ。その時こそお前は……。

俺は……。

頭の中の記憶をたどり、龍一は両手を天に伸ばし、無意識に顔の前で拳を握りしめ、右手を拳闘のポーズのように構えた。

俺の名前は……。

感覚が研ぎ澄まされていく。

周囲の音が聞こえなくなり、蛾人間と自分以外は見えなくなる。

――お前は名乗れ。「仮面ライダー」を!

風見の声が、聞こえた気がした。

「リュ……リュウ……?」

怯えた紗代子の声が聞こえる。

龍一は、昆虫のようなヘルメットの奥で、くぐもった声で言った。

「俺は……仮面ライダー……」

「え……」

「仮面ライダーだ!」

蛾人間がよろめいて立ち上がり、奇声を上げながら飛びかかってくる。

龍一のボディースーツの各部から、水蒸気が凄まじい勢いで噴出した。

肩の装甲がバクン、と開き、そこからも白い煙が上がる。

『サイキックウェーブ反応、急激に増大。三十……四十……五十。リューイチ。撃てます』

「おおおお……!」

拳闘の構えを作って、龍一は本能的に右足に力を集中した。

彼の右足全体が、太ももから白く輝き始める。

「うああ!」

絶叫して地面を蹴った。

まるで人間ではないかのように。

虫のように、軽々と、天井近くまで龍一の体は宙を舞った。

「ライダァァ!」

風見のように叫ぶ。

そう、彼は。

俺の……。

俺の。

師。

気高い戦士。

誰よりも強く。

誰よりも輝く。

孤高の戦士。

仮面ライダー、V3だ!

「キィック!」

龍一の体は、流星となった。

風を巻き上げ、つきだした右足が、一筋の光となった体ごと、蛾人間の胸を捉える。

そのまま土煙を巻き上げて、地面に突き刺さる。

蛾人間は吹き飛ばされ、きりもみに回転しながら反対側の壁を貫通し、その向こうの砂漠に頭からドチャリと落ちた。

「ガ……」

シュゥゥゥ……と龍一のボディスーツから白い煙が立ちのぼる。

蛾人間は立ち上がろうとして失敗し、地面を手で引っ掻いて悶え苦しんだ後、喉を鳴らして笑った。

「クク……クックック……!」

「…………」

立ち上がった龍一の耳に、かなり離れているはずなのに蛾人間の声がはっきりと聞こえる。

「そうか……『実験体』が……ようやく完成したのか……」

「何……?」

聞きなれない言葉に声を上げる。

『リューイチ、サヨコ嬢を連れてここから離れてください。超小型原子炉の暴走を確認。あの怪人は、自爆します』

アルズの声が聞こえる。

しかし龍一は、声を張り上げて怒鳴った。

「お前! 俺のことを知っているのか!」

「ククク……ククック! デストロンに……」

「答えろ!」

「栄光あれえ!」

蛾人間が一瞬だけ立ち上がり、そして次の瞬間、まばゆい閃光にあたりは包まれた。

龍一はとっさに紗代子を抱きかかえると、地面を蹴って廃倉庫の天井に突き刺さった。

そしてそのまま天井を破って空中に踊り出る。

実に数十メートルも舞い上がった彼の目に。

眼下のスラム街に、十メートル程の、キノコ型の爆炎が上がったのが見えた。



「怪人の殲滅を確認した」

離れた位置からキノコ雲を見ていた藤兵衛が、携帯端末に向けて口を開いた。

『そうか……』

端末の向こうの男が重苦しく口を開く。

『やっと、「フェイズ2」に移行できる……』

「ああ、やっとだ……」

藤兵衛は左足を押さえ、絞りだすように呟いた。

「俺の左足が、哭いている……」



紗代子を抱きかかえた、異形のボディスーツを着た龍一は、猛烈な脱力感とともに、足を引きずりながら砂漠を歩いていた。

意識は混濁し、すでに自分がどこを歩いているのか分からなかった。

少しでも爆発から離れようとした所、この猛烈な虚脱感に襲われたのだ。

『電送を解除します』

アルズの声とともに龍一の体が白く光り、ボディスーツが光の粒子となって消え去っていく。

紗代子を地面に降ろし、龍一はその場に仰向けに倒れこんだ。

紗代子が自分を揺さぶって、泣きそうな顔で何かを叫んでいる。

その顔が、不意によく知った……いや、よく知っていたはずの女の子の顔と重なり。

龍一は、無意識に呟いていた。

「真名(まな)……」

……と。



第2話に続く!!!

バックナンバーは「こちら」から! もしくはサイドバーのリンクからどうぞ!



▼ポチしておくれやす!▼

君が押したポチは~ ネットの海の中~♪
空に消えてった~ ランクアップ花火~(*´ω`*)


▼クリック クリックゥ!▼

テーマ:自作小説(二次創作) - ジャンル:小説・文学

コメント

コメントの投稿


管理者にだけ表示を許可する

トラックバック

http://mikenameko.blog.fc2.com/tb.php/13-3c3e7d8d

この記事にトラックバックする(FC2ブログユーザー)

«  | ホーム |  »

ブログランキング

↓ランクアップします! クリッククリックゥ↓



エロイムエッサイム~ エロイムエッサイム~
我は求め 一日一回ポチッたりぃ~

 

管理人に何でも質問!



 

周囲の皆様

 

旧ブログリンク

アクセスカウンター

 

最新記事

カテゴリ

連載小説 仮面ライダーアルズ

連載小説 マインドスイーパー


第1話 劣等感の階段 前編後編
第2話 血の雨の降る景色 前編後編
第3話 蜘蛛の城 前編後編
第4話 蝶々の鳴く丘で 前編後編
第5話 シロイセカイ 前編後編
第6話 奴隷マーケット 前編後編
第7話 ジグザグパズル 前編後編
第8話 あの時計塔を探せ 前編後編
第9話 name 前編後編
第10話 風の先に見えた 前編後編
第11話 晴れた空に浮かぶ 前編後編
第12話 スカイフィッシュ 前編後編
第13話 涙 前編後編

※旧ブログに飛びます。

 

Twitterの呟き

 

最新コメント

皆様の更新状況

RSSリンクの表示

ブロとも申請フォーム

QRコード

 

QR

 

権利表記

 

このページでは
株式会社スクウェア・エニックスを代表とする
共同著作者が権利を所有する画像を
利用しております。
当該画像の転載・配布は禁止いたします。

(C)2012-2014
ARMOR PROJECT/
BIRD STUDIO/
SQUARE ENIX All Rights Reserved

 

上記広告は1ヶ月以上更新のないブログに表示されています。新しい記事を書くことで広告を消せます。