2017-02

     本日の一言 : スマッシュブラザーズを空いた時間にやってます。ゲッコウガとロゼッタ使ってます。
     ☆仮面ライダーアルズ 第5話 デルザー軍団編 開始! 大好評 新規公開中!! 「かっと燃えるぜ正義の心
     【次回情報】 次回チャットライブは未定です。
     【出演情報】 30日(火)ハチベサさん主催 「ねるとん」 出演! 23:00- ガタラ採掘地区6759
     NEW!! 9月22日(月) ブログ記事更新!! 「今宵は大道芸語り+ヌンチャクさんの花火大会+はじめてのグラコス レポ

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仮面ライダーアルズ 第5話 かっと燃えるぜ正義の心

注:この小説は創作小説です。現存する団体とは一切関係がありません。

バックナンバーは「こちら」から! もしくは、サイドバーのリンクからどうぞ!



仮面ライダーアルズ
……Masked Rider Al-z

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第5話 「かっと燃えるぜ正義の心」

悪の秘密組織ブラックサタンによって親友を殺された城茂は!
自らブラックサタンに改造され電気人間となった!!
そして脳改造を逃れた後、ブラックサタンに復讐を誓った!!

――「仮面ライダーストロンガー」より




真名(まな)……。

彼女の名を呟いた。

その言葉は宙に霧散して、そして力なく消える。

どうしてだ。

どうしてそんなに、悲しそうな顔をする。

暗闇の向こうに立った、小さな人影。

白いワンピースに白い帽子を被った、小柄な女の子。

知っている。

あの子は、真名。

俺の大切な人だ。

なのに何故……何故お前は……。

そんな顔で、恐怖と悲しみで引きつった、不思議な顔で俺を見るんだ。

手を伸ばす。

その手はどんなに伸ばしても、真名に届くことはない。

この距離からでも分かる。

俺は、彼女に拒絶されている。

その事実に気づいた時、目の前が真っ暗になった。

真名、聞いてくれ。

俺は……。

……俺は……。

…………誰だ?

愕然とした。

自分の名前も、思い出せない。

俺は……一体。

何だ?



「実験体のサイキックウェーブ、急激に増大しました! これ以上の投薬は、チャンバーが保ちません!」

悲鳴のような研究者の声を聞き、椅子に座って長い足をテーブルに乗せていた城が顔を上げた。

彼は咥えていたタバコを指で摘み口から離すと、フーッ、と煙を吐いた。

「いざという時の責任はすべて俺が取る。実験は続行だ」

「しかし!」

「デルザー軍団にこのオーバーテクノロジーが渡る前に、何とかして解析して『処分』しなければいけない。お前らはその解析が仕事だ。分かるな?」

「ジョー司令、想定していたサイキックウェーブ出力を大幅に超えています。この実験体のサイキック反応は強すぎる! これ以上投薬すれば、何が起こるか……」

「暴走か。それを恐れてるわけだな」

城はククッと小さく笑ってから、足を翻して立ち上がった。

そして椅子にかけていた上着を手に取り、肩にかける。

「問題ない。『あれ』にはその心配はねぇよ」

「は……それはどういう……」

「そのために調整された個体だからな。報告を聞くと、風見さん達はどうやら、壮大な勘違いをしてるようだが……」

誰にともなく呟き、城は制止する研究員達を押しのけて、出口に向かって歩き出した。

「それをいちいち説明してるほど、俺は暇じゃないんでね」



「どうした? 食わないのか。体の8割が機械とはいえ、お前の体にはまだ血が通っている。食事の機能もあれば、脳が空腹を訴え続ると憔悴するぞ。有機物のパーツは消耗するからな。食べ物からそれを摂取する必要がある」

呼びかけられ、正彦は歯をかんで顔を上げた。

その目には、明らかな強い憎悪の感情が宿っていた。

睨みつけられ、ガッツはポリポリと指先で頬を掻き、手に持ったサンドイッチを口に運んだ。

「食わなければ、強くなれん。強くなれないということは、永遠に俺を殺せないということだ。それでもいいのか?」

淡々とそう言われ、正彦は目の前に置かれた食事のトレイを見下ろし、ゴクリと唾を飲んだ。

そしてパンを手に取り、口に思い切り詰め込む。

ガッツは、ものすごい勢いで食事を始めた正彦から少し離れた場所に立っていた。

デストロン壊滅から一週間。

正彦は、USシティの駐屯基地に軟禁されていた。

しかし軟禁と入っても、自由に外に出られないだけで、身体検査などは最小限のものだった。

ガッツの部屋に閉じ込められているのだが、彼の部屋は広いトレーニングルームのようになっていた。

とても軍人の部屋とは思えない。

それというのも、壁の至るところに、ジャパンシティ産だと思われるヒーローもののキャラクターのポスターが貼ってあったからだった。

喉にパンを詰まらせ、水で流し込んだ正彦がその一つに目を留める。

ガッツはスポーツドリンクを口に運んでから、巨大なバーベルを、片手で軽々と持ち上げた。

軽く見積もっても、百キロは超えている物体だ。

唖然とした正彦に、彼は無骨な表情を感じさせない顔で言った。

「俺は、ジャパンのヒーローが好きでな。創作ものもあれば、本物もいる」

「…………」

「例えば、それだ。お前の脇に貼ってあるポスター」

釣られて目をやった正彦の目に、緑の複眼に、カブトムシのような角を持った、アメフト選手に似たアーマーを纏った男が描かれたポスターが映った。

「最強の改造人間だ。力も技も、それは勿論のこと。だが、何より最強なのは……」

「随分持ち上げるじゃねぇか、ガッツ」

プシュ、と音がして自動で扉が開いた。

そして三十代後半程の、目付きの悪い男が中にズカズカと入ってきた。

身構えた正彦の前に、軍服のポケットに手を突っ込んだまま仁王立ちになり、彼は鼻を鳴らした。

「お前が拾ったと聞いて見に来たが。何だ……ジャリか。それもチビだ」

「な……何だお前!」

正彦は反射的に大声を上げた。

頭の中の何かが、彼に告げていた。

本能だろうか。

おそらくそれに近いものが、正彦の幼い心を叩いた。

この人は、危険だ。

半ば瞳孔が開いたような、妙に力がある目で彼は正彦をしばらく見回してから、身を屈めて、彼の食事トレイに乗っていたパンの一つを手にとった。

ゴツゴツした手には白い手袋が付けられている。

パンを口に運んでから、彼はガッツの方を見上げた。

「おいガッツ。飲み物くらい出せ」

「了解しました、司令官殿」

ニヤリと笑って頷き、ガッツは彼に、床に置いてあった携帯水筒を投げて渡した。

「司令官……?」

呟いた正彦に、水筒の中のスポーツドリンクを喉に流し込んだ彼が頷いて口を開く。

「俺の名は城茂。国連軍のUS駐屯部隊、その司令官をしている」

「お前が……お前たちが……」

正彦の脳裏に、無残に胸を貫かれる母の姿がフラッシュバックした。

「うああああ!」

次いで彼は絶叫し、トレイを蹴立てて立ち上がった。

何も考えずに殴りかかった正彦の拳を首をひねって避け、城はしゃがみこんだ姿勢のまま軽く正彦の手を掴んで、クイ、と捻った。

それだけの動作で、正彦の体が宙を舞った。

天井まで吹き飛ばされ、少年は背中から叩きつけられた。

そして自由落下して床に転がる。

胸を打ったのか、激しく咳をしている正彦を呆れたように見てから、城は服のシワを直して立ち上がった。

「悪ィな。たとえジャリであれ、向かってくる奴には容赦しねえことにしてるんだ」

「子供とはいえ改造人間です。侮ってはいけませんな」

ガッツが含み笑いをしながらそう言う。

視線を戻した城の目に、床をえぐるほどの力で足を踏み出し、雷の如き勢いと、殺気で肉薄した正彦の姿が映った。

「へぇ……」

少し感心したように呟いて、城は正彦が何も考えずに付きだした拳を、ひらりと後退して避けた。

そして軍服のポケットに手を突っ込んで、ポケットハンドの姿勢のまま、ひらひらと正彦の突き出す拳を避ける。

正彦は、デストロンに改造された改造人間である。

その拳が、簡易コンクリートの壁に突き刺さり、半ばまでめり込む。

繰り出された足が空を切り、床に打ち当たって放射状の衝撃痕を広げる。

城はしばらく正彦による破壊を、その攻撃を避けながら見ていたが、やがてふぅ、と息を吐くとポケットから右手を抜いた。

そして人差し指を伸ばして、トン、と正彦の額を叩く。

途端。

バヂィ! というスタンガンででも撃ったかのような衝撃が、正彦の体を襲った。

「うっ……!」

呻いて、正彦はその場に崩れ落ち、そのまま流れるように意識を失い、力なく床に横たわった。

「ふーん……中々スジがいいな」

「でしょう? 一週間ずっとこの調子です」

ガッツがニヤリと笑い、倒れた正彦を担ぎ上げる。

そして粗暴にベッドに投げ落として、毛布をかけた。

「だが……ガッツ。友人としてお前に忠告するが」

城はタバコを取り出し、口に咥えた。

そしてパチンと指を鳴らして、それに火をつける。

「憎しみに染まったガキ程、厄介なもんはねえ。俺達は正義を執行する者だ。守るべき者から憎しみをもらうことはない」

「…………」

「俺は、このジャリを殺しておくことを勧めるがね」

「司令。分かってるでしょう?」

ガッツは腰に手を当てて、軽く笑った。

「俺たちアメフト仲間は、脳みそまで筋肉で出来てるってことを」

「成る程」

煙草の煙を吐き出し、城は笑い返した。

「確かに、お前も俺も、馬鹿だもんな」



「新生デストロンは壊滅したか……」

暗い、地下室のような空間に、低くよく通る声が響いた。

そこにいたのは、十二人の男女。

三角形に尖った黒い覆面を被り、体は黒いマントで覆われている。

一人がクックと喉を鳴らして笑った。

「一人で出てった鋼鉄参謀は馬鹿だったからな。俺なら『もう一度』ストロンガーに敗れるようなヘマはしねぇ……」

「ふん……影でのらくら言うようなことなら、赤子にだってできるわ」

その隣にいた女性が口を開くと、笑った男は椅子を蹴立てて立ち上がった。

「何だと! お前、俺が鋼鉄より弱いとでも言いてぇのか!」

「それはそれは……私から見れば、あんたら脳筋男は、どれも同じに見えるがね」

「やめないか、二人とも」

一人男が手を上げて二人を制止する。

「新生デストロンは壊滅した。これは確かだ。私達『新生デルザ―軍団』は、奴らデストロンの壊滅を真摯に受け止め、敵に対処していかねばならない」

「でもよぉ~、ジェネラルシャドウ。デストロンが壊滅したって言ってもよ、奴らはオレたちと比べてさ、その、『弱い』じゃん? いつかはこうなると思ってたぜ。俺は」

別の男が馬鹿にしたように手を広げて言うと、周りはそれに同調するように、喉を鳴らして笑った。

ジェネラルシャドウと呼ばれた男は、ため息をついて、上座に座っている男の方を向いた。

「悪魔元帥。この度の鋼鉄参謀の敗北をどうお考えですかな?」

「…………」

声をかけられた、悪魔元帥と呼ばれた男は、しばらく沈黙した後重苦しく口を開いた。

「……我らは前のデルザー軍団ではない。諸君らの戦闘力は、以前の仮面ライダーストロンガーなら一蹴できるほどの力があるだろう。勿論、個々での話だ」

周りを見回し、悪魔元帥は続けた。

「しかし、仮面ライダーもまた我らと同様進化する。鋼鉄参謀は、新造されたライダーの破壊に単独で赴き、失敗したとも聞く」

「ククク…………」

そこで、少し離れた場所に座っていた男が口を開いた。

「敵を倒したいなら、まず自分達の団結力を見直したらどうだ? 元帥」

パキィッ、と音を立て、彼……二十代半ばほどの端正な顔つきをした青年は、右手に持っていたクルミの実を、片手で粉々に砕いた。

彼だけ覆面とマントを着用していない。

ジーンズに、白シャツというラフな姿。

そして肩まで伸びた長髪が目立つ、美青年だった。

彼は床に足を投げ出して腰を下ろしていたが、左手でクルミの中身をつまみ、口を開けて落とした。

それを咀嚼しながら立ち上がり、パンパンと手を払う。

「結城正儀(ゆうきまさき)。悪魔元帥の御前だ。頭が高いぞ」

ジェネラルシャドウに語気を強く注意されるも、正儀と呼ばれた青年はバカにしたように肩をすくめ、十一人の男女に背を向けた。

「俺は、あんたらの仲間になったつもりも、部下になったつもりもないんでね。悪いが、好きにやらせてもらう」

「貴様ァ……人間風情が!」

男のうちの一人が、手にしていた鎖を、間髪入れずに正儀に向けて投げつけた。

一直線に飛来した鎖を、正儀は振り向きざま手で掴んだ。

そして

「フンッ!」

と気合を入れてそれを捻り上げる。

一瞬後、その鎖はザァァァ……と乾いた音を立てて砂と霧散し、宙に飛び散って消えた。

「…………」

それを見た十一人の男女の間に、緊張が走った。

殺気をむき出しにして、明らかに様子がおかしい雰囲気の者もいる。

「だが……その新しい『兵器』、国連軍の新仮面ライダーとやらには興味があってね。無用な兵器は破壊するべきだと思っている」

暗い表情の奥に、どこか狂気を宿した正儀は、目だけを妙にギラつかせながら笑った。

「過ぎた力は、正しく使わなければ悪となる。その点では、俺はあんた達に期待してるんだぜ? その期待を……」

手に残った砂を振り落とし、彼はポケットに両手を突っ込んで、出口に向けて歩いて行った。

「裏切らないでくれよ。化け物ども」

「…………」

それを黙って見送っている悪魔元帥に、ジェネラルシャドウが問いかけた。

「いいのですか? 好きに動かせてしまい……」

悪魔元帥は少し考えてから、静かに言った。

「良い。結城の件については全てを不問とする」

歯を噛んで、先ほど鎖を投げつけた男が一歩下がる。

「奴には利用価値がある。我らのプロジェクトには、欠かせない存在だ。そして何より……」

小さく笑いながら、悪魔元帥は続けた。

「奴は裏切らん。自分の『正義』のためにな」



すさまじいイビキが、部屋の中に響いていた。

正彦は目を閉じていたが、やがて眠るのに失敗して、毛布を跳ね除けて起き上がった。

「あああ! うるさい!」

大声でガッツを怒鳴りつける。

その瞬間、ガッツのイビキは止んだが、やがて数秒経つと元通りに、すさまじい音量で響き始めた。

正彦はうんざりした顔で、靴を履いて立ち上がった。

毎晩こうだ。

少し離れたベッドに大の字になって眠っているガッツ。

憎い。

お母さんの仇。

殺してやりたいほど憎いのは現実なのだが、あいつは強い。

それはこの一週間の間に、痛いほど分かっていたことだった。

眠っているところを襲撃したことがある。

しかし、半ば眠っている状態で叩き伏せられてしまい、むしろ手加減がうまくできなかったようで、手痛い反撃をもらってしまったのだった。

寝ている時には手出ししないほうがいい。

そう思って耐えていたのだが、こううるさくてはおちおち眠ることもできない。

しかし、正彦には、ガッツの真意がどうしても読めなかった。

どうしてあいつは、僕を殺さなかった?

お母さんを、あんなに躊躇なく殺しておいて。

お父さんも、見ていないが多分あいつが殺したんだ。

なのにどうして僕を保護するんだ?

保護というよりは、むしろ本当の子供のように、手厚く守っているようにも見える。

あいつは悪い奴で。

血も涙もない軍人じゃないのか?

それを考えると、心の奥にもやもやが浮いてきて、居ても立ってもいられない気分になるのだった。

ガッツはどこか抜けているところがある。

正彦は閉じ込められてはいるのだが、建物の窓が鍵もかからず空いていることには気づいていた。

ガッツを殺せなかった時。

あいつのイビキがうるさすぎる時。

そして、心のもやもやがどうしても取れない時。

正彦は窓から抜け出し、US駐屯基地の屋根に出て、夜風に当たることにしていた。

屋根の上に降りて、風を体で受ける。

背後からガッツのイビキが聞こえてくる。

殺してやりたいほど憎い。

憎いはずなのに……。

何故だろう。

憎みきれない自分がいる。

屋根の上を歩いて、先端部分に向かう。

どこまでも広がる砂漠の、オアシス部に基地は立っていた。

背後には、ジャパンシティの何倍もの大きさがあるUSシティが建っている。

スラム街の大きさも、規格外だ。

逃げることもできた。

できたが、正彦の目的はガッツを殺すことだ。

そしてあわよくば……。

あの、高飛車な嫌な奴……。

城茂も、一緒に……。

そこまで考えた時、正彦は足を止めた。

いつも月を見上げているところに、先客がいたからだった。

「……あ……」

情けない声が出た。

あわよくば一緒にぶち殺してやろうと思っていた男。

城茂が、無防備にタバコを吸いながら横たわっていたからだった。

城は首だけひねって正彦を見ると、フーッ、とタバコの煙を吐いた。

「何だ……ジャリか」

興味がなさそうに呟き、また月を見上げる。

フリーズしていた正彦は、やがてふつふつと沸き上がってきた怒りを抑えることができずに、歯を噛んで足を踏みしめ、声を上げようとして……。

「あーあー、やめておけ。よーく分かっていることだろうが、今のお前では俺達は殺せん。それに、戦闘態勢に入るまでが長すぎる。戦いを選ぶんなら、常に精神は臨戦態勢にしておけ」

ひらひらと手を振った城の声に、足を止めた。

言い知れぬ悪寒。

殺気。

一瞬だけだが、それが城の方向から発せられ、正彦にとっては形容する言葉が見つからない「危険信号」を察知し、彼は動きを止めたのだった。

「へぇ……」

それを見て、城は体を正彦の方に向き直らせて、その場にあぐらをかいた。

「やっぱ筋がいいね、お前。天性のもんか」

「あんた……」

正彦は歯を噛んで、ぐっと言葉を押し殺した。

そして両手を握りしめ、震える背中を城に向ける。

ダメだ。

今の自分じゃ、こいつは倒せない。

本能的な部分でそれを痛いほど感じてしまったのだった。

「戻っても、ガッツのイビキで寝れねえだろ?」

笑ってそう言われ、足を止める。

「どうした? こっちに来いよ。別にお月様は観覧料をとったりはしねぇからよ」

城が手招きして、正彦を呼ぶ。

少年は、ポカンとそれを見つめ、長い間考えた末、ゆっくりと足を踏み出した。



少し離れた場所に座った正彦に、寝転がりながら城は口を開いた。

「どうだ? ガッツをぶっ殺す作戦は上手くいきそうか?」

「…………」

無言で自分を睨みつけてきた正彦に笑いかけ、城は続けた。

「まぁ、仲良くしようや。昼間ふっ飛ばしたのは謝るよ。抑えが効かないタチでな」

「人殺しめ……」

正彦は押し殺した声で呟いた。

「お前達、絶対許さないからな……」

「ハハッ、それならそれでいいさ」

正彦の憎しみの呟きに返ってきたのは、意外にもそれを「肯定」する声だった。

目を見開いてこちらを見た正彦に、城は肩をすくめて言った。

「だって、それはお前が解決しなきゃいけない問題だからな。俺からどうこうは言えねえ。お前がよく考えて、ガッツや俺を、それでもなおかつぶっ殺さなきゃ気がすまねえっていうんなら。俺はそれでいいと思うよ。出来るか出来ないかは、別問題としてな」

「…………」

「だが、これだけはよく覚えておくといい」

城は立ち上がると、月に向けて右手を高く掲げてみせた。

「俺は城茂。『仮面ライダーストロンガー』だ! 誰が何と言おうが、俺は俺の行動に誇りを持っている。ガッツも同じだ。俺達は微塵も間違ったことはしていねえ」

「…………」

「そして俺達が、その『心の誓約』を破った時。それは俺達の心が死ぬということだ。だが決して俺達の心は折れねぇ。そう、折れねぇんだ。二度とな」

手を降ろし、彼は正彦を真っ直ぐ見つめた。

「お前達子供には、俺はそういう大人になってほしいと願っている」

正彦はだいぶ長いこと、城の顔を見つめていた。

やがて声を発しようとして……。

そこで、駐屯基地の入口で大爆発が上がったのを見て、反射的に身を縮めた。

真っ赤に燃えた空気の照りを真正面から浴びて、城は腕組みをしてニヤリと笑った。

「来たか……デルザー軍団。この反応は一匹じゃねぇな……いい機会だ、ジャリ。ガッツをぶっ殺す手伝いをしてやる!」

「え……?」

「実戦ってもんを、その平和ボケした目に見せてやるって言ったんだ。耳の穴もかっぽじって、よーく感じろ!」

城はそう怒鳴ると手袋を脱ぎ捨てた。

そこから現れたのは、コイル状になった機械の腕だった。

彼は両手をゆっくりと天に向けて掲げた。

「変ッ身……」

そして体の左側に両手を持ってきて、左手を右手で勢い良く擦る。

「ストロンガー!」

正彦の目に、網膜が焼けるのではないかというくらいの強烈な放電が飛び込んできた。

雷が落ちたと錯覚した程に、すさまじい黒焦げが辺りに広がる。

その中心に、白い煙を上げながら、一人の「仮面ライダー」が立っていた。

「ついてくるもこないもてめぇの自由だ! 俺は行くぜ!」

彼はそう怒鳴った。

緑の複眼。

カブトムシのような角。

赤いプロテクター。

そして、白いマフラー。

ガッツの部屋に貼ってあったポスターそのもの。

最強の改造人間。

仮面ライダー、ストロンガーが立っていたのだった。

彼は雄叫びをあげると、遥か下の地上に向けて身を躍らせた。

正彦は少しの間躊躇していた。

しかしやがて唇を噛むと、ストロンガーを追って地面を蹴る。

彼の小さな体は、次の瞬間空中に飛び出した。



「ナンバーゼロと司令はまだか!」

「くそっ、無線が通じない……うわああ!」

あたりを揺るがす地震のような衝撃。

地面に放射状に、クレーターのような衝撃痕が広がった。

そこから鮮血が飛び散る。

返り血でベトベトに濡れた顔面を怪しく光らせ、その男……「岩石男爵」は、ぬぅっ……と鈍重そうに二メートルは軽く超えている巨体を動かした。

衝撃痕は、岩石男爵が落下した際のボディプレスにより発生したものだ。

その下敷きになって、黒いボディスーツを着た軍人達が倒れている。

岩石男爵……その醜い顔は、まるでケロイドのように岩がところどころ張り付いているものだった。

体にも岩が張り付いている。

彼は握りこぶしを作ると、長大なナイフを手におどりかかった軍人達を、一振りで凪ぎ飛ばした。

「クワー!」

そこで空中から、すさまじい速度で一人の「人間」が降ってきた。

否。ヒトではない。

顔面が猛禽類……ワシの顔をした男。

荒ワシ師団長だ。

彼は倒れかけた軍人に、手にした斧を振りかぶり、力の限り叩きつけた。

袈裟懸けに斬られた軍人が、鮮血を吹き上げながらもがき、倒れる。

「おいおい、ゲームの一番手は岩石じゃなかったのか?」

ズボンのポケットに手を突っ込んで、頭部に檻のような鉄の囲いを付けた、猛獣、狼の面をした男が、猫背で歩きながら口を開いた。

狼長官である。

三体のデルザーは、間に妙な緊張感を挟みながら動きを止めた。

「関係あるか。一番最初にストロンガーを殺すのはこの儂だ」

荒ワシ師団長がバカにしたように言う。

「へへ……なら、俺も黙っちゃいられねぇな!」

狼長官がそう言って、手にした尖ったステッキを振りかぶり、飛びかかってきた軍人に投げつける。

それは一直線に軍人の胸を貫き、やられた男はどう、と倒れた。

「き、きさまら。やくそく、ちがう。て、だすな!」

両拳を握りしめ、岩石男爵が大声を上げる。

それに、ステッキを拾い上げた狼長官が嘲るように答えた。

「結局はやったもん勝ちってな。何なら、今ここでてめーら二匹、まとめて始末してから、ストロンガーを殺ってもいいんだぜ?」

「なに?」

「何じゃと……?」

岩石男爵と荒ワシ師団長の顔色が変わる。

地面に降り立ち、荒ワシ師団長は斧を狼長官につきつけた。

「訂正しろ。お前が、儂らより強いとな」

「事実だ。訂正のしようがねえよ」

クックと喉を鳴らして言った狼長官に、岩石男爵が振り上げた腕を、一気に振り下ろした。

狼長官が飛び退ってそれを避ける。

対象を失った巨大な腕が、地面にぶちあたり衝撃痕と、砂煙を吹き上げた。

「チィ。単細胞が……!」

「こ、ころす。じゃまするやつ、み、みんなてきじゃ……!」

岩石男爵がボソボソと呟く。

その時だった。

「電ンンンン! パンチィ!」

白い閃光が三体の間を駆け抜け、狼長官の胸に吸い込まれた。

地面が一直線に真っ黒に焦げている。

仮面ライダーストロンガー、城茂が、真っ白に帯電しながら目にも止まらない速度で駆け抜け、狼長官に拳を叩き込んだのだ。

狼長官は立ったまま後ろにスライドすると、数メートルも後退して止まった。

その胸が真っ黒に焦げているが、本人は至って気にしない風にそこをパンパンと手で払った。

「ダイナモを使わないと通じないか……」

「おお~誰かと思えばストロンガーじゃないか」

狼長官が両手を広げて楽しそうに言う。

その瞬間、荒ワシ師団長と岩石男爵の顔色が変わった。

彼らは地面に足を固めたストロンガーに向き直ると、クックと喉を鳴らして笑ってみせた。

「結局俺たちデルザーは、てめぇを倒すために存在している。誰が最初とか、後とか、『現物』目の前にしちゃ意味ねぇ議論だな」

狼長官が低い声で呟くように言う。

デルザー軍団の三体が、城を囲むようにじりじりと移動した。

包囲された形になった城は、空を見上げて舌打ちをした。

視線の先には、空に燦々と輝く満月。

狼長官はニヤァ、と裂けそうなほど口を開いて笑った。

「気づいたようだな。満月のプラズマを吸収した俺に、今のてめぇじゃ勝ち目はないってことをな」

バチッ……と狼長官の体から青い放電が走った。

プラズマ。

彼は、それを発生させることができる改造人間だ。

勿論ストロンガーは、体内に埋め込まれた超電子ダイナモの力で、さらに強力な姿に二段変身することができる。

しかしそれには時間制限がある。

一分を過ぎると、体が負荷に耐え切れず爆発。

そう、二段変身「チャージアップ」は、諸刃の剣なのである。

チッチッと指先を振り、荒ワシ師団長が笑った。

「お前はこう考えている……儂ら三人を、チャージアップの一分間に仕留めることができるのかとな」

「ゲッゲッゲ……」

岩石男爵も不気味な笑い声を発した。

「無理じゃな」

「ああ、無理だ」

「ゲゲゲ……」

三体が続けて口を開く。

城はそれを黙って聞き、構えを作った。

「どうしたストロンガー。待ってやっているんだ……早くチャージアップしたらどうだ?」

狼長官が挑発するように言う。

城はしばらく黙っていたが、やがてクックと喉を鳴らした。

そして心底面白そうに、大声を上げて笑い出す。

そして右手を天に向けて高く伸ばした。

「天が呼ぶ! 地が呼ぶ! 人が呼ぶ!」

彼の朗々たる声に、倒れていた軍人達が、血反吐を吐きながら顔を上げる。

「悪を倒せと俺を呼ぶ! 聞けィ! 悪人共!」

「クッ……」

無視された形になった狼長官が、顔を歪める。

「俺は仮面ライダーストロンガー! 貴様ら外道共の指図は受けん!」

「そうか。なら死ね!」

荒ワシ師団長が斧を振りかぶって襲いかかる。

その時だった。

すさまじいエンジン音と共に、瓦礫を踏み越えて巨大なバイクが現れた。

時速にして二百キロは軽く出ているだろうか。

視認さえも難しい速度で、それは荒ワシ師団長に前輪から突き刺さった。

跳ね飛ばされた荒ワシ師団長が、よく分からない青い液体を吐き散らしながら吹き飛んで、地面に突き刺さる。

ゴロゴロと転がったそれに、数十メートルもスライドして止まったバイクの上から、巨体が躍りかかった。

「先程の言葉をそのまま返すぜ、狼長官」

ストロンガーが嘲るように言う。

「百裂拳! 死ねえええ!」

咆哮を上げながらガッツが、無数の拳を荒ワシ師団長に叩きこむ。

「ゲバァァ!」

変形した頭部で、荒ワシ師団長はよろめいて、たまらず空中に飛び上がった。

「俺達を殺す? ……無理だね」

「チェンジコード! フライングアームド!」

ガッツが右腕につけた腕時計のようなものに向けて叫ぶ。

そこで、鈍重なバイクが独りでに動いた。

ライトが周囲をまばゆく照らし、車体が起き上がる。

そしてガパァッ! と胴体部分が開いた。

人が一人入れそうな空間がある。

ガッツがそこに背中から滑りこむと、バイクが所々変形しながら彼の体にまとわりついた。

数秒後、真っ黒な鎧のように変わったバイクをまとったガッツの背中、そこに装着されたエンジンが点火し、真っ赤な火を吹いた。

「ジェット昇竜ゥゥゥ! アッパー!」

一本の光の線のようになった、最大出力で空中に向けて吹き飛んだガッツの拳が、荒ワシ師団長の胴体を貫通し、粉々に吹き飛ばした。

空中で分解された荒ワシ師団長の胴体が、動力炉から大爆発を上げる。

ズゥン……とストロンガーの背後に降り立った、全長三メートルはある鎧をまとったガッツが、ファイティングポーズを作った。

「司令、すまん! 遅れた!」

「丁度今始まったところだぜ。戦いの狼煙を盛大に上げたな」

淡々と言った城に、仲間が爆死したというのに、顔色一つ変えない狼長官と岩石男爵が、それぞれ戦いの構えをとった。

「ナンバーゼロか……オーバーテクノロジーによる兵器人間。まさかバイクが装甲になるとは、知らなんだ」

狼長官が押し殺した声を発すると、城は肩をすくめて見せた。

「知ってるわけがねぇ。これが初運用だからな」

そして城は狼長官を指さした。

「そして誰もこれからも知ることはない。何故ならてめぇら二匹、ここで葬られるからだ」

「奇襲で荒ワシをぶっ殺したくらいで調子に乗るんじゃねぇぞ。電気人間が」

「進化のねぇプラズマ狼が。かかってきな」

クイッ、と指先を曲げて城が狼長官を挑発する。

対して、向き直ったガッツが、ためらいもなく装甲をきしませながら、岩石男爵に躍りかかった。

岩石男爵が手を伸ばし、同等サイズの大きさになったガッツの両腕を掴んで止める。

「胸部カッター全開! 大・切・断!」

ガッツが叫ぶと、バイクの胸部に当たる装甲がバクッ、と開いて、中から回転する楕円形のチェーンソーが飛び出してきた。

それに頭部から腰までを真っ二つに切断され、岩石男爵がよろめく。

チェーンソーが胸部に収納され、とどめを刺そうとしたガッツだったが、その腕が止まった。

両断されたはずの岩石男爵が、両腕でそれぞれ離れようとする自分の体の端を掴み、押し戻したのだった。

切断面が溶けるように接着され、数秒も立たずに元に戻った彼が、ガッツの頭上に腕を振り下ろす。

すさまじい衝撃がガッツを襲い、彼の足元に放射状に打撃痕が広がった。

「お、おまえ……じゃまだな……」

「ジーザス……!」

一撃でガッツの纏っているバイク鎧の各部から火花が散り始めた。

「始まったな……俺達もおっ始めるとしようぜ」

首の骨を鳴らした城に、狼長官はくぐもった低い声で返した。

「舐めるなよ……」

バチバチバチと音を立てて青白い放電が空中に走る。

「舐めてないさ。馬鹿にしてるだけでな!」

城はそう叫ぶと、地面を蹴り真っ白い閃光となった。

「電ンンンンンン! キィィィィック!」

雄叫びとともに放たれた真っ白い光の蹴りを、狼長官は両腕で受けた。

青白い放電と白い放電がぶつかり合い、周囲に雷のような電気、プラズマの入り混じったモノが降り注ぎ始める。

「貴様の電気技など……効くかよォ!」

青白い光と化したステッキを振りかぶり、狼長官はそれで城を殴りつけた。

左手でそれを受けた城の、ステッキと接触した部分が大爆発を上げた。

「グゥッ……!」

吹き飛ばされて地面を転がった城に、狼長官が地面を蹴り落下の勢いそのままに飛びかかる。

「プラズマァァ!」

絶叫とともに放たれた青白い、直径五メートルはある巨大な雷が、城を直撃した。

一瞬彼の体が見えなくなり、地面に円形の穴が土煙と共に出現する。

その中心で、プラズマが収まった後、真っ白い煙を体中から上げた、黒焦げになったストロンガーが、ふらりとよろめいた。

しかし彼は地面を踏みしめ、またしっかりと立つと、体中から白い煙を吹き上げながら、落下してくる狼長官に向けて拳闘の構えをとった。

「ジャリ! 見てるか!」

数十メートル離れた瓦礫の端に隠れていた正彦に向かって、城は叫んだ。

「敵に弱みは一切見せねぇ! それが! 男ってもんだ!」

風が吹いた。

マフラーを宙にたなびかせて、仮面ライダーストロンガーは地面を蹴った。

「電キィィック!」

空中で体勢を反転させ、城は青白い光となって突撃してきた狼長官と、足先で激突した。

爆音とともに周囲に白と青の光が吹き上がり、拡散する。

ストロンガーの姿がそこで真っ赤に発光した。

「チャージアップ!」

「月よぉぉ!」

狼長官も呼応するように叫ぶ。

目が焼けるほどの青い光が、狼長官の体から発せられた。

「超電子ィィィィィ!」

城はそう叫ぶと、空中でグルグルと体を回し、足を青白い光の塊に向けて叩きつけた。

大爆発が上がった。

狼長官の体が青白い雷となって地面に突き刺さる。

土煙を切り裂くように、そこに真っ白い閃光となったストロンガーが飛来した。

「稲妻ァァァァ!」

「チィィィィ!」

狼長官が絶叫して、手にしていたステッキを城に向けて投げつける。

しかしそれは、城の体に突き刺さる寸前で、ジュッと蒸発し霧散した。

「キィィィィィック!」

狼長官の頭を消し飛ばし、ストロンガーは数十メートルも地面を滑り、そして止まった。

ストロンガーの発光が収まり、体の色が元に戻る。

頭部を失った狼長官は、しばらくふらふらと揺らめいていたが、やがてその体からフッ、と光が消え、倒れた。

次いで炎の柱を吹き上げて爆裂する。

辺りに、昼かと見間違うくらいの閃光が広がった。



「ふん……単細胞の馬鹿共が。やはり任せてはおけないか……」

少し離れた高い場所で、腕組みをして一連の戦いを睨むように見つめていた男……結城正儀が呟いた。

彼は乗っていたバイクの後部座席を開き、そこから青いヘルメットを取り出した。

目までを覆う形になっていて、目の部分には赤い複眼。

そう、仮面ライダーの口から上の部分が、そのヘルメットには造形されていた。

「ハァ!」

気合の声と共に、結城はそのヘルメットを天に掲げ、頭に勢い良くはめた。

一瞬、周囲に白い光が走った。

それが結城の体に纏わり付き、黒いスーツを形成する。

仮面ライダー。

しかし、口元を覆うクラッシャーの部分がなく、生身の口がむき出しになっている。

銀色のフィストガードをきしませ、黄色いマフラーをたなびかせながら、結城はクックと小さく笑った。

それは、どこか影を感じさせる暗い笑みだった。

「軍のオーバーテクノロジーは過ぎた玩具だ。破壊しなきゃな」

彼はバイクにまたがると、エンジンを吹かし、一気に眼下の戦いの場に飛び込んだ。



「何だ……この反応は……」

チャージアップが終わり、肩で荒く息をしたストロンガーが、顔を上げて呟く。

「丈二さん……?」

視線の先に、大型バイクを駆ってこちらに突撃してくる、一人の男の姿。

城は複眼を光らせながら、立ち上がった。

「この反応は間違いない! 丈二さんだ。だが、あの人はもう……」

岩石男爵と組み合っていたガッツが、アームドバイクをきしませながら、巨大な腕を振り上げ、男爵の頭に叩きつけた。

青い液体を吐き散らして、首が折れたのか、岩石男爵はよろめいてズゥン……と倒れた。

しかしその瞳はすぐに生気を取り戻し、首の骨もパキパキという乾いた音を立てて再接合される。

「不死身か……!」

「し、しね……!」

起き上がった岩石男爵が、ガッツに向けて体を丸めて強烈なタックルをする。

しかしガッツはそれを真正面から受け止めると、各部から火花が散っている鎧の中でニヤリと笑った。

「俺にアメフトを挑むとは……嫌いじゃねぇな! そういうの!」

振り上げたガッツの腕、その肘の鎧の部分から炎が噴射された。

「ロケットォォォ!」

そう、まるでロケットのように。

ガッツの拳は目にもとまらない勢いで岩石男爵の頭部に吸い込まれた。

「パァァァアンチィッ!」

振りぬいた拳の先で、バァァン! と岩石男爵の頭が爆裂する。

「再生する暇は与えん!」

ガッツは雄叫びを上げて、頭部がなくなってもまだ立っている岩石男爵の体を掴むと、思い切り上へと放り投げた。

鎧の背部ブースターが点火し、彼は一瞬で投げ上げた岩石男爵よりも上に吹き飛んだ。

「ライダァァア!」

再生を始めた岩石男爵の頭部。

その崩れた顔面の目が見開かれる。

「ジェット! キィィィック!」

光の線になって突き刺さったガッツと岩石男爵が、地面に激突する。

打撃痕のみならず、砂煙を吹き上げ、その中心にいた岩石男爵の動力炉が潰れたのか、一瞬後、天を衝く大爆発が上がった。

それを背に、起き上がったガッツがストロンガーの方に歩き出す。

「司令、片付きましたぜ。他には……」

「いかん! ガッツ、避けろ!」

城が慌てて大声を上げる。

顔を上げたガッツの目に、こちらに向けて突進してくる大型バイクの姿がうつった。

「何ィ……!」

乗っていた男がボタンを操作すると、バイクの前面に、巨大な銛のような刃が競り上がった。

その凶悪なモノを、先ほどガッツが荒ワシ師団長にしたように、猛烈な速度のまま突撃し、ガッツにぶち当てる。

「うおおお!」

思わず声を上げたガッツの鎧、その胸部装甲が粉々に砕け、銛がガッツの胸に突き刺さった。

「ぐ……!」

呻きながら彼は後ろに吹き飛ばされた。

バイクに乗っていた男は、ペダルを蹴って飛び上がると、空中を軽業師のように回ってそこから離れた。

そして地面に着地し、手にしていたリモコンのスイッチを入れる。

次の瞬間、突撃したバイクが真っ赤に発光し……大爆発を上げた。

ガッツが空中に跳ね上げられ、白い煙をたなびかせながら弧を描いて、受け身も取れずにドチャリと地面に崩れ落ちる。

アームドバイクは胸の部分が完全に潰れて、計器類がむき出しになり、放電が至る所から漏れていた。

ガッツ自身の胸も抉れるように穴が空き、バチバチと白い光が上がっている。

複眼を明滅させながらよろめきつつも立ち上がったガッツを見て、飄々と立った男……結城は意外そうに口を開いた。

「頑丈だな……ライダーマンマシンMk-IIの爆発を受けても分解されないとは。少々驚いた」

「貴様は……!」

押し殺した声を発して顔を上げたガッツが息を呑む。

「ライダーマン……?」

思わず呟いた彼に、『ライダーマン』と呼ばれた結城は返した。

「それは過去の名だ。今の俺は修羅……俺は、世界を救う鬼となっている!」

叫んで、彼は両手を勢い良く振った。

「ツイン! チェンジアーム!」

その左腕が白く光り、一瞬後、巨大な鉤爪のついた機械の腕に変質する。

右腕は爪が異様に長く伸びた、やはり機械じかけの、猛禽類のような形に変形した。

「チェーンアーム!」

結城が叫んで、左腕の鉤爪を勢い良くガッツに向けて振る。

鉤爪の部分が火を吹き、弧を描いて射出された。

腕の部分にチェーンが仕込んであり、鋼鉄のそれが怪しく光る。

鎖は勢いよく伸びると、一瞬でガッツの頭部にグルグルと巻き付いた。

「デストラクションアーム! 起動ォ!」

右手がガパァ、と開き、手の平の部分が真っ白に発光を始める。

自動でチェーンが巻き取られ、ガッツの巨体が簡単に引きずられて結城のところまでスライドした。

「何だ……この力は……!」

もがくガッツに、結城は発光している右腕を振り下ろした。

ガッツがとっさに鎧の腕でそれを受ける。

次の瞬間、右腕に掴まれた鎧が、ドパァン!と音を立てて黒い砂になり、空中に飛び散った。

「何……!」

「破壊させてもらう! オーバーテクノロジー!」

結城がそう叫んで、右手をガッツの頭部に再度振り下ろそうとする。

「電ンンンン! パンチィ!」

そこで城の声が響き、白く明滅する拳が、結城の頭部に向けて繰り出された。

結城はしかし、それをいち早く察すると、ガッツから飛び退って体を離した。

そして柔術の構えをとりざまに、城の腕を横に流す。

「くっ……」

歯を噛んだ結城の、電パンチがかすったスーツが真っ黒に焦げている。

城は結城に構わず、ガッツの腕を掴むと肩に担ぎ上げ、飛び退って彼から距離をとった。

「何をするんだ、丈二さん! それに、その腕は……!」

声を上げた城を面白くなさそうに一瞥し、結城は両腕を振った。

白い光が拡散して腕に集まり、元の銀色の手を構成する。

「俺の名前は結城正儀(ゆうきまさき)……お前たちが『ライダーマン』と呼ぶ、結城丈二(ゆうきじょうじ)の息子だ!」

「何だって……?」

愕然として口をつぐんだ城に対し、結城は嘲るように言った。

「さすがにストロンガーを真正面から相手にして勝てるとは思わないからな。今回はこれを手に入れただけで良しとする」

ポン、と空中に放り投げたキューブ状の物体を掴み、結城は笑った。

「それは……アームドバイクのコア! いつの間に抜き取りやがった!」

ガッツが怒鳴るも、核を取られた鎧は、ただの鉄の塊として、逆に彼の体を押さえつけ、拘束していた。

動くことができないガッツを鼻で笑い、結城は続けた。

「仮面ライダーナンバーゼロ。お前はいずれ破壊する。それと……」

結城は呆然としてこちらを見つめている城に言った。

「この世界はデルザー達『改造人間』により、じきユートピア(楽園)に変わる。その新時代に、お前たち仮面ライダーは不要だ」

首を掻っ切る仕草をして、ライダーマン、結城正儀は笑った。

「いずれ消えてもらう。じゃあな!」

結城はそう叫ぶと、手にしていたリモコンを操作した。

爆発したバイク、ライダーマンマシンの残骸が、独りでに寄り集まり、数秒も経たずに元の黒い大型バイクを形成する。

それに乗り込み、猛スピードで彼はシティと反対方向に走り去った。

「くそっ……逃げられる! 司令!」

ガッツに怒鳴られ、城がハッとして彼を見る。

「チッ……今からカブトローを出しても追いつけねぇ。してやられたな……」

押し殺した声で城が呟く。

ガッツは体を押さえつけている鉄の塊を振り払って、立ち上がった。

その胸に空いた大穴から、バチバチと放電が走っている。

彼は、恐る恐ると言った具合でこちらに近づいてくる正彦を見て、発しかけていた言葉を飲み込んだ。

「よう、やっと来たか。ジャリ」

城がそう言ってその場にあぐらをかく。

正彦は両拳を握りしめ、ガッツを睨みつけた。

そして何度か言葉を発しようとして失敗し、やがてかすれた声で言った。

「ゆ、許さないからな……」

「…………」

傷だらけの姿で、ガッツが黙ってそれを聞く。

「次負けたら……絶対に、絶対に許さないからな!」

そう言い捨てて、正彦は二人に背を向けて、基地の方に走り去った。

彼の姿が消えてから、城は喉を鳴らして笑った。

「ハハッ、面白ェ奴」

「でしょう? 筋がいい」

ガッツが頷いて笑い返す。

しかし彼らはすぐに笑みを止めると、結城が走り去った方向を見た。

「結城正儀……ライダーマンに子供がいたのですか? そして敵に協力している。どういうことだ……」

ガッツが呟く。

城はしばらく沈黙していたが、やがて体の埃を払って立ち上がった。

「難しいことは後だ。やることは山ほど残ってるからな。ガッツ、お前は壊したアームドバイクの始末書だ」

「うへぇ。相変わらず人使いが荒い」

「新品をそこまで初戦でブッ壊せる奴はそうそういねぇからな。だが、気になるな……」

息をついて、城は呟いた。

「……アームドバイクのコアなんて手に入れて、何をするつもりだ……?」



「結城正儀! 何故ストロンガーもナンバーゼロも破壊せずに、おめおめと逃げ帰ってきた!」

黒い三角形のマスクをつけた男……ジェネラルシャドウに怒鳴られ、結城は薄暗い地下室の中、椅子に座って何かをいじりながら、そちらを一瞥もせずに答えた。

「おいおい……無理を言いなさんな。戦いには勝機ってもんがある。元はといえばおタクらのバカ三人組が先走って俺を置いていったのが悪いんだぜ?」

「クッ……」

「さすがに真正面から、手駒もなしで仮面ライダー二体を相手にできるとは思わねえ」

「貴様……我らのことを手駒とぬかしたかな……」

押し殺した声を発したジェネラルシャドウに、結城は肩をすくめて言った。

「どうかな? おタクらが俺に対して同じようなことを影で言ってるのは聞くが」

「言わせておけば……!」

「おっと」

トランプカードを指で摘んで振りかぶったジェネラルシャドウに向き直り、結城は言った。

「俺に手出しをしてはならないと、悪魔元帥から言われてるんじゃないのか? 仲良く行こうぜ、化け物さんよ」

「…………」

しばらく二人は睨み合っていたが、やがてシェネラルシャドウは腕を収めて、彼に背を向けた。

「……一つだけ覚えておくがいい」

「…………」

「私は、貴様が『アレ』を開発し、そして運用できる力を持っているということがあるから、その首を繋げてやっている。『アレ』が完成すれば……分かるな?」

「さぁ……?」

馬鹿にしたように笑い、結城は答えた。

「知らんな」



ここはどこだ?

俺は何で。

どうしてここにいる?

アルは、どこだ。

紗代子は。

おやっさんは……。

風見さん……。

薄れ行く意識の中で、龍一は思った。

――俺は、一体何なんだ。

――何故、俺は……。

――死なない……。

記憶の片隅で、何かが笑っている。

それは嘲るような笑いではなく。

どこか悲しげな、絶望を含んだ笑いだった。

俺は仮面ライダー。

十一号だ。

だが、本当に俺は「その仮面ライダー」なのだろうか。

ふと、そう思った龍一は目を見開いた。

違う……。

俺は……。

恐ろしい事実に気が付き、彼は両手で頭を抱え、絶叫した。

俺は。

違う。

相葉……。

『圭介』

違う、俺は……。

『相葉圭介』ではない。

その疑いようもない事実に気がついてしまい、恐怖に心が支配される。

なら俺は……。

一体、何だ?

風見さん……俺をどうか。

助けてください……。

その呟きは、暗闇に紛れてしまい。

そして、消えた。



第6話に続く!!!

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仮面ライダーアルズ 第4話 僕の胸に生きている

注:この小説は創作小説です。現存する団体とは一切関係がありません。

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仮面ライダーアルズ
……Masked Rider Al-z

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第4話 「僕の胸に生きている」

悪の秘密組織ブラックサタンによって親友を殺された城茂は!
自らブラックサタンに改造され電気人間となった!!
そして脳改造を逃れた後、ブラックサタンに復讐を誓った!!

――「仮面ライダーストロンガー」より




「リチャード・グラース……三十五歳。先日の自爆テロに巻き込まれた、海兵か……」

資料に目を通しながら、彼……城茂は呟くように言った。

三十代後半程の男性だった。

その顔は彫りが深く、どこか年季の入った影を感じさせる。

彼の視線が、資料の一点に留まった。

城はニヤ、と小さく笑うと、資料を閉じて、テーブルに放った。

「趣味は海兵隊のアメフト部での活動か……」

「ジョー司令、このままではリチャードはまもなく息を引き取ります。許可を」

長机を囲むようにして、胸に勲章をつけた男たちが座っている。

その内の一人に言われ、城は黙って腕を頭の後ろに回し、ギィ……と椅子の背もたれに体を預けた。

そして長い足を伸ばし、重低音を立ててテーブルに両方を乗せる。

「本人の強い希望もあり、すぐにでも改造手術ができる準備が整っています」

「今回の施術では、人体の九十二パーセントを生体機械に置き換えます。体内には小型原子炉を内蔵。リチャード・グラースの精神力ならば、改造手術に耐えうると見た末での結論です」

もう一人の男が口を開くと、その向かい側の男も、答えようとしない城に向けて言った。

「ご決断を。人体の六十五%以上の改造をするには、我が部隊の司令官である、あなたの許可が必要です」

城の着ている軍服には、多数の星がついた勲章が取り付けられていた。

それが天井の蛍光灯の光を浴びて、キラリと光る。

そこでドアがバシン、と開き、手術服を着た医者と思われる者が駆け込んできた。

彼は一度敬礼の姿勢を取ると、引きつった声を発した。

「報告します! リチャード・グラースの容態が急変しました! 意識混濁状態から、昏睡状態に! バイタル、危険値を示しています! 危篤です!」

「司令!」

男の一人が、掴みかからんばかりの勢いで、あらぬ方向を向いて口笛を吹いている城に向けて怒鳴った。

「真面目に聞いてください!」

「真面目? 俺はいつでもシリアスだぜ」

口笛を止め、彼は足を翻して床に立った。

そしてズボンのポケットに、手袋をした手を突っ込んで、背中を若干丸めて歩き出す。

「いいね、すごくいい」

「…………?」

疑問符を浮かべた周囲を見回し、彼はクックと喉を鳴らした。

「俺はその、リチャード・グラースという隊員のことは、データ上でしか知らない。お前らが持ってきた資料でしか、そいつの人格を図ることは出来ない。だから、お前らの言葉を信用しないわけじゃないが……全て鵜呑みにする訳にはいかないってのは、理解できるな?」

自分たちより、少なくとも「外見」は若い姿をしている城の言葉に、男たちが押し黙る。

「俺は、改造人間を増やすプロジェクトには反対だ。そうでなくても、俺達軍の兵士は、大体、体の何処かを改造してる。ギリギリ人間と呼べるラインの奴もいる。まぁ……確かに、お前らが戦力増強、技術向上のためにモルモットが欲しいってのを、俺は否定しないよ。科学部の、当たり前の要求だからな」

「ジョー司令、その実験を受けると、初めて完全了承したクランケが今死にかけている。話している時間は……」

手をあげて、発言した男性の言葉を打ち消し、城は続けた。

「だが……いいなぁ」

「何が……?」

「アメフトだよ」

男性の方を向いて、城は青年のような、明るい笑顔でニィと笑った。

「アメフト選手に悪い奴はいねぇ。最も、大抵の奴らが脳みそまで筋肉で出来てやがるから、アホだがな。いいぜ。やりな」

「許可が出たぞ! 直ちに施術に移れ!」

間髪をいれずに、別の男性が声を張り上げる。

医師は敬礼の姿勢を解いて、慌てて隣の部屋に消えた。

城はそちらを一瞥してから、ポケットからタバコの箱を取り出し、息をついた。

そして一本抜いて口にくわえる。

彼がタバコの先端で、パチン、と手袋の指を鳴らすと、軽くその場に青白い放電が走った。

それにより火がついたタバコの煙を吸って、思い切り吐き出した彼に、軍人の一人が顔をしかめて言う。

「ジョー司令、ここは禁煙です」

「知るか。俺は吸いたい時に吸いたい場所で吸うんだよ」

彼は意に介さず、といった具合で壁に背を預けると、またタバコの煙を吐き出した。

「USシティに駐屯してる国連軍が有する、初めての『パーフェクト・サイボーグ計画』だ。てめぇら、しくじったらぶっ殺すぞ」

あながち冗談ともつかない口調で、城が言う。

周囲に緊張感を含んだ張り詰めた空気が走った。

その中心にいる城は、しかし大きく伸びをすると、タバコの吸い殻を床に捨てて、足でグリグリと踏みしめた。

高価そうな絨毯に焼け焦げが広がる。

「俺は……寝るわ」



――やめて! お母さんに手出しをしないで!

手を、止めてしまった。

罠だとは頭のどこかで分かっていた。

反政府ゲリラのアジトに突入したリチャードが見たものは、今にも死にそうな程の拷問を受けた形跡がある女性と、物陰から飛び出してきた少年だった。

少年の言葉に、思わず動きを止めてしまったのだった。

目に何が映ろうとも、感情を殺し駆逐する。

それが自分の使命であり、仕事だ。

それが軍であり、そこには一個人としての感傷は全く必要ない。

分かっていた。

分かっていたはずだった。

真っ先に突入した先頭の自分が行動を起こさなければ、事態は最悪の結果をたどってしまう。

そんなことは、分かりきっていたはずだった。

しかし特殊警棒を持った手が震え、意図せぬ子供の出現。

声。

そして、血まみれの女性を見て、リチャードはその場に立ち尽くしてしまったのだった。

女性が、その一瞬を逃さないとばかりに立ち上がり、手に持った手榴弾のピンを抜いた。

待て。

そういう暇もなかった。

「どうしたリチャード!」

同僚たちが走ってくる。

来るな!

声が出ない。

逃げろ!

早く!

あたりを、閃光が包んだ。



軍兵士の死者十五人。

負傷者多数。

リチャードが潜入した部屋には、各所に爆薬が設置されていた。

その誘爆に巻き込まれて、彼の小隊は壊滅状態に陥ってしまった。

彼自身も、死に至る傷を負い、幾ばくもない命の中、思考する。

あれは罠だった。

それは分かっていた。

拷問を受けた傷も、おそらくフェイク。

自分達兵士を欺くための偽装だ。

元々生き残りには期待していなかった。

それに、あの女性はおそらくゲリラ側の人間だ。

人質ではない。

人質は全員救出した後の話だから、断言できる。

しかし……。

子供。

あの存在が、リチャードの動きを止めたのだった。

――やめて! お母さんに手出しをしないで!

声。

それが頭の中で幾重にも反響する。

あの子供も、フェイクだったのだろうか。



体中に点滴が刺され、鼻や喉に呼吸器が取り付けられた状態で、リチャードは歪む視界を無理やりあけた。

焼けるように体全体に激痛が走っている。

熱に浮かされ、手足が痺れ、激痛以外の感覚がない。

音が聞こえない。

声も出せない。

焼け焦げた皮膚から血が滴っているのが見えた。

手術台のようなところに寝かされていた。

他数の医師達が自分を取り囲んでいる。

リチャードはそれを見た瞬間、グルリと視界が暗転して意識を失った。



夢の中で、彼は真っ白いどこまでも広がる、何もない空間に立っていた。

白くまぶしすぎて、自分の体さえも見えない。

それは地面なのか、それとも自分は浮いているのか。

それさえも分からない。

少しして彼は、自分のすぐ脇に小さなテレビが置いてあることに気がついた。

それだけ白くなく、はっきりと見える。

リチャードはしゃがみこんでテレビのスイッチを入れた。

電源などどこからとっているのか分からないが、ブツリと音がして、古ぼけたブラウン管に医師の顔が映し出される。

マスクとゴーグルに隠れ、素顔が見えない。

「リチャード・グラース中尉。聞こえるかね? 今君の深層意識に、直接交信を送っている」

「あんたは……俺は、どうしたんだ……?」

「私が誰かなどどうでもいい。記憶が混濁しているようだな。現実の君のバイタルも微弱になってきた。もう保たない。率直に言おう。このままでは君は死ぬ」

「どういうことだ……?」

「反政府ゲリラの自爆テロに巻き込まれたと聞いている。体表の六十パーセントに熱傷を確認。外傷も多数。君の『体』は、もう使い物にはならない」

「…………」

唖然として、リチャードは言葉を失った。

全てを滝の流れのように思い出す。

そうだ、自分は。

自分のせいで、沢山の仲間を犠牲にして。

そして、作戦は……失敗したんだ。

「俺は……死ぬのか……」

絞りだすように声を発すると、医師は静かに言った。

「そうかもしれないし、そうでないかもしれない」

「……意味がわからないな。何を言っている?」

「君には選択する自由がある。このまま何も知らずに死ぬか、それとも、地獄を見ながらも『生き残る』道を選ぶか。私からはどちらかを与えることは出来ない。君が選ぶのだ」

「地獄を……?」

リチャードは両拳を握りしめ、歯を噛んだ。

「地獄ならさっき見てきた! 嫌という程な! 俺は……俺は!」

膝をつき、彼は拳を地面に叩き付けた。

「最低だ……!」

「時間がない。選ぶのだ、中尉。私は嘘偽りは言っていない。このままでは君は確実に死ぬ」

「死ぬか生きるか、選択しろっていうのか……」

「そうだ」

しばらく沈黙して、リチャードは口を開いた。

「……改造人間計画だな?」

「…………」

黙り込んだ医師に、歯を噛んで彼は続けた。

「その被験体に俺を選んだんだな! 答えろ!」

「……その通りだ。軍は君を生かす代わりに、改造人間計画の被験体にしようとしている。しかしそのためには本人の了承が必要だ。だから危険を冒してまで、意識野の最下層まで交信を飛ばしている」

「改造人間……俺が……」

リチャードの脳裏に、天使のように笑う赤ん坊の姿がフラッシュバックする。

そして、それを抱く女性。

握り拳を作り、彼は叫んだ。

「何故俺なんだ! 何故今更! 何故!」

「それを話す権利を私は持っていない。選ぶのだ中尉。悠長に話している時間はない」

「くっ……」

彼は言葉を飲み込み、そして目を閉じた。

しばらくしてふーっ、と息を吐きだして、リチャードは言った。

「……俺はまだ死ねない。死ぬ訳にはいかない。だから、実験にでもなんでも付き合ってやる。どうせ死ぬ命だ。好きに使うがいい」

「完全了承ととっていいのだな? 意識の最下層の返答は、嘘偽りのないものと記録される。それでもいいな?」

「…………当然だ!」

雄叫びを上げて、リチャードは拳をテレビに叩き付けた。

グシャリとテレビが崩れたケーキのように潰れ、あたりを白い光が包む。

そこでリチャードの意識は、光に飲み込まれて消えた。



その施設が、異様な集団に襲撃されたのは、リチャードの意識と何者かが交信した、数日後のことだった。

『ジョー司令! この駐屯基地が、アンノウンに襲撃されています! 敵の数不明! た、太刀打ちできませ……うわああ!』

ザザッ……と通信機の向こうからノイズが聞こえ、交信が途切れる。

城はそれを聞き、重苦しい顔で周囲を見回した。

駐屯基地の作戦会議室には、軍人達が集まっていた。

「今から五分前の通信だ。何か強力な、正体不明の敵にここは襲われている」

城がそう言うと、周囲の一同がゴクリと唾を飲んだ。

「目的はおそらく、リチャード・グラースの『破壊』だ。何としても阻止する。全戦力を投入して、叩け」

バサッ、と軍服を翻し、城は立ち上がった。

「ジョー司令、どこに?」

「俺も出る」

問いかけてきた軍人にそう返し、城は歯を噛んで続けた。

「この感覚……もし俺の考えていることが、外れではなければ、お前達では相手にならん」

「しかし……」

「死にたい奴はついてこい! 死にたくない奴は隅でヒィヒィ震えてろ!」

パンッ、と手袋をつけた拳を打ち鳴らし、城は大股で歩き出した。



「増援はまだなのか!」

「ひぃい! 誰かあ!」

困惑の声と絶叫が、燃え盛る駐屯基地の建物内に響いていた。

黒尽くめのボディスーツとヘルメットを被った軍兵士達が、一気に吹き飛ばされ、反対側の壁に折り重なってぶつかる。

「素直に被験体の居場所を吐けェ……でないと」

押し殺したようなくぐもった声が、あたりに響いた。

絶叫を上げて足をバタバタ振っている兵士の一人、そのヘルメットを掴んで持ち上げた、身長ニメートルを超える巨体の男は、クックと喉を鳴らして笑った。

「こうなる」

バキィッ! と重く低い嫌な音があたりに響いた。

粉々になったヘルメットの奥から、断末魔の表情で即死した兵士の顔が覗く。

それを脇にドチャリと放り、男は足を鳴らして一歩を踏み出した。

人間ではない。

それが一目で分かるほどの、異様な姿だった。

ニメートルを軽く超えている身長。

銀光りする鎧を着込んでいる。

手には、まるで重機のような、人間一人分程の大きさがある、巨大な鉄球を持っている。

銀光りする鎧に炎を反射させながら、彼はまたズゥン、と鈍重そうに足を踏み出した。

「退避だ! 退避ィ!」

「下がれ! 下がれ!」

兵士達が鎧男に背を向け、一斉にその場を離脱しようとする。

「人の話を……聞けィ!」

鎧男は、鎖がついた鉄球を振りかぶると、まるで玩具を投げるように勢い良く片手で放った。

衝撃波と轟音をまとった鉄球が、逃げようとしていた兵士達に突き刺さった。

絶叫と断末魔の声が周囲に響き渡る。

「チィ……どいつもこいつも脆すぎる。折角襲撃の一番手を引いたってのに、これじゃ時間が来ちまうな……」

兵士達の屍を踏みしめて、男は更に奥へと進み始めた。

「どこだ……『被験体』は……」

兜の奥の目を怪しく赤く光らせながら、彼は足を進めようとし……そこで動きを止めた。

軍服を翻し、ポケットに両手を突っ込んだ姿勢で、城が少し離れた通路に立っていたからだった。

「……鋼鉄参謀か。久しぶりだな」

吐き捨てるように城がそう言う。

鋼鉄参謀と呼ばれた怪人は、それを聞いて動きを止めた。

そして数秒間沈黙した後、あたりをつんざくように笑い声を上げた。

「カァーカッカッカ! まさかここで貴様に会えるとはな! そうか! そういうことだったのか!」

「…………」

「俺に組み込まれたDNAがさっきからざわつくと思っていたんだ。何だそういうことか。貴様か……『俺を殺した』仮面ライダーだな?」

「どういうことだ……?」

「さぁな! だが俺の中の怨念が、貴様が敵だって喚くんでな! 殺らせてもらう!」

鉄球を振りかぶった鋼鉄参謀を見て、城は両手の手袋を脱ぎ捨てた。

そこから出てきたのは、コイル状になった機械の腕だった。

「変身ッ!」

彼は腕を振り上げると、両手のコイルを擦るように勢い良く打ち当てた。

「ストロンガー!」

電気が、あたりに走った。

「グゥ……!」

眩しすぎる強烈な放電に、鋼鉄参謀が思わず動きを止めて、片手で目を覆う。

「これが……コードネーム『仮面ライダーストロンガー』か……!」

放電が収まった通路で、周囲が真っ黒に焼け焦げている中、その中心に立った男を見て、鋼鉄参謀は重苦しく呟いた。

そして楽しそうに笑う。

「クク……貴様は脆くなさそうだ」

放電の中心に、異形の姿が立っていた。

緑の巨大な目。

カブトムシのような角。

白いマフラー。

アメフト選手のような、筋骨隆々としたボディアーマー。

彼は構えを鋼鉄参謀に向けてとると、静かに、通る声で言った。

「天が呼ぶ……地が呼ぶ、人が呼ぶ! 悪を倒せと俺を呼ぶ!」

腕を振り上げ、彼は床を蹴って一瞬で鋼鉄参謀に肉薄した。

「俺は正義の戦士! 仮面ライダー! ストロンガー!」

バチバチバチと音を立てて、彼の固めた拳に青白い放電が走る。

アッパーカットの要領で放たれたそれがかすった床が、真っ黒に焦げた軌跡を作り出す。

「電ンン! パンチィ!」

「チィ!」

拳を、鋼鉄参謀は鉄球を持ち上げてそれで受けた。

打ちあたった城の拳が、半ばまで巨大な鉄球にめり込んだ。

まるで、バターのように鉄の塊に肘まで突き刺さる。

「エレクトロ! サンダー!」

そのまま城は叫んだ。

彼の体が、一瞬周囲を灼く程に真っ白に発光した。

凄まじい放電が周囲に走り、それは鉄球を伝い、地面を伝い、鋼鉄参謀に襲いかかった。

「ククク……」

しかし鋼鉄参謀は不気味に笑うと、押し殺した声で言った。

「忘れたか! 電気返しの恐怖を!」

彼の体に吸い込まれた白い電流が、逆流して城に向けて放ち返された……と思った瞬間。

「ダブルエレクトロ……サンダー!」

城はそう叫んで、更に強い放電を体から放った。

それは逆流しようとしていた電気を飲み込み、一気に鋼鉄参謀に突き刺さり、吸い込まれて炸裂した。

「がああああ!」

絶叫が辺りに響き渡り、鋼鉄参謀は体の各部から白い煙を上げながら、片膝をその場についた。

城は腕に突き刺さった鉄球を、片手で持ち上げると、横に振って捨てた。

ズゥゥン……とそれが壁を倒壊させて、真っ黒に焦げた床にめり込む。

「てめぇの弱点は、一度戦った相手だからな。知ってるぜ。反射できる電撃には許容量がある。分析以上の電撃をぶつければ、それを破れるって寸法だ。てめぇのデータは古い俺だ。進化した今とは違う。鋼鉄参謀。蘇ったところを悪いが、速攻で決めさせてもらう」

「ククク……」

しかし鋼鉄参謀は、膝をついたままいやらしい声で笑った。

「愚かなり仮面ライダーストロンガー。貴様が進化したように、俺達も変化しているのだ!」

「……何?」

「目的のためなら! 手段は選ばん! それが今の我ら! デルザー軍団よ!」

城がそこで反射的に床を蹴り、飛び上がる。

今まで彼がいた場所を、刃のように何かが通りすぎた。

それはトランプだった。

トランプのカードが、スカカッ、と軽い音を立てて城が立っていた場所に突き刺さる。

「ジェネラルシャドウか!」

城が叫んだ瞬間、トランプのカードが膨れ上がり、爆弾のように爆発した。

それに煽られる形で、着地に失敗した城に、床を蹴り猛スピードで肉薄してきた鋼鉄参謀が、肩からぶつかる。

「ぬううう!」

受け身をうまく取れず、城はそのまま壁に突き刺さり、ブチ破って向こう側に抜けた。

鋼鉄参謀のタックルは止まるところなく、そのまま二枚、三枚と壁を打ち破って突き進む。

そして開けた部屋の中に飛び込んで、城は吹き飛ばされ、床をゴロゴロと転がってやっと止まった。

「ぐ……」

「ほう……これがもしや……『被験体』か?」

鋼鉄参謀が呟くように言う。

慌てて顔を上げた城の目に、逃げ惑う医師達と、手術台に寝かされている男……リチャード・グラースの姿が映った。

偶然にも、彼の手術室に到達してしまったのだ。

「何をしている! 早くリチャードを運び出せ!」

城が怒鳴る。

しかし鋼鉄参謀は、医師たちを薙ぎ払って進むと、腕を振り上げ……。

「被験体の破壊! 一番乗りだぜぇ!」

と叫んでそれを振り下ろした。

その瞬間だった。

筋骨隆々としたリチャードの腕が動き、振り降ろされた鋼鉄参謀の腕を、掴んで止めた。

「な、何ぃ!」

「……起動したか!」

城が押し殺した声で叫ぶ。

「リチャード・グラース! コード000(トリプルゼロ)だ! 変身を許可する!」

意識を感じさせない空虚な目で、リチャードが上半身を起こし、鋼鉄参謀の腕を絡み取り、横に投げ飛ばす。

「ぐああ!」

ゴロゴロと床を転がった彼の目に、ズシン、と地面にめり込むほどの……人間とは思えない重量で床に立った男、リチャードの姿が映った。

彼は空虚な瞳で、手術台の脇に置いてあった、機械が所々見えている、合金製と思われるベルトを手にとった。

そしてそれを、半裸の自分の腰に巻き付け、バチンと留める。

「コード000了承。変身します」

彼は誰に教えられたわけでもないのに、フゥゥ……と深く息を吐くと、ゆっくりと手を上げ、両手を胸の前で交差させ、叫んだ。

「変身!」

白い光が彼の体の周囲に溢れ出した。

それはまるでまとわりつくかのように、リチャードの体を包み込み……。

一瞬後、彼は異形の姿に変わっていた。

膨れ上がった上半身。

バッタのような頭部。

赤い目。

そして、背中にマントを翻し、彼は鋼鉄参謀に向けてキックボクシングの構えをとった。

「ぬう……変身を許したか! だがここで貴様は破壊させてもらう!」

鋼鉄参謀が起き上がり、肩口からリチャードに向けて突撃した。

しかし、鋼鉄参謀のタックルを受けても、リチャードの体はビクともしなかった。

彼は両手を広げて、自分を押す鋼鉄参謀の上で拳を固め、一気にそれを振り下ろした。

空気の破裂する音がして、鋼鉄参謀が床に叩きつけられ、床には放射状に打撃痕が広がった。

「お……俺は……自分は……」

リチャードが自分の手を見て、小さく呟く。

「リチャード……リチャード・グラース……中尉で、あります……」

「記憶が混濁している……チッ!」

城は呟くと、鋼鉄参謀に向けて構えを取った。

そして叫ぶ。

「チャージアップ!」

彼の胸の「S」というマークが、グルグルと回転を始める。

仮面ライダーストロンガーの体内に組み込まれた「超電子ダイナモ」の力で、二段変身をするのだ。

「S」の回転が止まり、城の体が白く輝く。

一瞬後、彼は銀色の角に、銀色のラインが入ったプロテクターを身にまとっていた。

「超電!」

城は叫ぶと、真っ白い放電が辺りに轟く中、床を蹴り、鋼鉄参謀に向けて光となった。

「ドリルゥ!」

一拍、彼の体が空中で静止し、真っ赤に発光する。

「キィィィック!」

そのまま高速に回転し、城は鋼鉄参謀の胸を貫通して、向こう側に抜け、床を数メートルも滑って止まった。

「グ……ッ! く……!」

口から青い液体を吐き出し、鋼鉄参謀は、胸に大穴が空いた状態で城に向けて振り返った。

「ククク……これで勝ったと思うなよ……ストロンガー……」

「…………」

「デルザー軍団は……不滅なり……」

仰向けに鋼鉄参謀が倒れる。

次いで、施設の中を大爆発が襲った。



「ふん……手助けをしてやったというのに、参謀は負けたか……」

駐屯基地を見下ろす形で、離れた崖に立っていた男が口を開く。

彼の周りには数人の男女が立っていた。

「あんな筋肉バカを一人で行かせるからこうなるのよ」

「次にストロンガーを倒すのはこの私だ。順番は守っていただこう」

一番最初に口を開いた男が、そう言って喉を鳴らす。

「だが今は時期ではない……時期を見て攻撃を掛ける。ここは一旦引くとしよう……」



自分よりも一回り大きなリチャードの変身体を担ぎあげた城は、彼を施設の外の地面にドサッと降ろした。

城の姿は、チャージアップをする前に戻っていた。

降ろされたリチャードは、小さく震えながら、頭を抑えていた。

そして押し殺した声を発する。

「あんたは……」

「意識が戻ったようだな。俺は城茂。名前くらいは聞いたことがあるだろう」

「ジョー……シゲル? 俺達の軍の最高司令官……」

リチャードはそう呟くと、自分の両手を広げて呟いた。

「この姿は……一体……それに、あなたのその姿も……」

「俺達は『仮面ライダー』だ。これは、正義を執行する際のユニフォームのようなものだと思えばいい」

息を吐いて、城はまだ一部が燃えている建物を見て、押し黙った。

「……デルザー軍団め……復活しやがった」

「説明して下さい! 奴らは何なんですか。俺のこの姿は! ただの改造人間手術じゃなかったのか!」

怒鳴ったリチャードを一瞥し、城は彼に向けて構えをとった。

「喚くな。若造」

「…………」

「かかって来いよ。いちいち口で説明するより、実戦の方がお前らには向いてる。それとも……」

クク……と小さく城は笑った。

「お前よりも小さい、日本野郎(ジャップ)のこの俺が怖いか?」

挑発され、リチャードは歯を噛んで立ち上がった。

「人の体を改造して……一言もないのか! あなた達は!」

怒鳴り、彼は地面を蹴って城に肉薄した。

そして腕を振り上げ、打ち下ろす。

「電ンン! パンチィ!」

バチバチと放電した腕を、城はクロスカウンターの要領でリチャードの顔面に叩き込んだ。

リチャードの顔にも電パンチが吸い込まれていく。

一瞬後、彼らは互いに逆方向に吹き飛ばされ、地面をゴロゴロと転がって、同時に止まった。

「何だ……!」

リチャードはしかし、そこで引きつった声を発した。

「感覚がない……!」

「お前の体は、九十二パーセントが生体機械化されたからな。痛覚などはもうないはずだ」

立ち上がり、近づいた城は、リチャードの腕を掴んで無理やり立たせると、雄叫びを上げて彼を投げ飛ばした。

「ジェット投げ!」

「ぐあああ!」

錐揉みに回転しながら、リチャードの巨体が吹き上がる。

しかし彼は、空中で姿勢を整えると、ぐるりと体を反転させて、急降下した勢いで城に向けて足を振り下ろした。

それを受け止めた城が、体ごと滑って十数メートルも後退する。

それでも勢いが止まらず、彼は吹き飛ばされると建物の壁にぶつかり、めり込んで止まった。

「チィ……何て馬鹿力だ……」

「うおおお!」

リチャードは地面を蹴って城に肉薄すると、タックルの要領で彼に肩口からぶつかろうとし……城に、軽く足を払われ、その場を一回転して、頭から地面に叩きつけらた。

「ガァ!」

「血の気が多い馬鹿は嫌いじゃない。ま、初めてにしては上出来だ。根性がある。お前、これから『ガッツ』と名乗れ。ま……『仮面ライダー』として、今後も頼むぜ」

振り下ろされた城の手刀が、リチャードの首筋に吸い込まれる。

彼は抵抗する事もできず、意識を闇に突き落とされた。



血溜まりの池の中で、体液にまみれたガッツが咆哮する。

それはある種の狂気と、絶対的な恐怖を感じさせる光景だった。

「お母さん! お母さああん!」

正彦が、壊れたマリオネットのように地面に横たわり、動かなくなった母親にすがりつく。

ガッツはそれに一切構うことなく、襲いかかる戦闘員達を、次々と屍へと変えていった。

彼の拳には一切迷いがなく。

そして、その拳は正確だった。

特殊警棒を頭に受け、何も感じていないのか、そのまま拳を突き出して相手の頭部を破壊する。

投げ飛ばされた戦闘員が、十数メートルも弧を描いて吹き飛ばされ、地面にドチャリと落ちた。

倒れこんだ別の戦闘員が、胸を巨体に踏み潰されて息絶える。

「やめろ……」

龍一は、その場を一掃しようとしているガッツに向けて叫んだ。

「やめろおお!」

『リューイチ、落ち着いて下さい』

アルズの静止に耳を貸さず、龍一は駆逐を続けるガッツに向けて走りだした。

「相葉!」

V3が怒鳴る。

「お前がしていることは虐殺だ! そんなこと……そんなことはこの俺が許さん!」

声を張り上げ、ガッツに向けて拳を突き出す。

青白く放電する龍一の電パンチを顔面に受け、しかしガッツはピクリとも動かなかった。

彼はわずかに視線を龍一に向けると、ゆっくりと拳を固め……。

『リューイチ! 避けて下さい!』

アルズの声がした次の瞬間、目にも留まらない勢いで龍一の顔面にそれを叩き付けた。

間一髪で龍一は首をひねり、それをかわす。

「効いてないのか!」

「電パンチ……? それにしては軟弱だな」

ガッツはそう呟くと、体を回して、龍一の腕をとった。

そのままのムダが無い勢いで、彼は龍一の体を振り回すように持ち上げ、空中に投げ飛ばした。

「ジェット投げェ!」

「うわああ!」

訳が分からず絶叫した龍一は、錐揉みに回転しながら上空に運ばれ……。

「昇竜……アッパー!」

ガッツの叫びを聞き、自由落下を始めたと思った瞬間、飛び上がった巨体のアッパーカットに顔面を捉えられた。

ダイナマイトでも至近距離で爆発したかのような衝撃が龍一を襲った。

『サイキックフィールド、全開にします!』

アルズの切羽詰まった声。

龍一は吹き飛ばされると、地面をゴロゴロと転がり、力なくその場に崩れ落ちた。

『装甲三まで破られました。残存サイキックエナジー、二十パーセントを切りました。戦線離脱を提案します』

「てめぇ……」

ギリ……と歯を噛むと、龍一はよろめきながら立ち上がった。

体中の骨が砕けたように、力が入らない。

視界がぐるぐる回っていた。

「相葉、落ち着け!」

風見がそこで駆け寄り、龍一を羽交い締めにして止めた。

「風見さん……どうして!」

「見たことがある……あれは国連軍の仮面ライダーだ。敵ではない」

「でも……でも市民が!」

「戦闘員に改造されて脳改造を受けたら、もう元には戻らない! そんなことも分からないのか!」

耳元で風見に怒鳴られ、龍一は言葉を飲み込んで、戦闘員を「破壊」し続けるガッツを睨んだ。

ガッツは周囲の戦闘員を全て駆逐すると、足元の血溜まりをバシャッ、と踏みしめて、泣き叫ぶ正彦に大股で近づいた。

そこで龍一は、風見の腕を振り払い、ガッツと正彦の間に立ちふさがった。

「どけ、日本野郎(ジャップ)……模造品の実験体が、俺の任務の邪魔をするな」

静かにガッツに言われ、しかし龍一はそこを動かなかった。

「嫌だね……どこのどいつか知らないが、俺はあんたのことを好きになれそうにない」

「奇遇だな。俺も任務の邪魔をする奴は嫌いでね」

ガッツは手を伸ばし、龍一の肩を掴んだ。

「どけ」

しかし彼は、本能的な動きで飛び退った。

今までガッツの顔があった場所を、いつの間に生成したのか、龍一が右腕に突き立ったサイキックブレードで凪いだのだった。

かすったのか、ガッツのメットの頬の部分がザックリ切れている。

「ほう……」

ガッツは呟いて、キックボクシングの型をとった。

「いい殺気だ。ボーイ」

「二人共、争っている場合ではない」

そこで風見が、更に二人の間に割って入った。

気勢を削がれた形になったガッツが、しかし構えを解かないまま押し殺した声で言う。

「仮面ライダーV3……お前も俺の任務の邪魔をするか」

「そのつもりはない。こちらに、国連軍と敵対する意思はない。だが……」

風見は緑色の複眼を強く光らせ、言った。

「その子供は、被害者だ。一般人のな。危害を加えようというなら、俺も相手になろう」

「……チッ」

舌打ちして、ガッツが一歩下がる。

「脳改造は受けていないのか?」

問いかけられ、風見は頷いた。

「そのようだ。そして、V3ホッパーが先ほど探知したが……ここから五キロ程離れた場所で、生き残りの市民がヨロイ元帥に襲われている。俺達は、そこに向かわなければいけない。あんたはどうする?」

「何だって……?」

龍一は青くなって声を上げた。

「ヨロイ元帥の狙いは、俺達じゃなかったのか?」

「奴は残忍で卑劣極まりない男だ。俺達を呼び寄せるつもりなのか、それまでの暇つぶしのつもりなのか……」

風見はギリ……と歯を噛んで、足を踏み出した。

「いずれにせよ、奴は倒さなければいけない!」

「ふん……」

ガッツは鼻を鳴らすと、ベルトのバックルについたパネルを指で操作した。

「俺一人で十分だ」

離れた場所から、バイクのエンジン音が聞こえた。

ガレキを踏み越え、どこからか無人のバイクが、猛スピードでこちらに向けて突進してきたのだった。

思わず身構えた龍一達の目前でそれは止まった。

黒光りする車体に、巨大なエンジンが特徴的の、大きなバイクだった。

ガッツはそれに乗り込むと、バイクに取り付けられたパネルも操作して、龍一と風見に一瞥も暮れずに走りだした。

たちまちその姿がガレキの向こう側に消える。

「くそっ……」

拳を固めた龍一の肩を掴んで自分の方を向かせ、風見は押し殺した声で言った。

「あの国連ライダーの判断は正しい。戦闘員として襲ってきたら、倒すしかない」

「でも、親ですよ! あの子の! 目の前でやることは……」

「それでも、やるしかないんだ」

龍一の肩を掴んだ風見の手に力がこもる。

それを見て、龍一は言葉を止めた。

「俺達も行くぞ」

風見はそう言って

「ハリケーン!」

と続けて叫んだ。

先ほどのガッツのマシンのように、青と赤のラインが特徴的なバイクが、自立走行で現れた。

「行くぞ、相葉」

「は……はい!」

ハリケーン号にまたがった風見の後ろに龍一も乗り込む。

「待って!」

そこで二人は後ろから叫ぶように声を投げつけられ、動きを止めた。

正彦が、落ちていたナイフを手に取り、砕けんばかりに歯を噛み締めて、二人を睨みつけていたのだった。

「僕も……連れてって!」



「国連軍の仮面ライダーか……くくく……面白い」

バイクを降りたガッツを見て、ヨロイ元帥は掴んでいた生き残りの上層市民、その男性を、ゴミのように脇に放り投げた。

悲鳴とともに勢い良く吹き飛んだ男性が、頭からガレキになった建物の壁にぶつかり、動かなくなる。

辺りには据えた悪臭が漂っていた。

人間の血の臭いだった。

見るも無残に八つ裂きにされた人、人、人。

ガッツはそれを見て、キックボクシングの構えを取りながら、ゆっくりとヨロイ元帥に近づいた。

「……何故上層市民をこんなに殺した?」

静かに問いかけられ、ヨロイ元帥は意外そうに目を開くと、喉を鳴らして笑った。

「何故? 愚問だなァ」

「…………」

「恐怖だよ! 全てはそれで成り立っている!」

マントを翻して、彼は叫んだ。

「見せしめだ! これは『処刑』なのだ! 恐怖によりこの愚民共を支配しなければ、これから先、『選ばれざる者』は到底生きてはいけないだろう! 私は逃走という裏切りを取ったこの愚民共に、然るべきしつけをしているに過ぎない!」

「成る程。聞きしに勝る下衆だな」

ガッツは地面を蹴り、一瞬でヨロイ元帥に肉薄した。

「何……」

呟いたヨロイ元帥の胸に、風を切り唸りを上げたガッツの豪腕が吸い込まれる。

ドキュッ、と鈍い音がして、ヨロイ元帥の鎧、その胸部分が粉々にカチ割れた。

その衝撃のまま、鈍重な彼の体が数メートルも吹き飛ばされ、ゴロゴロと地面を転がる。

「チィ……何て馬鹿力だ……!」

「お前と話すことはもうない。この世から完全消滅(デリート)してやる」

ガッツの赤い複眼が、更に強く輝く。

それを見て、ヨロイ元帥は面白そうに笑い、身を屈めて唸った。

その背中がバリリと割れ、中から昆虫の脱皮のように、赤い甲殻が現れた。

「何をしている! 走れ! できるだけ遠くに!」

呆然として硬直していた、生き残りの市民達にガッツが怒鳴る。

蜘蛛の子を散らすように逃げはじめた市民達から視線を離したガッツが次に見たのは、赤い閃光となって自分に肉薄した、巨大なザリガニのような怪人の姿だった。

左腕の巨大な鋏で、ザリガニ怪人……変身したヨロイ元帥はガッツの首を掴むと、重機のような勢いで地面を蹴った。

そのまま近くのガレキに、ガッツの背中から突っ込む。

放射状に衝撃痕が、ガレキとなったビルの壁面に広がった。

「ぐああ!」

「戦闘中にヨソ見をしていいと、お前の軍ではそう教えているのか?」

嘲るようにそう言い、ヨロイ元帥は右腕を振り上げ、ガッツの腹部に突き刺した。

半ばまで腕がめり込み、そこからバチバチと放電が漏れる。

「ぐっ……」

うめいたガッツの腹に空いた穴に、何度もヨロイ元帥は腕を叩きつけた。

そして中からケーブルのようなものを引きずり出し、ブチブチと音を立てて引きちぎる。

「生きたまま解体してくれる!」

「ライダァァ! スラッシュ!」

ヨロイ元帥の声を打ち消さんばかりの大声で叫んだ龍一が、おどり上がった空中から落下の勢いそのままに、腕のサイキックブレードでヨロイ元帥の左腕を凪いだ。

ヨロイ元帥の肘から鋏が両断され、ガッツの首が自由になる。

「ぎゃああ!」

絶叫を上げ、なくなった左腕をかばうようによろめいたヨロイ元帥の目に、こちらに向けて突進してくるバイク――ハリケーン号の姿が映った。

それに跳ね飛ばされ、彼は少し離れたガレキの壁にぶつかって、ズルズルと崩れ落ちた。

「大丈夫か! 国連のライダー!」

風見が駆け寄り、腹から放電しているガッツを助け起こす。

ハリケーン号がひとりでに動きを変え、風見の隣に停まった。

上には正彦が乗っている。

「ヨロイ元帥! いや! ザリガーナ!」

風見は声を張り上げ、立ち上がったヨロイ元帥を指さした。

「絶対に許さん! 二度と立ち上がれんよう、完全に息の音を止めてくれる!」

「くくく……仮面ライダーV3。元はといえばお前と戦いたかったために、私はお前は死んだと偽装したのだ。その悲願が、こんな形で実現するとはな……!」

「何だと……!」

「ふふ……気をつけたほうがいい。私の腕を切り離して悦に入っているようだが……」

ヨロイ元帥は残った右腕で龍一を指した。

「私の体は、爆発する」

「いかん!」

風見が叫んで、ハリケーン号の上の正彦を掴んで、影に身を屈めた。

次の瞬間、ヨロイ元帥の左腕が大爆発を上げた。

轟音と爆風が辺りを吹き荒れる。

状況が判断できず、また、突然の爆音でアルズの声も聞こえなくなった龍一の目に、炎をかいくぐってヨロイ元帥が突進してくるのが映った。

「死ねィ!」

繰り出された彼の右腕を、龍一はすんでのところで、梅花の型で受け流した。

そして右腕のサイキックブーレドを振り下ろす。

しかしヨロイ元帥は、背中の甲羅でそれを受け……斬撃を受けた甲羅が、その部分だけ大爆発を上げた。

「うああああ!」

悲鳴を上げて、龍一は吹き飛び、ゴロゴロと地面を転がった。

ヨロイ元帥は少し距離をとると、甲羅に手をやり、その一部をむしりとった。

「仮面ライダー! これで終わりだ!」

轟音を上げて、ヨロイ元帥はむしりとった甲羅の破片を、正彦に向けて投げつけた。

風見が舌打ちをして正彦を庇うように体を丸め……。

大爆発が起こった。

「風見さん!」

起き上がった龍一が叫ぶ。

しかし、炎の中から現れたのは、仁王のように立ったガッツの姿だった。

腹から放電して、先ほどの大爆発をその身で受けたのか、所々焦げて、スーツが燃えている部分もある。

「全ッ然……」

しかしガッツは重く、響く声で言った。

「効かねぇなァ!」

「何ィ!」

ヨロイ元帥が初めて狼狽したような声を出す。

ガッツが再度地面を蹴り、彼に肉薄して拳を繰り出す。

甲羅に拳が当たった場所が大爆発を起こす。

しかし、ガッツは吹き飛ばされそうになりながらも、何度も何度もヨロイ元帥を殴りつけた。

地面に叩きつけられたヨロイ元帥が、背中の甲羅の一部をむしりとり、飛びかかってきたガッツに豪速で投げつける。

空中で爆発したガッツが、さすがに耐え切れずに吹き飛ばされ、龍一の隣を転がった。

「あんた……」

龍一は、それでも平然と起き上がったガッツを見て言葉を飲む。

そして二人は、同時にヨロイ元帥に向けて戦闘の構えをとった。

「俺達が道を開きます! 風見さんはトドメを!」

「ジャップライダー! 行くぞ!」

龍一とガッツが叫んで、二人一緒に地面を蹴る。

「スゥゥパァア!」

龍一の腕のサイキックブレードが、真っ赤に発光し始めた。

「ライダァァ! スラァァァッシュ!」

袈裟斬りに切り裂かれたヨロイ元帥の傷口が大爆発を上げる。

その炎をかいくぐって、ガッツが何度も拳を叩き込んだ。

「百烈拳! 死ねええ!」

その度に爆発するが、ガッツの姿は揺るがなかった。

ついに拳が顔面を捉え、空中に跳ね上げる。

「ヨロイ元帥! これで最後だ!」

風見が叫んで、空に向けて天高く飛び上がった。

「V3! 赤熱ゥ!」

彼の右足が真っ赤に輝く。

右足に内蔵された小型原子炉が、その力を最大まで放出しているのだ。

「回転! ドリルキィィィック!」

高速で回転しながら、風見……いや、仮面ライダーV3は、ヨロイ元帥を空中で粉々に吹き飛ばし、向こう側に抜けた。

空中で、辺りを昼かと見間違うほどの大爆発が広がった。



ジャパンシティ地下の、怪人生産プラントが、轟音を立てて爆発した。

先ほど国連軍が到着し、発破をかけて爆破したのだ。

朝日が昇ろうとしていた。

崩れ落ちるジャパンシティ上層タワーを見ながら、変身が解けた龍一は、アルズ端末を手に、その場にへたり込んだ。

体中が痛み、力が入らない。

風見は、プラントの方に向かっていて姿が見えない。

黒いヘルメットに黒いボディスーツの国連軍と、大量のジープにスラム街は囲まれていた。

そこで龍一は、即席テントの中から正彦の声がしたのに気づき、慌ててそのテントに駆け寄った。

「僕に触らないで!」

国連軍の白衣を着た医師の手を振り払い、正彦は必死に叫んでいた。

「僕に近寄るな!」

「……正彦」

龍一が声をかけようとした時だった。

「そこで喚いて我儘を言えば、ママが生き返ってきてくれるとでも思ったか、ボーイ」

後ろから重い声が投げかけられ、龍一は慌てて振り返った。

テントの入り口に、身長ニメートルは超えている巨漢が立っていた。

腹に包帯をぐるぐる巻きにしていて、上半身は裸だ。

短く刈り上げた金髪。

彫りの深い顔。

そして……その体を見た時、龍一は言葉を失った。

傷、傷、傷。

傷だらけだった。

「お前は……!」

テントの中から、正彦が押し殺した声を発する。

「俺の名前はガッツ。NATOの特殊機甲大隊所属、機動打撃中隊中隊長、ガッツ中尉だ。今日からお前の保護者になる」

正彦に向けて、ガッツと名乗った男はそう言った。

少年は少しの間呆然とすると、獣のように雄叫びを上げた。

そしてどこに隠し持っていたのか、サバイバルナイフを手に取り、テントを駆け抜けてガッツに向かって全体重をかけてぶつかった。

ガッツは、特に抵抗らしい素振りは見せなかった。

太ももにサバイバルナイフがめりこんでいた。

荒く息をつく正彦の前にしゃがみこんで、ガッツは低い声と、感情を感じさせない顔で言った。

「どうした? ボーイ。そんなところをいくら刺しても俺は死なない」

太ももからナイフを抜き、彼は正彦にそれを握らせた。

「俺の心臓はここだ。よく狙え」

左胸を指先でトン、と叩く。

正彦は歯を噛むと、また叫び声を上げてガッツにナイフを突き立てた。

それは半ばまで胸にめり込んだが、力が足りなかったのか、途中までしか刺さらなかったようだった。

「……初めてにしてはいい殺気だ。そして覚えておけ。死んだ者はもう元には戻らん。胸の中でしか生きていないんだ」

ガッツはそう言うと、手を上げて、トン、と正彦の首筋を叩いた。

一瞬で気を失った少年を抱きかかえ、テントから出てきた医師に引き渡す。

「お前……」

身を乗り出した龍一の前で、ガッツは胸に刺さったナイフを抜いて投げ捨てると、鼻を鳴らした。

「お前か……実験体だな」

「さっきの仮面ライダーか……? 実験体って……」

『リューイチ、避けて下さい!』

アルズの声が辺りに響く。

ガッツが左足を思い切り振り上げたのだった。

それに、先ほどの正彦のように首筋を直撃され、龍一は地面に叩きつけられた。

そのまま意識を失った龍一を見下ろし、ガッツはポケットから取り出した磁石のようなものを、アルズ端末にカチッとはめた。

『何をス……ス……スル……ノ…………デ…………ブツッ』

抵抗しようとしたアルズの声が、端末のライトが消えると共に小さくなって聞こえなくなる。

龍一を担ぎ上げ、ガッツは燃え盛り崩壊するジャパンシティを見上げた。



「そうか……龍一は国連軍に連れ去られたか……」

「すみません……俺がついていながら……」

藤兵衛の前で、五十代ほどの壮年男性……端正な顔立ちをした、小綺麗な男、風見が言う。

ハリケーン号にまたがった彼に、藤兵衛はため息をついて続けた。

「あいつのことは、俺が何とかする。今回は来てくれて助かった。だが……」

一瞬言いよどみ、藤兵衛は続けた。

「お前には、引き続き『隼人』のことを頼みたい」

「……分かっています。一文字さんを救えるのは、俺しかいませんから」

「すまない。損な役回りばかり押し付けてしまってな……」

ウェスタンハットを目深にかぶり直した藤兵衛に、風見は小さく笑ってヘルメットを被った。

「言いっこなしです。でも……驚きました。まさか『完成』しているなんて……」

「ああ、俺も驚いた……」

「相葉のことなら大丈夫です。あいつは、仮面ライダー11号。俺達仮面ライダーの、一番弟子なんですから」

「…………そうだな」

フッと小さく笑い、藤兵衛は呟くように言った。

「そうだと……いいんだがな」



第5話に続く!!!

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仮面ライダーアルズ 第3話 力と技の風車が回る

注:この小説は創作小説です。現存する団体とは一切関係がありません。

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仮面ライダーアルズ
……Masked Rider Al-z

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第3話 「力と技の風車が回る」

仮面ライダーV3、風見志郎は改造人間である。
謎の秘密結社デストロンによって重症を負わされたが……。
仮面ライダー1号、2号によって改造手術を受け、仮面ライダーV3として蘇った!

――「仮面ライダーV3」より




薄暗い、廃墟のような空間だった。

どこかの格納庫のような広さのそこに次々と強力なライトがともり、明かりがついていく。

規則正しく軍隊のように並ぶ、生気を感じさせない瞳をした戦闘員達。

少し離れた所に、何百人もいるその戦闘員たちを一望できる壇が設置されていた。

そこに、四人の男達が立っていた。

一人が手を上げ

「デェーストロン!」

と叫ぶ。

それに呼応して、数百人の戦闘員達が一斉に右手を振り上げ

「キィィ!」

と甲高い声で応えた。

「今こそ、我らが新生デェーストロンの再興の時! 貴様らには存分に働いてもらうことになる! 心してその身を我らに捧げよ!」

「キィィ! キィィ!」

戦闘員達が猿のような奇声を上げる。

その男……ヨロイ元帥の後ろに立っていた、長い白髪をたなびかせた老人が口を開いた。

「しかしヨロイ元帥よ……お前ほどの男が仮面ライダーを取り逃すとはな……」

彼……ツバサ大僧正が苦そうに言うと、振り向かずにヨロイ元帥は、ニィ……と裂けそうな程口を開いて笑った。

しかし、重苦しい声でツバサ大僧正に返す。

「いや、何……やはり腐っても『仮面ライダー』……侮れん」

「本当に11号と名乗ったのか? どの組織が作り出したのだ?」

ツバサ大僧正の隣に立っていた、動物の頭骨のようなものを被った無骨な男が口を開く。

ヨロイ元帥はその男……キバ男爵を見て、彼らに向き直ってから静かに言った。

「私の言葉に偽りがあるとでも?」

「昔から戦闘狂のお前は信用できん。俺は、自分の目で見たものにしか確証を持たん主義でな」

「何だと……?」

真正面から侮辱を受けたヨロイ元帥が、目つきを鋭くしてキバ男爵を睨む。

「新しいタイプの仮面ラァーイダか……」

もう一人の壮年男性……ドクトルG(ゲー)が重苦しく口を挟んだ。

「仮面ラァーイダV3は死んだ。我らはそれを確認して、この地に再生を誓ったのだ。そこで新しい脅威とは、なかなか興味深い……我らが見た仮面ラァーイダV3は本物だったのかと、疑問に思うところも出てくるわ……」

「…………」

ヨロイ元帥が口をつぐんで、三人の鋭い視線に背中を向ける。

「くくっ……」

喉を鳴らして笑い、彼は続けた。

「直に分かる……」



暗い海の底に、沈んでいくような感覚だった。

体中の感覚が、冷えた水に奪われ、段々となくなっていく。

お母さん!

大声を上げて母の名を呼ぶ。

お父さん……!

その声には誰も答えない。

いや、そもそも声が出ているのか。

それ以前に。

僕は今どこにいるのか。

正彦はその事実に気が付き、身震いをした。

僕は……。

僕は、これから何を。

何をされるんだ。

手術台のような所に寝かされ、マスクをつけた男たちに覗きこまれている光景が、頭にフラッシュバックする。

恐怖。

狂気。

叫ぼうとしても体が動かない。

お母さん。

お父さん。

僕は……。



目を開ける。

曇った視界に、暗い電球に照らされた淀んだ空気が飛び込んできた。

手を伸ばして、手の平を顔の前に持ってくる。

何度か握って開いてを繰り返して、目の焦点を手に合わせる。

『リューイチ、目が覚めましたか』

安心したように枕元のアルズ端末から声がした。

「ここは……」

『ジャパンシティの地下シェルターの中です。あなたは十五時間ほど眠っていました』

「十五時間……」

繰り返すように呟き、龍一は体を起こした。

何だかものすごい、疲労のようなものが芯に溜まっている。

しかしそこで、龍一は自分の胸に何気なく手をやり、傷がどこにもないことに気が付き、慌てて着ていたシャツをまくりあげた。

きれいな肌が目についた。

おかしい。

確か、胸に……。

「俺……」

龍一はかすれた声を発した。

その言葉を発する前、「事実」に気づいてしまい、背筋に悪寒が走ったからだった。

「確か……ヨロイ元帥の攻撃を受けて、死にかけたよな……」

胸を手の平で叩く。

「何で……? 何で平気なんだ?」

『…………』

「どこも痛くないぞ……骨だって、折れてない。俺、何かされたのか?」

狼狽する龍一に、しばらく沈黙してからアルズは言った。

『リューイチ、落ち着いて聞いてください』

「…………?」

『あなたは、何かをされたのではありません。既に、何かをされている側の人間です』

「え……?」

『もう一度言いましょう。あなたは「改造人間」です』

「何だって?」

思わず聞き返して、龍一はアルズ端末を手に取り、大声を上げた。

「俺が? 俺が改造人間? だって、俺見た目も何もかも……人間じゃ……」

『骨折十五ヶ所。内臓破裂三箇所。外傷多数。あなたの十五時間前の損傷です』

「…………」

呆然とした龍一に、アルズは淡々と続けた。

『死んでいてもおかしくはない怪我が、一時間ほどでほぼ完全に治癒しました。強力な再生力が、あなたの体を自己修復したと思われます』

「再生力……? 何だ、それ……」

『生体機械の作用による自己治癒効果だと思われます。寝ている間にスキャンさせてもらいました。リューイチの体には、生体機械が八十五%組み込まれています』

その絶望的な事実を聞き、龍一は言葉を失った。

つまり。

つまり自分は……。

「俺……」

『…………』

「人間じゃ……ない?」

『厳密に言うと、改造人間に分類されます。国際規定規約で、人体の六十五%以上に改造が施された場合、「人間」とは認められなくなります。その意味ではあなたは、すでに人間ではないと言えます』

軽く乾いた笑いを発して、龍一は言った。

「はは……何言ってんだよ」

『…………』

「俺が改造人間……? 八十五%が機械? おい、悪い冗談だぜ……笑えねえ」

『冗談ではありません。私は、至って真面目に話をしています』

「何言ってんだよ!」

大声を上げて、龍一はアルズ端末に向けて叫んだ。

「冗談だって言えよ! お前、自分が何言ってるのかわかってるのか!」

『…………』

「俺は人間だ……人間なんだ……」

沈黙したアルズに、龍一は絞りだすように言った。

「だって、俺……普通にこうして、生きてるじゃないか……」

『人間かそうでないかの区別は、非常に曖昧なものです。その点では私は、リューイチが人間であるという事実を否定はしません。しかし、あなたの体に生体機械が組み込まれていること、これは事実です。それに、あなたはサイキック能力を使うことが出来ます。先日、石を投げたことを覚えていますか?』

「あ……ああ。蛾人間にか……」

『この世界はコリオリ力の変動により、物体は射出されても標的にほぼ当たりません。しかしあなたの放った石は、標的に直進したばかりか、ものすごい勢いで改造人間を貫きました。サイキック能力の補正を受けていたと考えるしかありません』

「…………」

『ですからリューイチ、あなたは……』

「そうだ。龍一、お前は『改造人間』だ」

そこで扉が開き、藤兵衛と壮年の男性が中に入ってきた。

「おやっさん……」

「思いだしたんじゃなかったのか? お前は正義のライダー。仮面ライダーだと」

言われ、龍一は言葉に詰まった。

まだ、頭のどこかにモヤのようなものがかかったままだったからだ。

「完全に思い出したわけじゃないんだ。ただ、俺は風見さん……V3と行動を共にしたことがある。その時に風見さんが俺に言っていたのは……」

「…………」

「お前は、仮面ライダーを名乗れって。そう言っていたことだけだ……」

「風見志郎……『仮面ライダーV3』か……」

藤兵衛はそう言うと、ベッド脇の椅子に腰を下ろした。

「このジャパンシティを占拠している、秘密結社『デストロン』は、風見……V3が戦っていた相手だ」

「何だって……?」

龍一はそう言って身を乗り出した。

「仮面ライダーは、秘密結社を根絶させたんじゃないのか?」

「そのはずだった。ヨロイ元帥も、既に死んでいる改造人間の一人だ。今回の件は裏がある。それも、俺達の思いもつかないような裏がな……」

そう言った藤兵衛の後ろから、壮年の白衣を着た男性が近づいてきた。

「君の体を調べさせてもらった」

「…………」

「私の名前は坂城健次郎。ここで医者をやっている。藤兵衛の友人だ」

「坂城達、生き残ったシティの上層住民は、デストロンから逃れて外に出る手段を講じているんだ」

「最も、それは今や絶望的だが……」

坂城はそう言ってから、パサリと龍一の前にレントゲン写真を放った。

「君の体だ。見たまえ」

促されて写真を手に取る。

そこには、人間の骨格とは思えないほど、微細に張り巡らされた白い筋が映っていた。

「何だ……これ……」

「生体機械、細胞レベルで人体と同じ機能を形作る、いわゆる『ナノマシン』というものだ」

「…………」

「ナノマシンは、形状記憶の特性も持っている。形作ったものを、自己修復するんだ。君の体は瀕死の重傷から、十時間程度で通常の状態に『修復』された。それはナノマシンの作用だ」
「これ……これって、まるで……」

――人間じゃ、ないみたいだ。

その一言を言えずに、乾いた喉に唾を飲み込む。

「龍一」

そこで藤兵衛が口を開いた。

「お前の気持ちはわかる。改造された人間は、ごまんと見てきたからな。ただ、これだけは言える。お前は……いや、お前たちはまだ人間だ。人の形をしている限り、人の心を忘れない限り、それはまだ人間なんだ」

「……そうだ。俺、ヨロイ元帥から……」

「…………」

「上層の市民は、既に三分の一は戦闘員に改造されてるって、聞いた……」

青くなり、龍一は藤兵衛の肩を両手で掴んだ。

「おやっさん! デストロンは俺みたいに……上層の市民を改造したのか!」

「ああ……そうだ。おそらく脳改造も施されているだろう。自我もなくなり、ただ戦闘するだけのマシーンに改造された人が大半だ。そうなればもう救う手立てはない」

坂城が歯を噛んで目をそらす。

藤兵衛はまっすぐ龍一を見て続けた。

「お前はまだ脳改造をされていない。つまり、正義の自我がある。戦え。お前は仮面ライダーとして、正義を執行するんだ」

「正義……」

「聞いてくれ龍一。この上層に生き残っている人を外に誘導する。それにはお前の力が不可欠だ。協力してくれ」

「外に……? でも、外に出たって、デストロンの攻撃は……」

言いよどんだ龍一に、藤兵衛は頷いて続けた。

「ああ。だが、国連軍がもう少しでここに到着する。そいつらに市民は保護してもらう。俺が連絡した」

「国連……おやっさん、あんた一体……」

「時間がない。説明を始めるぞ」

坂城がそこで割って入った。

そしてベッド脇のテーブルに地図を広げる。

上層の詳しい地図だった。

「私達が隠れているシェルターはここ。そして……」

ペンで地図をなぞり、彼は続けた。

「デストロンの秘密結社は、上層の国会議事堂を占拠している。確認されているだけで、デストロンには『幹部』と呼ばれる強力な改造人間が、四体いる。君が戦ったヨロイ元帥もその一人だ」

坂城はそう言って、手に持っていた小型の携帯端末のスイッチを入れた。

薄暗い壁に、端末から光が伸び、映画のように監視カメラの映像が映し出される。

「これがヨロイ元帥。上層の警備隊は、こいつ一人に壊滅させられた。三十分もかからなかったよ……」

映像に映しだされたヨロイ元帥を見て、龍一の背筋に悪寒が走った。

完膚なきまでの完敗。

その勝利者を見て、恐怖が胸の奥に広がっていく。

「これはキバ男爵。その隣にいるのがツバサ大僧正。そしてこの男が、ドクトルG(ゲー)だ。全員、ヨロイ元帥と同等の力を持っている」

「そしてこいつらも、改造人間だ。龍一、お前のように『変身』をする」

藤兵衛が言葉を引き継ぐ。

それを聞いて、龍一は青くなった。

「え……ヨロイ元帥は、あれが本当の姿じゃないのか……?」

「ああ。こいつらが、かつてV3が倒したデストロンの幹部だとすれば、更に強力な姿に変わる可能性が高い。お前を倒したのは、仮の姿での話だ」

「あんなのが……更に三体……そして本当の力じゃない……?」

龍一は引きつった笑いを発した。

「はは……冗談じゃねーぞ……」

「確かに、四対一じゃ今のお前に勝ち目はない。それに戦闘員も多数いるしな。正面突破しようとしたら、なぶり殺しにあうのがオチだ」

残酷な死刑判決を、あっさりと藤兵衛は言い放った。

「だが、こいつらを分散させる方法はある。風見から教わらなかったか? 多数の強力な敵と喧嘩する時は、まず戦力を分散させろ……とな」

「分散……理屈ではそうだけど、どうやって?」

「国会議事堂を、上層の一区画ごと爆破する」

藤兵衛はこともなげに言い放つと、地図の何箇所かをペンで指した。

「ここと……ここと、ここ。この三点が上層の支柱になっている。坂城達は、そこに大量の爆薬を仕掛けているんだ。一斉に爆破させれば、国会議事堂があるフロアが完全に崩れて埋没する」

『……確かに、構造上その箇所を爆破させれば、フロアが崩れ落ちますね』

今まで黙っていたアルズが口を挟んだ。

『その作戦で、戦闘員の大多数は無力化できるかもしれません』

「待てよ、おやっさん」

龍一がそこで口を開く。

「戦闘員だって、元は上層の市民なんだろ? 何とかして助けなくていいのか……?」

すがるような疑問だった。

龍一自身も、既に何人か「殺して」いるのだから。

しかし藤兵衛は、龍一を横目で一瞥してから、地図に視線を戻し、淡々と言った。

「脳改造が施され、完全な改造人間になってしまったら、もう元には戻れない」

「そんな……!」

「意思も自我も、何もかもがなくなるんだ。人間ではなくなる。分かるか? それはもう、人間の形をしたロボットなんだよ」

「でも……でも! 元は人間だ!」

龍一は大声を上げて、シーツを握りしめた。

「人間だったんだろ……!」

俯いて声を絞り出した龍一に、坂城が静かに言った。

「引導を渡してやってくれないか」

「…………」

「自分の意志とは関係なく、『同じ人間』を襲う魂の苦しみは、筆舌に尽くしがたい。君には、その呪縛から彼らを解き放ってやれる力がある」

「物は言いようだぜ、おっさん。俺に人殺しをしろってのか! 自分にその力がないから!」

「ああそうだ……! 私にはその力がない!」

ドン、と壁を叩いて坂城は龍一に怒鳴り返した。

「君は正義の仮面ライダーではなかったのか? ここに生き残っている、無改造の人間達を、『したくない』という理由だけで、既に改造された人間を倒せずに、見捨ててもいいとでも言うのか!」

「俺はそんなことは言ってない!」

「熱くなるな、二人とも」

藤兵衛がゆっくりと口を開く。

「龍一、お前の言いたいことも、その気持もよく分かる。だが、脳改造をされたらもうそれは人間ではない。事実であり、真実なんだよ。倒すしかない」

「…………」

言葉を失った彼の頭をワシワシと撫でて、藤兵衛は続けた。

「つらいだろう。苦しく、訳がわからないだろう。だが理解しろ。お前がそれでも見捨てられないって言うなら、行動で示せばいい。それがお前の『正義』なら、それに準じればいい。俺はとめないよ」

「おやっさん……」

「……時間がない、藤兵衛。デストロンがいつ仕掛けた爆弾に気づくか分からない。早く計画を実行に移したい」

坂城が息を吐いて言葉を挟む。

「分かった。龍一、とにかくここから、生き残った人を脱出させる。その作戦を伝える。協力してくれるな?」

龍一は歯を噛んで、拳を握りしめた。

そしてそれを振り上げ……。

ドンッ、と壁に叩き付けた。

合金のシェルター壁が放射状にクレーターを開き、ベッコリと歪む。

ウワンウワンと重低音が部屋の中に響いた。

「……当然だ!」

壁に映し出されたヨロイ元帥を睨みつけながら、彼は言葉を絞り出した。



藤兵衛と坂城が発案した、デストロン幹部分断作戦、名づけて「国会議事堂爆破作戦」は、極めてこちらに不利な条件だった。

期待できる戦力は、シェルターに保管されていた爆薬と刃物類、そして「龍一」のみ。

百人以上の生き残りを、国会議事堂を爆破して、注意をそちらに引き寄せ、地下道を通ってスラム街に誘導。

国連軍が到着するまで、スラム街で耐えるという内容だった。

国会議事堂そのものを爆破するので、中にいるはずの四大幹部の連携を断ち、うまくいけば分断、各個撃破できるかもしれない。

しかしそれはあくまで希望的観測だ。

龍一自身もその爆発で、状況認識ができなくなるのが最大の問題だった。

爆発などものともせずに、幹部が突入先で固まっていたら。

アウトだ。

賭けとしては分が悪すぎる博打だった。

そもそも、爆弾が正常に作動するかどうかも分からないのだ。



『リューイチ、勝率が極めて低い作戦です。離脱をすすめます』

上層の排気口を匍匐前進で進んでいた龍一に、アルズが静かに言った。

「離脱? 逃げろってことか?」

『はい。あなたは、このままではデストロンに殺されます』

断言してから、アルズは続けた。

『タチバナトウベエも、サカシロケンジロウも、あなたの力を利用しようとしています。しかしながら、あなた一人だけなら、この上層を脱出可能です。百人以上の市民を連れての脱出、幹部の撃破は極めて難しいと思われます』

「見捨てて、逃げろってことだよな……」

『はい』

繰り返した龍一に、端的にアルズが答える。

龍一は乾いた声で笑い、小さく呟くように返した。

「はは……俺だって逃げたいさ……」

『…………』

「でもな。今ここで逃げたら……俺、何も分からないままだ。何もできないままだ。負け犬で、臆病で、卑屈な『人間』のまま終わっちまう……いや、人間以下で終わっちまうんだ。そんなのは嫌だ。俺は全部知りたい。心に決着をつけたい。だから……」

『正義……ですか』

アルズがそれに返す。

『あなたの正義とは、その独善的思考のことなのですか?』

「独善的……?」

『一方的に振りかざす正義は、その力が強大になればなるほど凶器となります。それを……』

「アル、悪い。時間だ」

アルズの声を打ち消し、龍一は目の前の排気口を外し、端末の明かりをたよりに、排気ダクトの中に降りた。

「ここは国会議事堂の真上のフロアのはずだな?」

『……はい。階下にエゾルデ反応多数。改造人間です』

「変身はできるか?」

『一回の着装時間は、長くておよそ三十分程度です。サイキックエナジーを使うほど、時間は短くなります。一回変身後は、最短でも十五分は再着装不可能です。よく考えて変身してください』

「分かった」

短く受け答え、龍一は端末を手に持って、、眼下の空間……国会議事堂の中を見下ろした。

「いた……」

四人の男たちが、離れた壇上にいた。

「ヨロイ元帥……!」

歯を噛む。

鉄球と蟹のような兜を被ったヨロイ元帥が、キバ男爵と思われる男と何かを話している。

「何やってんだあいつら……?」

率直な疑問を口に出すと、アルズは短く答えた。

『通信しているようです』

「通信? 誰とだ……」

『傍受も出来ますが、チューニングに時間がかかります。爆発まで、残り二十秒。衝撃に備えてください』

「爆発の瞬間変身する。その後は、各個撃破だ!」

『……了解。残り十秒。九、八、七……』

「頼むぜおやっさん……」

爆弾は遠隔で藤兵衛が爆破することになっている。

そして、アルズがゼロ、と言った瞬間。

豪炎と爆音、轟音、そして周囲全体を揺るがす爆炎が、四方八方から吹き上がった。

「うお……!」

思わずよろめいて、押し殺した声を発する。

「爆薬の量が多すぎだろ……!」

『このフロアが下に崩落します。変身を』

「分かった!」

グラグラと揺れ、階下に落ち始めたフロア。

まるでだるま落としのように、国会議事堂フロアが崩れて、タワーが崩落を始める。

龍一はその中で端末を掲げて叫んだ。

「変身!」

白い光が彼の体を包み、一瞬後、白黒のボディスーツと、昆虫の頭部のような姿になって、阿鼻叫喚の地獄絵図と化した国会議事堂に飛び降りる。

瓦礫が次から次へと雨のように降り注いでいた。

戦闘員達がそれに押しつぶされ、断末魔の叫び声を、至るところで上げている。

「くそ……!」

それを横目で見ながら、龍一は燃え盛る炎の奥の奥に立っている、ヨロイ元帥をまっすぐ睨みつけた。

ヨロイ元帥は百メートル以上離れている場所で、龍一の姿を見とめると、ニヤァ……と口が裂けそうな程開いて笑った。

一瞬後、彼の姿は崩落したタワーに潰されるように消えた。

龍一はそこで、タワーが崩壊を続ける中、襲いかかってきた戦闘員の攻撃を、振り返ることもなく跳んで避けた。

バク転の要領で地面を転がりながら、彼は逃げようともせずに自分を取り囲む戦闘員達に向けて怒鳴った。

「やめろ! 俺はあんた達を助けに来たんだ!」

瓦礫が頭上に迫る。

龍一はそれを間一髪で避けると、吹き荒れる炎の中、特殊警棒を振り下ろした戦闘員の胸に蹴りを入れた。

まるで発泡スチロールのように戦闘員が吹き飛び、壁にブチ当たって動かなくなる。

「くそっ……戦うしかないのか……!」

『龍一、微弱な生体反応です』

「何だって?」

アルズがそこで口を挟んだ。

『人間の反応があります。距離五十。動いていません』

「どうしてこんなところに!」

飛びかかってきた戦闘員の顔面に拳を叩き込む。

手加減はしていたのだが、顔骨が砕け、首の骨が折れ曲がる感触がした。

「畜生! 加減がきかねえ!」

『強力なエゾルデ反応が近づいています。エマージェンシーコールレッド。ヨロイ元帥と同等の生体パルスです!』

「その生体反応はどこだ!」

『右に三十度曲がってください』

アルズの指示通りに行くと、瓦礫に足を挟まれた小さな影……子供だと思われる戦闘員の姿があった。

「戦闘員……」

『そこから発せられています』

「まさか……改造されきってないのか! この子は!」

しゃがんでその戦闘員のマスクを剥ぎ取る。

そこには、機械が首の下まで埋め込まれた少年の顔があった。

彼は小さく呻くと、か細く目を開けた。

そして龍一の顔を見て悲鳴を上げる。

「待て! 俺は味方だ。今助けてやる!」

「お母さん! 嫌だ! まだ死にたくない!」

『エゾルデ反応来ます。迎撃してください』

アルズの声と間髪を置かずに、反射的に身を屈めた龍一の頭上を、かまいたちのような風が通り過ぎた。

周囲に突風が巻き起こり、たまらず龍一は吹き飛ばされ、重力に反して、凄まじい勢いで、崩落しかけている天井に突き刺さった。

「があ!」

舌を噛んだ。

血の味が口の中に広がる。

『損傷は軽微です。避けてください!』

「言われなくてもな!」

アルズに怒鳴り返し、龍一は天井を蹴って、自分に向けて放たれたかまいたちのような空気の渦を避けた。

天井がすさまじい勢いで炸裂し、先ほどの少年にバラバラと瓦礫が降り注ぐ。

龍一はとっさに少年の上に覆いかぶさるようにして彼を守った。

「ひ……」

「俺は……味方だ……」

瓦礫に押しつぶされそうになりながら、龍一は言った。

そしてそれを跳ね除け、少し離れたところに立っていた、動物の頭骨のようなものを被った男に向き直る。

「仮面ライダー11号……アルズか」

男……キバ男爵はそう言って、くっくと喉を鳴らして笑った。

「失敗作を庇って傷を受けるようではな。まだまだ甘さがあると見える」

「貴様らァ……」

龍一は歯を噛んで、キバ男爵に対して拳闘のポーズをとった。

「ほう……赤心少林拳か。その構え、データ上でしか見たことはなかったが」

「俺のこの拳闘を知っているのか!」

「くくく……学ばない奴め。元帥も言ってはいなかったか?」

ドン、と手にしていた杖を地面に叩きつけ、キバ男爵は、崩落が収まり、燃え盛るフロアの中叫んだ。

「それを死に往くお前に教える筋合いはないと!」

「……おのれデストロン!」

少年を庇うように立ち、龍一は怒鳴った。

「許さん!」

崩落が収まったことにより、生き残った戦闘員達が続々と周りに集まっていた。

早くこのキバ男爵を仕留めなければ、龍一自身の身も危ない。

「ドーブー!」

キバ男爵が甲高い声を上げ、両手を天に伸ばす。

その背中が、まるで昆虫の脱皮のようにバリリと割れた。

そして人間の体の中から、蛾人間や虎人間の時のように、異形の体が姿を現した。

象……いや。

マンモス。

鼻の長い獣の顔。

右手は人間の腕。

左腕はマンモスの足。

「フシュゥゥ……」

息を吐き、キバ男爵は喉を鳴らした。

「血が足りぬ……」

「変身……くそ!」

できれば変身をする前に仕留めたかったのが本音だった。

しかし、過ぎたことを言っても仕方がない。

無理矢理に思考を戦いに切り替える。

キバ男爵は鼻を振ると、近くにいた戦闘員に蛇のように巻きつけ、鼻先をその腹に突き刺した。

戦闘員が悶え苦しみ、その体が水分を失ったように細く、小さくなっていく。

ミイラのようになったそれを脇に放ると、彼は足を踏み出した。

ズシン、という重低音がして、周囲に地震のような揺れが広がる。

「お前ら……手出しをするなよ。これは私と11号の戦いだ……」

周囲の戦闘員にそう言うと、キバ男爵は構えを解かない龍一に対して、振り上げたマンモスの腕を打ち下ろした。

『サイキックフィールド全開! 避けてください!』

アルズの切迫した声が龍一の耳を打つ。

しかし龍一は避けなかった。

背後に少年の姿を見て、歯を噛んで息を整える。

そして衝撃波をまとって豪速で振り下ろされたマンモス腕に対し、手の平で一抱えのボールを包み込むような動きをする。

受け止めるのではなく、受け流す。

するっ、とマンモスの腕が龍一の体の脇を通過した。

龍一はその隙を逃さず、ぐるりとその場を反転すると、固めた拳を振り上げ、全身の体重を込めてキバ男爵の頭を殴りつけた。

『サイキックナックルを使用します』

青白い光が拳から走り、キバ男爵の頭に吸い込まれる。

しかし、相手は倒れなかった。

よろめいて数歩下がっただけで、首の骨をゴキゴキと鳴らして息をつく。

「電パンチは私には効かんぞ……対策をさせてもらったからな」

「何ィ……?」

「サイキックフィールドを張れるのが自分だけだと思ったか? 私のフィールドで、サイキックエネルギーを分散させ、衝撃とともに散らしている。お前の技は効かん」

「…………」

「しかし、赤心少林拳の『梅花』の型までもを使うとは、少々驚いた。それに敬意を評し、一瞬で終わらせてくれるわ!」

「く……!」

歯噛みする暇もなく、キバ男爵は口を開き、赤い霧を噴き出し始めた。

『強力な溶解酸の霧です! 近づいてはいけません!』

霧に触れた龍一のスーツの手の部分が、ジュゥッ、と音を立てて煙を上げる。

「どうする! この霧を梅花で受け流して見せろ!」

杖を手に持ち、彼はそれを振った。

竜巻が巻き起こった。

それは赤い霧を吸い込み、赤い竜巻となり龍一に襲いかかった。

背後の少年を横目で見て、龍一はそれを庇って身を屈めた。

「くそ……!」

竜巻が龍一を飲み込んだ、かのように見えた。

次の瞬間だった。

崩落した天井から、一人の男が降ってきた。

「変ッ身ン!」

彼は空中で両手を振り上げると、それを回して、反対側に勢い良く振った。

「ブイスリィァ!」

空気をつんざく声が辺りに響き渡った。

「トゥア!」

彼は雄叫びを上げると、まさに龍一に突き刺さろうとしていた赤い竜巻に飛び込んだ。

次の瞬間、竜巻が逆回転を始めた。

赤い、霧とは違うクリアな光が竜巻の中心から吹き上がる。

「な、何ィ!」

キバ男爵が悲鳴のような絶叫を上げる。

パアァンッと空気が炸裂した。

霧が吹き飛ばされ、まさに霧散する。

中指と人差し指を立て、右手を立てて左手で肘を触る構えを、男は取った。

「貴様はァ!」

キバ男爵が引きつった声を上げる。

「あ……あんた……あんたは!」

龍一が顔を上げて、大声を出した。

トンボのような頭部。

ボディスーツ。

赤い仮面。

緑の複眼。

そして、白いマフラー。

「そうだ! 俺の名は!」

彼はしっかりとした声で叫んだ。

「仮面ライダー! ブイスリィァ!」

「V3だとォ! 貴様は死んだはずでは……」

明らかに狼狽して、キバ男爵がよろめく。

V3と名乗った男、仮面ライダーは龍一を見て言った。

「いつまでボーッとしている。行くぞ、相葉」

「俺の名前か……?」

「……? お前、記憶が……」

「ちぃ! だがここで遭ったのは好都合! まとめて仮面ライダーを二匹葬ってくれるわ!」

キバ男爵が叫んで、体をのけぞらせる。

「死ねェ!」

彼の牙が二本、まるでミサイルのように切り離され、火花をまき散らしながらV3と龍一に襲いかかった。

龍一は拳闘の構えをとり、突き刺さる直前の牙を手で触り、体を回転させる勢いで受け流した。

V3は自分に突き刺さりかけていた牙を見て

「V3サンダー!」

と叫んだ。

彼の触覚が白く光り、周囲に一瞬、雷のような放電が走る。

仮面ライダー達の目の前と背後で、ミサイル牙が爆発した。

『リューイチ、サイキックスラッシュを使用してください。あなたの打撃が効かないなら、斬撃でトドメを』

「分かった!」

龍一は呼応するように声を上げ、右腕を振り上げた。

「V3! 赤熱ゥ!」

V3は続けて叫び、地面を蹴り、天井を三角飛びの要領で蹴り飛ばして、キバ男爵に向けて一筋の光となった。

「キィィィク!」

V3の右足が真っ赤に発光した。

それがキバ男爵の右半身を吹き飛ばした。

「がああああ!」

着地して床を数十メートルも滑ったV3に続くように、龍一は右腕を大きく天に伸ばし、地面を蹴った。

その右腕が白く光り、手首から鋭い、黒光りする刃が現れて形成される。

「ライダァァ!」

「ひ……」

右半身を失ったキバ男爵が、後退りして悲鳴のような声を上げる。

「キ、キバ一族に……栄光あれぇぇ!」

「スラァァッシュ!」

頭部から一刀両断されたキバ男爵が、バチバチと放電して、一拍後、大爆発を上げた。

『残存サイキックエナジー、五十パーセントを切りました。強力なエゾルデ反応が近づいています』

アルズの冷静な声を聞きながら、龍一はゆっくりと近づいてくるV3を、まっすぐと見た。

「V3……風見さん! 生きてたんですね!」

「馬鹿野郎」

ふっ、と彼……風見志郎は笑った。

そして少年に近づき、彼の足を挟んでいる瓦礫を片手で放り投げる。

「俺は不死身の男、風見志郎だぞ。相葉、外に出るぞ。ここは分が悪い」

「は……はい!」

少年を抱え上げ、風見は襲いかかってきた戦闘員に蹴りを入れ、その勢いで、自分が降ってきた天井の穴に飛び込んだ。

龍一も床を蹴ってそれに続く。



物陰からそれを見ていた人影が、ゆらりと動いた。

彼……ヨロイ元帥は、くすぶっているキバ男爵の残骸に近づくと、その爆発した頭部に手を入れ、中から機械の塊のようなものを取り出した。

少しして、ノイズ音と共にキバ男爵の声がそこから流れ出す。

「……元帥……か……よかった……俺を……『ラボ』に……早く……連れて行け……」

「くくく……ははは!」

面白そうにヨロイ元帥は笑うと、無言でキバ男爵の声がするそれ……「核」を握りつぶし、脇に放り捨てた。

「嫌だね」

彼の楽しそうな声が、空気に紛れて消えた。



「ここで迎撃するぞ、相葉!」

タワーの外の廃墟で、風見は龍一に向けてそう怒鳴った。

そして抱えていた少年を瓦礫の隅に降ろし、怯えている彼の前にしゃがみこみ、言った。

「安心しろ。俺達は、君を助けに来たんだ。一緒にここを抜け出そう」

「デストロンの改造人間じゃないの……?」

少年はそう言って、顔をしかめた。

彼の、潰された右足からバチッと青白い放電が走る。

「くそっ……ムゴい……」

歯噛みした龍一を一瞥してから、風見は少年に向けて頷いた。

「ああ。俺達は『仮面ライダー』……人類の味方だよ。君の名前は?」

「ま……正彦」

「そうか、正彦。ここで静かに隠れているんだ。必ず迎えに……」

「お……お願いがあるんだ!」

少年はそう言って、風見にすがりつくようにしがみついた。

「お母さんとお父さんが、同じように改造されて、あの中にいるんだ!」

「何だって……?」

龍一は呆然として、先ほど抜け出してきたタワーを見た。

「……分かった。俺達に任せてくれ。それより、君はどうして脳改造を免れたんだ?」

「のう……改造?」

正彦はそう呟くと、両肩を抱いて震えだした。

「……よく分からないんだ。ただ、お医者さんみたいな人たちが、僕のことを『失敗作』だって……」

「失敗作だと……!」

龍一は拳を握りしめ、ギリ、と歯を噛んだ。

「デストロンめ……」

「相葉、お前に色々説明してやりたいが、今はその時間はない。キバ男爵はさっき倒したが、幹部クラスが、まだいるはずだ。それに……」

『リューイチ、エゾルデ反応が複数接近しています』

風見は龍一に背を預ける形で構えをとった。

「あのタワーの地下に、改造人間の生産プラントがあった。破壊しないと、強力な改造人間が出現する可能性もある」

「で、でも風見さん。俺達外に出てきちまいましたよ!」

「アホな質問をするな。あんな閉塞的な空間で、大多数を相手に戦う馬鹿がどこにいるんだ。敵を一掃してからラボを破壊する。物事には順序ってもんがあるだろ」

風見はそう言ってから、腰につけた発煙筒のようなものを取り外し、天に向けてボタンを押した。

バシュッ、と音がして、小型の装置が射出される。

それは上空二十メートルほどで静止すると、その場をくるくる回転し始めた。

「あれは……」

「『V3ホッパー』だ。周囲の探知ができる」

そう言ってから、彼は額のランプを点滅させながら続けた。

「幸い今は深夜だ。闇に紛れることができる。戦闘員多数……幹部クラスのエネルギー反応が三つ。他に改造人間は見られないが……何故だ……」

「仮面ラァーイダV3! まさか生きていたとはな!」

『上空を高速で接近するエゾルデ反応あり!』

「上か!」

突然上空から浴びせられた声に、龍一と風見は同時に空を見上げた。

月明かりに照らされ、コウモリのような羽根と頭部をした男と、それに片手で掴まり、ぶら下がっているもう一人の改造人間……まるでカニかサソリのような頭部に、鎧をまとった男がいた。

カニ人間は、上空十数メートルから手を離すと、ズゥン、と重低音を立てて風見の前に着地した。

続いて龍一の前に、コウモリ人間が着地する。

「少々驚かされたが……儂ら幹部の同時攻撃を、今の貴様らにかわすことができるかな……」

気味の悪い笑い方をしながら、コウモリ人間が口を開く。

「ドクトルGに……ツバサ大僧正! いや、カニレーザー、死人コウモリ! 貴様ら悪の化身は、何度蘇っても、この不死身の男! 仮面ライダーV3が倒す!」

風見がドクトルGと呼んだカニ人間、そしてツバサ大僧正と呼んだコウモリ人間が、それぞれ龍一、風見を囲むように、ゆっくりと回り始める。

「気をつけろ、相葉。こいつらは強い」

「……はい!」

頷いて拳闘の構えを取る。

次の瞬間、ドクトルGが

「死ねィ! 仮面ラァーイダ!」

と叫び、額に付いているパラボラアンテナのような装置を龍一に向けた。

風見が反射的に龍一の頭を掴んで、その場にしゃがみ込む。

光が、彼らの頭をかすめるように通り過ぎた。

少し離れた廃墟にそれは吸い込まれていき……一拍後、放射状に爆炎が吹き上がり、炸裂した。

「な……!」

言葉を失った龍一に、アルズが淡々と言う。

『強力な熱線です。直撃すれば、装甲五まで貫通し、スーツが蒸発すると考えられます』

「来るぞ!」

風見が怒鳴る。

いつの間に空中に飛び上がったのか、コウモリ人間が遥か上空で翼をはためかせ、その場をグルグルと回転し始めた。

「儂の死の高速回転を受けてみよ!」

「蒸発せよ!」

ドクトルGも頭のアンテナを構える。

ツバサ大僧正が、回転しながら「降って」きた。

風見と龍一に向けて急降下する。

龍一はそちらに向けて拳闘……赤心少林拳の「梅花」の型を取った。

彼と背中合わせに、風見がドクトルGに向けて構えを取る。

ドクトルGの額が輝き、帯状になった熱波が地面を抉り、二人のライダーに向けて飛びかかってきた。

「相葉! やるぞ!」

「はい、風見さん!」

二人が叫び、同時に地面を蹴る。

ドクトルGの熱波が二人がいた場所を通過して、はるか遠くの瓦礫に突き刺さり大爆発を上げる。

龍一は自分達に向けて急降下してくるツバサ大僧正に向けて、遥か上空まで軽々と飛び上がった。

そして回転しているコウモリ人間の翼を掴み、体をぐるりと反転させて、回転の勢いを利用してその背中に乗る。

「ツバサ大僧正! 悪いが終わりだ!」

「何ィ!」

「零距離! ライダァァ!」

足でツバサ大僧正の背中を踏みつけながら、両翼を掴んで、龍一は彼ごとその場を回転した。

そして、まるでハンマー投げのような要領で、一回転して、ツバサ大僧正を下に、地面に自らを叩き付けた。

「キィィィック!」

「がああ!」

絞りだすような絶叫を上げ、ツバサ大僧正は、クレーター状に陥没し、衝撃が放射状に広がった地面のその中心で、体を痙攣させて横たわった。

龍一が何度かバク転をして彼から距離を取る。

「仮面ラァーイダ! くっ……」

ドクトルGが、自分に向けて拳を突き出したV3の動きを避け大声を上げた。

「チィ! これを見ろ!」

その手には、爆弾の起動スイッチのようなものが握られていた。

V3が彼から距離を取り、押し殺した声を発する。

「何だ……?」

「我らは、安易で強力な武器を開発中でな! その一端をお見せしよう!」

いつの間に集まっていたのか、戦闘員達が龍一と風見を取り囲んでいる。

それらが羽織っている、ベストのようなものを見て、龍一はハッとした。

あれは……。

もしかして、あれは……。

「貴様ら……」

風見が歯ぎしりしてドクトルGを指さす。

「外道がァ!」

全員、爆薬を搭載したベストを羽織っていた。

「いくら仮面ラァーイダと言えども、これだけの数の『動く爆弾』から、身を守ることは容易では無いだろう!」

「少し見ない間に、ずいぶんと外道になったじゃないか、ドクトルG……」

V3の声を聞き、楽しそうにドクトルGは笑った。

「何、少し現実を見つめなおしただけだ……そういう貴様は、いまだに甘さが抜けきらんらしい……」

「人間爆弾だと……」

龍一は押し殺した声を発して、拳を握りしめた。

「改造人間でも、人間じゃなかったのか! 貴様ら、人間の姿をしてるだけで、もう人間じゃないのか!」

「何を言っている……」

呆れた声を発し、ドクトルGは右手を天に上げた。

「貴様ら、行け……」

「キイィィ!」

甲高い叫びを上げ、戦闘員達が次々と仮面ライダーに襲いかかる。

「仮面ラァーイダを押さえつけろ! 物量ではこっちが圧倒している!」

数十人の戦闘員が一度に襲いかかってきたのだ。

捌ききれずに、龍一は腕を取られ、歯噛みした。

「畜生! 風見さん、どうすれば!」

「脱出するぞ! さすがにこれだけの爆薬の爆発は不味い!」

風見はそう言って手を伸ばした。

襲いかかってきた戦闘員のマスクに指がひっかかり、バリリと音を立ててそれが破れる。

中から出てきた顔を見たのか、物陰に隠れていた正彦が叫んだ。

「お母さん!」

「何だって!」

気を取られた龍一が、十数人の戦闘員に押さえつけられて、地面に磔にされる。

「くっ……隠れていろと言ったはずだ!」

「いいのか仮面ラァーイダ? 貴様らが逃げればあのガキを殺す」

鉄のようなドクトルGの言葉に、風見が歯噛みして動きを止める。

同様にV3も地面に磔にされた。

足から放電しながら、地面を這うようにして、正彦はこちらに近づいてきた。

そして龍一を押さえつけている母に向けて、必死に言葉を発する。

「お母さん! 僕だよ、正彦だよ! お母さん!」

反応はなかった。

既に戦闘員として完全に改造され、意識も、自我も何もかもが失くなってしまっているのだった。

「ククク……ハァーハハハ! これで終わりだァ!」

ドクトルGが高笑いし、手元の起動スイッチを押そうとした瞬間だった。

ドッ。

鈍い音がした。

ドクトルGの背中から胸に、何か棒のようなものが突き出した。

否。

腕だった。

指先までをもピンと伸ばした右腕が、ドクトルGの胸を貫いていたのだ。

「ア……?」

呆然としてスイッチを取り落とし、彼は、腕が引きぬかれ、大穴が空いた自分の胸をかきむしるような動作をしてから、その場に膝をついた。

口笛が聞こえた。

倒れこんだドクトルGの頭を勢い良く踏みつけ、グチャリ、とそれを踏み抜いた男が、口笛を吹いていたのだ。

「この音色は……」

風見が呟く。

口笛が止んだ。

「天が呼ぶ……地が呼ぶ、人が呼ぶ!」

そこに立っていたのは、風見や龍一ととても似た姿形をした男だった。

バッタのような頭部。

そして、筋骨隆々として、はちきれそうなほどにふくらんだ上半身。

おそらく二メートルは軽くこえているであろう、巨体。

背中にはマントのようなものを着用している。

「城茂……? いや、違う……!」

「悪を倒せと俺を呼ぶ!」

ドクトルGの残骸を踏みしめて、彼はよろめきながら起き上がったツバサ大僧正に、ゆっくりと大股で近づいた。

「俺は正義の戦士! 仮面ライダー! ガッツ!」

『ガッツ』と名乗った仮面ライダーは、雄叫びを上げて地面を蹴ると、ツバサ大僧正に、巨体の肩をぶち当てた。

悲鳴を上げて吹き飛んだコウモリ人間に、また地面を蹴り、吹き飛んだ勢いで肉薄する。

そして地面を滑りながら何度も拳を叩き込んだ。

「百烈拳! 喰らえェ!」

「ぐあああ!」

「Finish !!!」

振りぬいたガッツの拳が、ツバサ大僧正の胸を捉え、そのまま天に打ち上げた。

空中に錐揉みに回転しながら吹き上がり、弧を描いて彼が地面に落下する。

何か大量の液体を吐き出し、コウモリ人間は手をタワーの方に伸ばした。

「デ……デストロンに……栄光あれぇ!」

次いで、その体が膨れ上がり、大爆発を起こした。

体内の小型原子炉が爆発したのだ。

「すっげぇ……」

唖然として呟いた龍一を、離れた場所から一瞥し、ガッツは大股で近づいてきた。

戦闘員達が特殊警棒を振り上げ、ガッツに向けて一斉に振り下ろす。

特にガードする素振りも何もなく、また、彼は歩みを止めなかった。

「全然……ッ」

頭を殴りつけられ、胸を殴られ、ついにはナイフで腕や足を突き刺されても、彼は足を止めなかった。

「蚊ほども効かんわ!」

両手を脇に振って、ガッツは戦闘員を振り飛ばした。

そして一人一人、目にもとまらない速度で拳を顔面に叩きこむ。

「相葉! 何をしている!」

戦闘員の拘束を振り払って、風見が怒鳴る。

龍一も拘束を振り払い、拳闘の構えを取ると叫んだ。

「やめろ! この人達は人間だ!」

「お母さん!」

正彦が絶叫する。

彼の母が、ガッツに向けて特殊警棒を振り上げて襲いかかったのだ。

一瞬のことだった。

カウンターの要領で放たれたガッツのジャブが、正彦の母の胸を貫いた。

「お母さぁぁん!」

龍一はその光景を見て、動きを止めた。

否。

動くことができなくなったのだ。

俺は……。

俺達は……。

どうすればいい?

何を守って。

何を救うためにここにいる?

俺は……。



血に濡れた仮面ライダーガッツが咆哮する。

龍一は、それをただ呆然と見ることしか出来なかった。



第4話に続く!!!

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仮面ライダーアルズ 第2話 敵は地獄のデストロン

注:この小説は創作小説です。現存する団体とは一切関係がありません。

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仮面ライダーアルズ
……Masked Rider Al-z

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第2話 「敵は地獄のデストロン」

仮面ライダー、本郷猛は改造人間である。
彼を改造したショッカーは、世界征服を企む悪の秘密結社である。
仮面ライダーは、人間の自由のためにショッカーと戦うのだ!!

――「仮面ライダー」より




人間大の巨大な培養槽が立ち並ぶ部屋だった。

薄暗い照明。

薬品の臭いが充満している。

一面に立ち並ぶ、緑色の培養液に満たされた培養槽は、その数だけでも百数個はあるだろう。

そこの中には、それぞれチューブがいくつも差し込まれていて、真ん中に何かが浮いていた。

いや、何か……ではない。

「ヒト」だ。

膝を抱えた全裸の男性が、目を閉じて培養液の中ほどに浮かんでいる。

生きているらしい。

時折、口に挿し込まれたチューブから、ゴポポと水泡が漏れている。

一面、同じ光景だった。

全員同じ大きさ、同じ背格好。

髪型。

顔つき。

そうだ、これは……。

全員――。



「っは……!」

声にならない悲鳴を上げて、龍一は飛び起きた。

初めて見る夢だ。

頭が割れそうな程に、ガンガンと痛んでいた。

頭を押さえて呼吸を整える。

あばら屋の、いつもの部屋。

龍一の部屋のベッドの上だった。

そこで龍一は、着ていたジーンズのポケットからアルズの声がすることに気がついた。

端末を取り出すと、モニターに表示されていた「×」が「○」に変わる。

『血圧は正常のようですが、脈拍が異常値ですね。何か嫌な夢でも見ましたか?』

淡々とそう聞かれ、龍一は端末を膝の上に置いてから、ふーっ……と息を吐いた。

頭にもやがかかったように、強烈な倦怠感が体を襲っていた。

自分が何をしていたのか、明確に思い出せない。

蛾のような人間。

そして、昆虫のようなスーツを着た姿に変容した、自分。

仮面ライダー。

V3の声。

それらの単語が、めまぐるしく脳裏を駆け巡っている。

しかし頭の中でまとまらずに、どれも霧散して消えた。

――そうだ。

「紗代子……」

小さく呟いて、龍一は携帯端末に向けて怒鳴った。

「紗代子はどこだ!」

『リューイチ、落ち着いてください。サヨコ嬢は無事です』

静かにアルズが返す。

『しかし……』

「そこからは俺が説明する」

そこで、ギィ……と扉がきしんだ音を立てて、藤兵衛が顔を出した。

「おやっさん……」

『…………』

口をつぐんだアルズを一瞥してから、藤兵衛は静かに言った。

「大体の話は、そこのプログラムから聞いた。龍一、お前が紗代子を助けたんだってな」

「俺が……? アル、お前、おやっさんは……」

『タチバナトウベエの協力は、あなたの保護に不可欠でした。優先度を鑑みて、要請したわけです』

抑揚を感じさせない声でアルズが言う。

藤兵衛は軽く舌打ちをすると、ベッド前の椅子に腰を下ろした。

「プログラムごときに交換条件を持ちだされるとはな。俺も甘く見られたもんだ」

『…………』

「交換条件?」

龍一がそう聞くと、藤兵衛は苦そうに答えた。

「『それ』から聞いたんだろう。俺が昔、犯罪者だったってな」

「おやっさん……いや……それは……」

口ごもった龍一を見て軽く笑ってから、藤兵衛は続けた。

「その情報は、あながち嘘じゃない。俺は『ショッカー』、『ゲルショッカー』……そして『デストロン』。まだまだあるが……それらの悪の秘密結社と、戦ったことがあるからな」

「デストロン……」

呟いた龍一は、動悸を抑えるように息を吐いてから問いかけた。

「それは一体何なんだ? 俺は、その名前を聞くと、言い表せないようなドス黒い気分になるんだ」

「三十年以上前に滅びたとされる、世界征服を目的とした秘密結社だ。人体改造、破壊、略奪、集団殺人、ありとあらゆる非人道的行為で、世界中を絶望に陥れた」

「世界……征服?」
言葉の単純さとは裏腹の、籐兵衛の重苦しい声を聞き、龍一は言葉を唾とともに飲み込んだ。

「嘘のようだが本当の話だ。世界は、三十年前は今よりももっと混乱していた。各地でそのような秘密結社が続出してな。いわゆる、テロ組織ってやつだ」

「でもおやっさんは、そいつら悪と戦ってたんだろ? なのに何で犯罪者登録されてるんだよ!」

大声を上げた龍一に、籐兵衛は静かに返した。

「お前、『戦犯』って言葉知ってるか?」

「戦犯……?」

「三十年前にいきなりその秘密結社が、殆ど全てなりを潜めるようになったのには訳がある。『バダン』という組織が、大量虐殺兵器を完成させたからだ。無差別に敵であれ味方であれ破壊するそれは、テロ側にも国連側にも甚大な被害を与えた」

「…………」

「俺達は、その兵器を止めることができなかった。組織は壊滅したが、そのせいで沢山の人々が死んだ……俺達は、世間一般からみれば正義の味方でもなんでもねぇ。戦いのせいで、その兵器が作られたって言う奴も多い。国連政府もその一つだ」

「だからって……」

「人間は、誰かのせいにしねぇとやっていけねぇんだよ。そういうもんだ」

どこか寂しそうにそう言うと、籐兵衛は顔を上げて龍一を見た。

「それよりも、紗代子だ」

「そうだ……あいつは無事だったのか?」

「無事だ。だが、発作が起こってな……」

苦々しそうに籐兵衛は言った。

「ここじゃ、鎮痛剤を与えるので精一杯だ。手術が必要だ」

「手術って……ここにはそんな設備は……」

絶句して言葉を失った龍一に、籐兵衛ははっきりとした声で言った。

「そうだ、ここには到底そんな設備はない。だが……」

「…………」

「上層には、どうだ?」

「まさか……おやっさん」

目をむいた龍一に、籐兵衛は軽く歪んだような笑みを発してみせてから言った。

「お前の力と、俺の頭脳があればいける。行くぞ、上層に」



「お前は一体……何なんだ?」

月明かりが砂漠を照らす。

寒さを感じる、真昼とは全く違った空間で、龍一はマントを目深にかぶって空を見ていた。

『あなたと同じです。私には一切の記憶野がありません』

「…………」

無言を返して月を見る。

大気の変動により歪んだ楕円形に見えるそれは、しかしくぐもった光を周囲に撒き散らしていた。

紗代子は、龍一が救出してから程なくして意識を失ったらしい。

発作だと藤兵衛は言っていたが、まだ目が覚める気配がなかった。

聞くところによると、心臓の病だけではないらしい。

早く手を打たなければ、まずい。

それは医療の心得がない龍一にもよく分かることだった。

「でも……おやっさんに、正体を通報しない代わりに俺を保護しろって……そんなことを言わなくても、おやっさんは俺のことを助けてくれたはずだ」

『……それはどうでしょう。リューイチ、あなたはタチバナトウベエのことをどの程度知っていますか?』

「それは……そう言われれば俺は……」

――何も、知らない。

その事実に気がついて口をつぐむ。

「……それより、あのスーツ、また出せるのか?」

『試してみてください』

「分かった!」

頷いて、龍一は立ち上がった。

そして月に向かって端末を掲げ、声を上げる。

「変身!」

『…………』

何も起こらなかった。

ただ風が龍一の頬を撫でる。

「あれ……?」

『やはりそうですか』

「やはりって、何だよ?」

『フレキシブルサイキックアーマー、通称「ライダースーツ」は、あなたのサイキックエナジーと連動して起動、電送されます』

「でも、あの時は確かに……」

『サイキックエナジーは感情によって、爆発的に増大及び減少をします。今の感情状態では、起動に至るまでのサイキックエナジーが足りないのだと思われます』

龍一はため息をついて、その場に腰を下ろした。

「おいおい頼むぜ……これから上層に忍び込もうって時に……」

『私のせいではありません。リューイチ、あなた自身の感情が足りないのです』

はっきりそう返され、肩をすくめる。

「はいはい。もうちょっと追い詰められないと駄目ってことね。でもそれって、イマイチ不安だな……本当に実戦で使えるんだろうな」

『未確認ゆえ何とも断定できません』

そこで龍一は、藤兵衛があばら屋から顔をのぞかせたのを見て立ち上がった。

藤兵衛は医療道具と、眠っている紗代子を乗せた小型の電気ジープを、倉庫の中で起動させているところだった。

「行くぞ、龍一。プログラム」

「分かった、今行く」

龍一は頷いて倉庫に足を踏み入れた。

ライトで照らしながらジープを起動させ、藤兵衛は地図を取り出し、運転席に広げた。

そして乗り込んできた龍一にもそれを見せる。

「紗代子の具合が安定しないから、急ぐぞ。ここから、上層の『タワー』までおよそ五十キロ。ジープをかっ飛ばせば、一時間半ほどで着く。夜中の二時には到着って寸法だ」

「だけどおやっさん、俺さっきもやってみたけど、やっぱり変身できない。見張りの機動隊を蹴散らして、無理やり上層に進入するって、無理があるぜ」

「できる。紗代子を助けたいだろう?」

断言され、龍一は言葉を飲み込んだ。

藤兵衛はドン、と拳で龍一の胸を叩き、言った。

「その気持ちがあれば、変身なんて訳がない。お前は勝てる」

「おやっさんのその自信が、どっからくるのか分かんねぇよ」

「それに、まだ言ってなかったが、上層には何度か物資調達の為に侵入してるんだ。当然見張りがほとんどいないルートも知ってる。タワーには知り合いの医者もいるからな」

「何だ……それを早く言ってくれ」

「正面突破して入るとでも思ってたのか?」

肩をすくめて龍一は助手席に腰を下ろした。

「そうと決まったら、早く行こうぜ。紗代子、危ないんだろ?」

後部座席をのぞき込むと、呼吸が荒い紗代子が寝かされているのが見えた。

「……ああ」

藤兵衛は頷くと、アクセルを踏んでジープを発進させた。

「何だか嫌な予感がしてな……」

「嫌な予感?」

「そうだ。そして残念なことに……俺の予感は、殆ど当たる」



上層は、円形に張り巡らされたスラム街の中心部に存在している、半径わずか五キロほどの、スラム街の一区画にも満たないスペースだ。

そこには全長五百メートル程の長大な『塔』が建てられていた。

地上、地下に伸びるそれは、いわゆるビルのようになっていて、中には建造物が詰まっている。

水道、空調管理されたスラム街とは異なる空間が広がっているわけだ。

機動隊や上層市民はその中で暮らしている。

下層と上層の区別ははっきりしていて、下層市民は、半径一キロ以内に立ち入ってはいけないことになっている。

そこには鉄製の塀が張り巡らされていて、越えれば殺許可が出る、とも聞かされていた。

理不尽。

下層市民からすればまさにその言葉が当てはまる待遇だ。

藤兵衛はジープのライトを消し、極力音が出ないように低速で進むと、地図に丸をつけた区画の、寂れた塀の脇で車を停めた。

見張りもいないが、そこは廃墟となったスラム街の一角だった。

人の気配がないそこの塀は、大きく崩れている場所があった。

「こんなところが……」

龍一がそう言うと、藤兵衛は押し殺した声でそれに返した。

「上層の闇の一端だな。奴らだって神じゃない。ほころびは出るもんだ」

「ここからどうするんだ?」

「下水道に入る。そこから地下に行って、知り合いの医者の設備を借りる」

「分かった」

「お前は、もし見張りに発見されたら……」

そこまで藤兵衛が言った時だった。

『リューイチ、エゾルデ反応です』

アルズが声を上げた。

「エゾルデ……?」

藤兵衛が怪訝そうな顔をする。

『デストロンの改造人間が発する生体パルスです。距離百。複数』

「何だと……?」

二人は顔を見合わせると、青くなってジープの影に隠れた。

「どこだ?」

龍一が声を殺して、端末を顔の前に掲げて、塀の隙間から中に向ける。

しばらくしてアルズは答えた。

『砂漠を巡回しているようです。デストロン戦闘改造体も十二体確認。いずれもエゾルデ反応を発しています』

「戦闘員もいるのか……!」

藤兵衛が歯噛みする。

「こんなところで何を……戻るしかないか……」

龍一は、ジープの後部座席で荒く息をしている紗代子を横目で見た。

そしてマントをたなびかせ、塀の方に歩き出す。

「龍一!」

低い声で呼ばれ、彼は振り返って言った。

「俺が引きつける。おやっさんはその間に、紗代子を連れて下水道に入ってくれ」

「敵は武装してる。ただの人間じゃない!」

「どうやらこっちも、それは同じってね……」

龍一はワインレッド色に拡散した瞳と瞳孔で藤兵衛を見た。

口をつぐんだ藤兵衛の前で、龍一は小さく笑ってみせた。

「俺は……『仮面ライダー』……V3を師匠に持つ、絶対正義のライダーだ」

「お前……記憶が……」

「断片的だけど思い出した。約束したんだ。俺は……弱い者の牙になるって……!」

『サイキックエナジー、急激に増大。白兵プログラムを起動します。オールレディ。フレキシブルサイキックアーマー、電送出来ます』

アルズが淡々と言う。

龍一は、崩れた鉄製の塀の前で、端末を天に掲げて叫んだ。

「変身!」

白い光が彼の体にまとわりつき、一瞬後、それは昆虫のような複眼、そして白黒のボディスーツに変化した。

砂を踏みしめ、異形の姿と変わった龍一は塀の上を見上げた。

「リューイチ、エゾルデ反応がこちらを向きました。応戦してください」

「もう気づかれたのか……!」

押し殺した声でそう言って、地面を蹴る。

暗闇のはずなのに、周りの様子がはっきりと見えた。

軽く踏み出しただけの足は、ものすごい勢いで地面をえぐると、たちまち龍一の体を上へと運んだ。

そのままの勢いで、彼は傾いた鉄製の塀を駆け登ると、塀を一気に飛び越えた。

そして砂を鳴らしながら向こう側……「上層」の敷地内に降り立った。

少し離れた所で、黒尽くめのボディスーツを着た数人の男たちが、徘徊するように歩きまわっていた。

顔は覆面に隠されていて分からないが、手には特殊警棒を持っている。

龍一の目は、その中の一人に釘付けになった。

「なん……だ、あれ……?」

思わず呟いて硬直する。

それほど、見えたその姿は異様だった。

赤い……虎のようにみえる。

猛獣の頭部をしたそれは、両腕がカニのような鋏になっていた。

異形、まさにそう呼ぶにふさわしい姿。

体は大きく、猛獣の毛皮に覆われたそれは、二メートルを超えるだろうか。

龍一の脳裏に、先日の蛾人間の姿がフラッシュバックする。

この虎人間も。

もしかしたら、あのように人間を……。

拳を握りしめる。

白と黒のボディスーツに身を固め、龍一は複眼を赤く光らせながら、瓦礫の影で呼吸を整えた。

塀を越えた先は砂漠になっているのかと思っていたが、そうではなかった。

外と同じような廃墟が広がっている。

はるか向こうにそびえ立つ一つの塔が見える。

『リューイチ、来ます』

アルズの声が耳元で聞こえる。

次の瞬間、龍一は殆ど考えることなく、本能的な動きでその場に一気に屈んだ。

首筋に、悪寒が走ったからだった。

今まで龍一の頭があった場所を、ガチンッ、と音がして何かが瓦礫ごと挟み込んだ。

瓦礫の破片を蹴り飛ばし、少し離れた場所に転がる。

顔を上げると、全長一メートルはあろうかという「鋏(はさみ)」が、瓦礫をバターのように両断している光景が見えた。

いつの間に近づいてきたのか、虎人間がすぐ後ろにいた。

「何なんだ……あれ!」

『デストロンの改造人間だと思われます』

「改造人間って、どういうことだ!」

異常にも程がある、そう怒鳴ろうとして龍一は口をつぐんだ。

黒尽くめのボディスーツの男達……特殊警棒を持った「戦闘員」と藤兵衛が呼んだ者達が、ずらりと自分を取り囲むのが見えたからだった。

虎人間は、鋏をガチン、と開くと瓦礫の破片を脇に放り投げた。

次いで切断された瓦礫が、そこからボコボコと溶岩のように沸騰し、蒸発して消えた。

『あの鋏は、強力な溶解酸を発しているようです。このサイキックアーマーでも、おそらく直撃すれば装甲3まで破られます』

「話し込んでる暇はないってことか!」

声を上げ、龍一は虎人間に対して拳闘の構えをとった。

戦闘員に囲まれているが、違う。

彼の中の何かが、周りの戦闘員よりも、あの虎人間に対して警鐘を鳴らしていた。

「イイィ!」

異様な甲高い声を上げ、戦闘員達が警棒を振り上げ、一斉に龍一に襲いかかる。

背後から振り下ろされた一撃を、龍一はそちらを見もせずにかわした。

そして相手の腕を掴み、ぐるりと体を反転させて、そのままの勢いで背負い、地面に叩きつけた。

毬のように地面を跳ねた男の胸に、考える間もなく拳を叩き込む。

二度砂に叩きつけられた戦闘員の体から、地面に放射状に打撃痕が広がった。

骨が砕ける嫌な感触。

しかし。

――躊躇してはいけない。

心の何処かの記憶が、龍一をまるでマリオネットのように突き動かしていた。

考えている暇がなかった。

一斉に警棒が頭に振り下ろされ、龍一は腕を振り上げてそれを受けた。

両腕に鈍い痛みが走る。

『サイキックフィールドにより衝撃を軽減しました。損傷は軽微です』

「何か武器はないのか!」

『現時点では、「サンダーボルト」が使用可能です』

「使うぞ! 俺の掛け声に合わせろ!」

『了解』

ボディスーツの肩装甲がバクン、と音を立てて開き、凄まじい勢いで水蒸気が噴出した。

龍一は自分に組みかかってきた戦闘員の腹に肘を叩き込み、そして流れるような動きでその顔面を殴りつけた。

戦闘員の顔の骨が粉々に砕け散る感触。

崩れ落ちたそれを投げ飛ばし、龍一は屈んで足を伸ばし、一気にその場を回転した。

襲いかかろうとしていた戦闘員達が足を払われて転がる。

「今だ! 3、2、1……」

『武装「サンダーボルト」を使用します』

右腕が、肘からバチバチと放電のような音を立てて、白い光を放ち始めた。

龍一はその光を、間髪をいれずに、雄叫びとともに地面に叩き込んだ。

一拍後、白い光を叩きこまれた地面から、半径十メートル程の範囲が白く円形に光った。

次の瞬間、ゴウッ、と天に向けて光が走った。

その時間は一瞬だったが、龍一を中心としたその熱は、地面の砂を溶かし、瓦礫を吹き飛ばし、凄まじい勢いで柱となり空の雲に突き刺さった。

数秒後、龍一はボディスーツの各部から白い煙を噴出しながら、赤く円形に溶けた砂の中心で、腰を落とし、目の前に向けて拳闘のポーズをとった。

丁度爆発の範囲のすぐ外に、虎人間が立っていた。

間一髪で逃れていたらしい。

戦闘員達は、放出された膨大な熱量により、火を上げて燃え盛る、無言の躯と化していた。

『残存サイキックエナジー、三十%を切りました。着装可能時間、残り三百秒です。カウントダウンを開始します』

「来るぞ!」

アルズの声を掻き消すように叫んで、龍一は虎人間が、地面を蹴ったのを確認したのと同時にその場に腰を落とした。

そして前を確認もせず、肩口から、急接近していた虎人間の胸にぶつかる。

手を伸ばし、自分の頭を両断しようとしていた鋏を、手首ごと掴んで押し戻す。

「ククク……」

そこで虎人間が、口を開いて笑った。

つばぜり合いのようになりながら、龍一は押し殺した声を発した。

「蛾人間の時と同じだ……会話ができるのか!」

「実験体が完成していたとはな……今更我がデストロンに何の用だ?」

「実験体……? どういう意味だ、化け物め!」

「化け物……ククク……ハァーッハッハハ!」

虎人間は不意に高く笑うと、足を伸ばして龍一の胴体を蹴り飛ばした。

よろめき、そのままバク転の要領で、龍一は突き出された鋏をかわして距離をとった。

「なるほど。お前には我々がそう見えるのか。てっきり『同志』だと思ったんだがな」

『着装限界まで、あと二百四十秒』

アルズの淡々とした声が聞こえる。

「同志……? 化け物に知り合いはいねぇ!」

「丁度いい。相葉博士の遺品を持ち帰れば、私にも不死の身体をいただけるかもしれん! 貴様は溶かさず、四肢をバラバラにして持ち帰ってくれよう」

虎人間が、両手の鋏を上に向けて、強く振った。

鋏の内側から金属音を立て、鋭い刃が競り上がる。

『着装限界まで、あと二百秒』

「どうやら難しく話してる時間はないようだ……」

龍一はそう言って、右手を伸ばし虎男に向け、腰を落とした。

「一つ聞いておくことがある。人間は……美味かったか?」

低くそう問いかける。

虎人間は少しの間きょとんとしていたが、やがて裂けそうな程口を開いて、喉を鳴らし笑った。

「あぁ……私は脳髄が好きでね。特に子供の……女の子の脳髄は甘くて……旨いなぁ」

「……二つはっきりしていることがある。一つは……デストロンは俺の敵ということと……」

虎人間が雄叫びを上げ地面を蹴り、空中に飛び上がる。

「俺は、貴様らのような異形を許さない、絶対正義の『仮面ライダー』ということだ!」

『武装「サイキックナックル」を使用します。サイキックエナジー増大。三十、五十、ナックルフルチャージ。撃てます』

虎人間が空中から、落下の速度そのままに腕を突き出す。

それを龍一は紙一重で首をひねって避けた。

刃が頭部の一部を削りとって通過する。

頭に鋭い痛みを感じる間もなく、龍一は落下してきた虎人間の胸に、青白く光る右拳を、体全体の重みを込めて、流れるように叩き込んだ。

拳が、炸裂した。

衝撃の瞬間、青白い光が爆発したのだ。

その爆発は虎人間の体を、まるで花火のように上空二十メートル近くまで軽々と打ち上げた。

絶叫を上げて、血反吐を吐き散らしながら、きりもみに回転して虎人間は宙を舞い……。

そして、体内の小型原子炉が潰れたのか、空中で轟音と、一瞬昼間かと思うような閃光を上げ、爆散した。

『サイキックエナジー、残存ありません。着装を強制解除します』

アルズの声が聞こえ、膝をついた龍一の体がスーツごと白く光る。

一拍後光が消え、龍一は汗だくになりながらその場に両手をついた。

心臓が破れそうなほど脈動している。

右手に握りしめた端末から、しかしアルズの無機的な声が響いた。

『今の爆発で、この区画に警備が集まってくると思われます。ここを離れなくてはいけません』

バラバラと虎人間の残骸が、肉片、骨、何だかよくわからない機械など……それらが地面に落下してくる。

「離れるって……どこに……?」

『タチバナトウベエの提示した地図をスキャンしておきました。上層区画に通じる下水道が近くにあります。ナビに従い避難してください』

「わ、分かった」

どもりながらそう答え、龍一は立ち上がり、力が入らない足を抑えるようにして歩き出した。



「斥候にやった改造体が、やられたようですな……」

「やはりこの反応は……」

「仮面ライダー……」

電気もついていない真っ暗な部屋の中に、四人の人影があった。

全員が黒いマントとフードを目深にかぶっており、その表情は伺い知れない。

一人がその単語を呟くと、周囲に緊張が走った。

「『V3』か……?」

「奴は死んだはずだ。だからこそ我々は、この地での再生を選んだのだ……」

「監視映像が到着したようだ……確認を」

一人がそう言って計器を操作すると、壁のスクリーンに、丁度、拳で虎人間を破壊する龍一の姿が映し出された。

「おお……」

「これは……」

四人の男たちがそれを見て絶句する。

「新しいタイプの『仮面ライダー』だと……?」

「しかしこれは……紛れも無く、あの……」

「ああ。コードネーム、『ストロンガー』の『電パンチ』だ……」

一人の男が進み出て、フードの奥の瞳を、怪しく赤く光らせた。

「私が行こう」

「ほほう……ヨロイ一族が、ここを仕切るか……」

「我ら『新生デェーストロン』の敵は、排除しなければならない……ここ、ジャパンシティでの再興計画の障害になる者は、消しておくに限る。それとも……ツバサ一族が出るか?」

「ククク……我らが出るまでもなかろう」

いやらしい声で、ツバサ一族と呼ばれた男が笑う。

進み出た男は、マントをなびかせてそれぞれに背を向けた。

「もしもこの『仮面ライダー』が、今までのタイプの特性を持っているとすれば、厄介だ……潰しておくに限るだろう」

「改造体は出すかね?」

「いらん」

喉を鳴らし、男は笑った。

「あの程度ならば、私一人で問題はない」



「おやっさんは無事に下水道に入れたのか……?」

押し殺した声で、龍一はアルズに問いかけた。

アルズは少し沈黙した後、それに返した。

『分かりません。混乱に乗じて侵入できたと考え、私達も後を追うしかないと思われます』

「派手にやり過ぎた……これ脱出する時どうするんだ?」

『…………』

歯噛みして、龍一は足元の砂を踏みながら、ライトを前に向けた。

乾いた臭いがする、円形の巨大な水道管の中だった。

今は使われていないのか、水は流れていない。

頭上でバタバタと何かが走り回っている音がした。

おそらく、先ほどの戦闘員達なのだろう。

アルズがエゾルデ反応を感知していることからも、そう予測できる。

「……どうしてデストロンの改造人間が、上層区画をうろうろしてるんだ?」

そこで龍一は、低い声で胸の奥にくすぶっていた疑問を絞り出した。

てっきり機動隊がいると思っていた。

しかし現実、中にいたのは異形の化け物と……戦闘員。

『分かりません。しかし……』

「…………」

『……仮定の話になりますが、このシティは、デストロン勢力に、秘密裏に制圧されてしまっているのではないのでしょうか?』

一拍置いてアルズがそう言う。

龍一は唾を飲み込んで、それに返した。

「つまり……上層はもうデストロンの残党が……」

『はい。でなければ、あれだけ堂々と行動している理由にはならないと思われます』

「上層の市民は無事なのか……?」

そう呟いて、龍一はハッとした。

「おやっさん……! 中に知り合いがいるとか言ってたな。おやっさんと紗代子が危ない!」

『急ぎましょう。タチバナトウベエは片足が義足です。追いつけると思います』

「ああ、急ぐぞ!」

下水道の中を走りだす。

しばらく走ると、行き止まりになっている脇に錆びついたはしごが見えた。

その上のマンホールが開いている。

「ここから出たのか! 追うぞ!」

短いはしごを登ると、龍一は地図が示していた上層区画の中に出た。

そこは、スラム街とは全く異なった空間だった。

舗装された道路。

整った町並み。

「何だ……ここ……」

唖然として呟く。

街灯に照らされたそこは、あまりに綺麗で……そして、残酷なほどに別世界だった。

ほんの少し離れただけで、こんなにも違う生活環境。

空調が効いているのか、空気は寒くも暑くもなく、クリアだ。

砂の気配はない。

しかし、建物の中だということを嫌でも思い出される程に、天井が低かった。

三メートル弱くらいしかないだろうか。

アルズが沈黙しているのを見て、龍一は端末を覗きこんだ。

「おい、こっちでいいのか? おやっさん達はどっちだ? 中の地図もスキャンしたんだろ?」

『リューイチ、引き返してください』

「あぁ? 何でだ。折角侵入できたんだし……」

『罠です。この一帯に、一切生命反応がありません』

「何……?」

『改造人間のエゾルデ反応多数。囲まれています。加えて、サイキックエナジーの回復に、あと三分程必要です。チャージ後、ここは屋内のため、アーマーの転送をするには現在位置のスキャンを行わなければいけません。つまり、即座に変身ができません』

一切生命反応がないって、どういうことだと聞き返そうとして口をつぐむ。

視界に、特殊警棒を持って腰を落とし、自分を取り囲むように輪を作った戦闘員達が近づいてくるのが見えたからだった。

建物の影から、続々と溢れるように黒尽くめの戦闘員が出現する。

「この人数……」

次いで

「イィィ!」

という声とともに、龍一が出てきたマンホールから、数人の戦闘員が躍り出る。

『退路を絶たれました。非着装状態での戦闘は危険です。着装可能まで、残り二分四十秒。なるべく電波状態がいい場所に移動してください』

「くそっ……!」

毒づいて走り出す。

そして龍一は、考える間もなく、正面の戦闘員に肩口からぶつかった。

まるで鉄のような衝撃が体を襲った。

跳ね返されはしなかったものの、戦闘員ともつれ合ってその場に転がる。

そのまま、龍一は包囲網を背に、必死に街中に向かって走りだした。

「何だっ……あいつら、えらく硬いぞ!」

『アーマー着装状態と非着装状態では、あなたの力には天と地ほどの差があります。戦闘は避けてください』

「何でお前そんなに冷静なんだ!」

中の道路は、螺旋状になっているようだった。

タワー型のこの上層内を、ぐるぐると巻くように取り囲んでいる。

上に向かっているのは明らかだった。

藤兵衛達は、地下にいるはずだ。

「畜生……おやっさん達と離れちまう……」

『着装可能まで、残り二分です。やはりこの一帯に、「人間」の生体反応がありません』

「人間がいないってことか?」

龍一はそう怒鳴って、建物の影に滑り込んだ。

天井の通気口から、数人の戦闘員が躍りかかってくる。

その突き出された拳を身を捻って避ける。

戦闘員の拳は、そのまま舗装された道路に突き刺さり、砕け散らせた。

「ちっ……まだか!」

『残り一分三十秒。耐えてください』

「このままじゃ殺されるぞ!」

青くなり、飛びかかってきた戦闘員に蹴りを叩き込んでから、龍一はあることに気がついた。

やけに戦闘員の背丈が、バラバラだ。

子供くらいの大きさの者もいれば、龍一よりも大きな者もいる。

――まさか。

まさか……。

デストロンは。

その事実に気がついて、龍一は思わずその場に足を止めた。

『リューイチ、危険です。走り続けてください』

「改造人間って……人間を改造することだよな……」

『逃げてください。着装可能まで、残り一分です』

躍りかかってきた戦闘員が、警棒を振り上げる。

それにしたたかに頭を殴られ、龍一は地面に叩きつけられた。

『リューイチ!』

アルズの声が響く。

しかし龍一はそれに構わず、頭から血を流しながら、戦闘員の足に組み付いて引き倒した。

そしてもがくそれのマスクをむしりとる。

そこで彼は、息を呑んで背後に飛び退った。

マスクの下にあったのは。

機械がところどころに埋め込まれ、まるで別の生き物のようになってしまった……。

男性の、人間の顔だった。

顔からパイプやランプが飛び出していて、瞳は正気を失ったようにグルグル動いている。

視点が定まっていないのに、体は動いている。

その異様さは筆舌に尽くしがたいものがあった。

「まさか……デストロンは、上層市民を全員改造したのか!」

悲鳴のような声を上げる。

その龍一を、多数の戦闘員達が警棒を構えながら取り囲んだ。

『着装可能まで、残り四十秒』

「ククク……ハァーハッハッハ!」

そこで龍一は、少し離れた道路からけたたましい笑い声が聞こえたのを耳にして、そちらに向けて拳闘の構えをとった。

「誰だ……!」

戦闘員達の動きが止まる。

「いかにも。このシティに住む愚民共の、三分の一は既に、我ら『新生デェーストロン』の崇高なる兵士として、人体改造の礎となっている」

黒いマントとフードを目深に被った男が、建物の影から顔を出した。

『着装可能まで、残り三十秒』

「仮面ライダー……新しいタイプか。何の目的があるのか分からんが、一人で乗り込んでくるとは馬鹿な奴よ」

「お前は……!」

「我が名は『ヨロイ元帥』……新生ヨロイ一族の長なり!」

戦闘員達が、いきなりバラバラと散って龍一から距離を取る。

ヨロイ元帥と名乗った男は、フードを音を立ててむしりとり、マントを脇に放った。

カニのような兜を被った、大柄の男だった。

体には異様な色の鎧を着込んでいる。

左腕は巨大な鉄球になっている。

異形。

まさに異形の姿だった。

「上層の人達を……改造したのか!」

「ククク……それがどうした? 見たところ貴様も『実験体』の一人のようだな。相葉博士の遺品か。興味深い……」

「俺のことを知っているのか!」

『着装可能まで、残り十秒、九、八……』

カウントダウンを始めたアルズ端末を握りしめ、龍一は歯を噛んだ。

「丁度いいぜ……化け物! てめぇをぶっ飛ばして、あらいざらい吐かせてやる!」

「威勢がいいな……ガキが……」

ニマァ、と不気味に笑い、ヨロイ元帥は続けた。

「そういうのは、嫌いではないが……死ね。処刑の時間だ」

地面を蹴ったヨロイ元帥の姿が消えた。

唾を飲んだ龍一に、鈍重な外見とは思えない速度で肉薄し、彼は腕の鉄球を、龍一の脳天に向けて振り下ろした。

『着装できます』

「変身!」

携帯端末を掲げて叫ぶ。

龍一の体に白い光がまとわりつき、一瞬後、彼は再度昆虫のような頭部、そして白黒のボディスーツに身を包んだ。

振り下ろされた鉄球を両腕で受ける。

すさまじい衝撃が体を襲い、それは足を伝って地面に突き刺さると、放射状に舗装された地面を砕いて、破裂させた。

「ぐああ!」

悲鳴を上げて、龍一はそのまま道路を突き破り、一階層下まで吹き飛ばされた。

地面に大穴があいていた。

下の階層の建物に、屋根から突き刺さり、水道管をぶち砕きながら、龍一は背中から壁に叩きつけられた。

「うっ……」

衝撃で目がかすむ。

舌を切ったらしく、マスクの奥の口の中に血の味が広がった。

『損傷率十%。サイキックフィールドを貫通しました。受け続ければ危険です』

「どうした仮面ライダー」

天井の穴から、下にドサリと降り立ち、ヨロイ元帥は笑った。

「V3はこんなものではなかったぞ」

「戦ったことがあるのか……風見さんと!」

よろめきながら起き上がった龍一を見て、ヨロイ元帥は喉を鳴らした。

「風見志郎……たしかそんな名だったな。正確には私が戦ったのではないのだがな……」

「どういう意味だ!」

「それを貴様に教える必要はない。なぜなら貴様は……」

地面を蹴り、まるで車のような速度で彼は龍一に肉薄した。

「ここで死ぬんだからな」

首を掴まれ、龍一の体が宙に浮く。

そのままの勢いでヨロイ元帥は、人一人を片手で持ち上げて、壁に叩き付けた。

そして地面を蹴り、龍一の背でコンクリート製の壁をぶち破った。

「ぐはあ!」

体中がバラバラになりそうな衝撃が龍一を襲う。

首を掴まれているので、息ができない。

ヨロイ元帥は龍一の首を掴んだまま振りかぶると、まるで野球のボールのように、彼の体を上空に投げ飛ばした。

そしてその場で体を反転させ、自由落下してきた龍一の胸に、空気を切って唸りを上げた鉄球を叩きつける。

『いけない! サイキックフィールド、全開にします』

アルズの声と間髪を置かず、受け身もとれなかった龍一の胸に、鉄球が抉りこまれた。

そのまま砲丸のように、龍一は一直線にその階層の天井に突き刺さった。

「うわああああ!」

わけも分からず絶叫する。

天井を砕いてぶち抜け、彼はそれでも足りず、一つ上の階層の天井に衝突し、合成コンクリート製のそこに半ばまでめり込んで止まった。

内臓が破れたのだろうか、口の中に血の味と鉄の味が一気に広がった。

胸に穴が開いたかのように、感覚がなかった。

遅れて体中から力が抜け、赤い複眼からフッ、と光が消える。

龍一の体は、標本台に磔にされた虫のように、ベリ……と合成コンクリートから剥がれると、力なく眼下の地面に崩れ落ちた。

(俺は……)

声が出ない。

視界がぐるぐると回っている。

目の端に、ヨロイ元帥が地面の穴を飛び越えて、こちらの階層に降り立ったのが映る。

瓦礫を踏みしめながら近づき、彼は龍一の頭を掴み、万力のような力を込めながら持ち上げた。

「終わりだ。『実験体』ライダー」

(絶対正義の……)

『鉄球の周りにサイキックエナジーを確認。先ほどの攻撃によりアーマーが七十五%損傷しています。再構築が必要です。フィールド全開により、サイキックエナジーダウン。残存五十%です。リューイチ、抜けだしてください。次喰らえばアウトです』

冷静なアルズの声を聞きながら、龍一は力が入らない腕に、全身の力を込めようとして失敗した。

(仮面ライダー……)

――お前は、力無き者の牙となれ!

風見の声が、頭の中に反響した。

光が失われていた複眼が点滅し、赤く、強い光が漏れだした。

「俺は……」

頭を砕かんばかりの力で握りしめられ、持ち上げられながら、龍一は絞りだすように言った。

「仮面ライダーだ……」

「んん? 恐怖で狂ったか?」

怪訝そうな顔をしたヨロイ元帥を睨みつけ、龍一は血反吐とともに言葉を叫んだ。

「絶対正義の! 仮面ライダー……仮面ライダー十一号! 『アルズ』だ! ヨロイ元帥……貴様を殺す!」

龍一の右足が、バチバチと放電しながら青白く輝き始めた。

「これは……ちぃ!」

舌打ちをして、ヨロイ元帥は龍一の頭をとっさに離した。

その今まで顔があった場所を、人間離れした動きで半回転し、振りぬいた龍一の右足が通過する。

そのまま龍一は腕を伸ばして地面を掴み、三段跳びの要領で空中に躍り上がった。

『サイキックウェーブ反応、急激に増大。三十、五十、八十……撃てます』

「ライダァァ!」

「『電キック』か!」

天井を蹴って、きりもみに回転しながら、龍一は光となった。

「反転! きりもみィ!」

「何……!」

一筋の流星が、ヨロイ元帥が振りぬいた鉄球に突き刺さる。

「キィィィック!」

「ぐぅううう!」

歯を噛み締めてその場に身を屈めたヨロイ元帥の足元、その地面が砕け、流星の勢いにまかせて一つ下の階層、いや……二つ、三つ、四つと次々に螺旋状の道路を吹き飛ばして抜ける。

合計五つ、直線距離にして二十メートル以上も落下し、龍一は止まった。

吹き飛ばされたヨロイ元帥が、壁に鉄球を打ち当てて体勢を立て直し、地面に滑りながら着地する。

『サイキックエナジー、残存ありません。電送を解除します』

白い光が霧散し、龍一の体からボディスーツとヘルメットが消える。

吐いた血でどろどろになった顔で、龍一はまっすぐヨロイ元帥を睨みつけた。

二人の間を乾いた風が吹く。

「お、俺は……俺は……」

「…………」

「貴様らのような……悪を……あ、悪を……許さん……!」

震える手を伸ばし、龍一は指を立ててヨロイ元帥を指した。

「覚えておけ……俺は……絶対正義。正義のライダー……『仮面ライダーアルズ』だ……!」

そこまで言った龍一の目が、ぐるりと暗転し白目をむく。

ドチャリと力なく地面に崩れ落ちた龍一を、足を踏み出してヨロイ元帥は見下ろした。

そして鉄球を振り上げ、彼の頭に振り下ろそうとする。

しかし、その動きが止まり……。

次の瞬間、ヨロイ元帥はゴブッ、と青い液体……血液のようなものを吐き出した。

手でそれを拭い、彼はうつ伏せに倒れている龍一を見下ろし、ニィ、と笑った。

「仮面ライダー……アルズ。十一号か。面白い」

足を踏み出し、ヨロイ元帥は龍一の脇を通過して、背後の暗闇に溶けこむように消えた。

「嫌いではない……」



「藤兵衛、こいつか……?」

「ああ。良かった。まだ息はあるようだな……」

藤兵衛と、もう一人壮年の男性の声がした。

龍一は、ゲホッ、と喉の奥にたまった血液を吐き出し、水から引き上げられたかのように荒く呼吸をした。

「はぁ……! はぁ!」

「落ち着け。無理に喋らずとも良い」

「お……やっさん……」

霞む視界の端で藤兵衛を見て、龍一は手を伸ばして彼の服の襟を掴んだ。

そして力の限り引き寄せる。

「さっ……紗代子は……!」

「お前が敵を存分に引きつけてくれたお陰で、先ほど無事に、地下の施設で手術が終わった。問題はない」

「…………」

藤兵衛の襟から手を離し、龍一は地面に大の字になって、呆然と砕けた天井を見上げた。

完敗だった。

何故、自分が生きているのか。

分からなかった。

「くそ……」

「龍一、お前……」

「話はそこまでだ。龍一とやら、意識があるんなら立てるか? すぐにここから離れないと、デストロンに見つかる」

そこで隣に立っていた、長身の白衣を着た男が割り込んだ。

そして震える龍一の手を掴んで引き起こす。

『タチバナトウベエ、私の回収を忘れないで下さい』

地面に転がっていたアルズ端末から声がする。

藤兵衛は舌打ちをすると端末を拾い上げ、龍一のポケットにねじ込んだ。

「おやっさん……俺……」

「無理をするな。とにかく移動だ」

「俺に掴まってくれ」

白衣の男が龍一の手を掴み、肩に回す。

「どこに……」

「薄々分かっていると思うが、上層はほぼ完全にデストロンに占拠されている。俺達は、地下の隔離シェルターに隠れて、ここを脱出する手段を講じていた」

男がそう言って、龍一の顔を覗きこんだ。

「そんな中、外からお前たちが現れて大暴れを始めたという訳だ。監視カメラの映像を見ていたが、デストロン幹部と戦って生き残っているとは驚きだ」

「幹……部?」

「坂城、行くぞ」

藤兵衛がそう言って、少し離れたところのマンホールの中に身を躍らせる。

「くそ……体に力が入らねえ……」

「無理してでも動け。今何かに襲われたら、皆殺しだ」

「……分かった」

頷いて、倒れるように龍一はマンホールの中に体を滑り込ませた。



薄暗い照明と、据えた臭いが充満する狭い空間だった。

塹壕を彷彿させる、白い壁に囲まれた正方形の部屋。

隔離シェルターは、それがいくつも連なってできている。

その内の一つ、医療室と書かれた部屋の中に、龍一は寝かされていた。

体には点滴がいくつも刺されていて、呼吸器も口に取り付けられている。

「……驚くべき回復速度だ」

坂城と呼ばれた白衣の男は、カルテを見ながら押し殺した声で言った。

壁に寄りかかった藤兵衛が、持っていた煙草にライターで火をつけてふかす。

「内臓破裂に骨折十五ヶ所。即死していてもおかしくないが、わずか一時間でほぼ完全に『傷』が消えた。藤兵衛、こいつは……」

「ああ、まぎれもない『改造人間』だ」

煙草の煙を吐き出しながら、藤兵衛は呟くように言った。

「どこで見つけた?」

「…………」

「だんまりか」

口をつぐんだ藤兵衛に、苦々しげに坂城が言う。

「ここまでかき乱しておいて、それはないだろう。脱出の手はずは整っていたんだ」

「脱出したとして、どこに行くつもりだ?」

静かに問いかけられ、坂城は口をつぐんだ。

「国連に連絡した。しかし、国連軍がここに到着するまで、最低でも三日はかかる。外に出たとしても砂漠に阻まれて、追い詰められ皆殺しがオチだ」

「ならどうしろと言うんだ! 奴らの……デストロンの力は、日に日に増していくばかりだ。幹部までもが降りてきた。このシェルターにいる百五十七人の生存者を、どうやれば守りきれる!」

「俺たちに任せろ」

タバコの煙をフーッ、と吐き出し、藤兵衛は言った。

「こいつはライダー。絶対正義の仮面ライダーだ。ここで、新生デストロンを壊滅させる」



見知った顔が近くにあった。

大事な人。

好きだった人。

俺の、世界で一番必要だった人。

――真名。

その名前を呼んだ。

父さん。

そして……。

唐突に、視界が水の中に石を投げ入れたかのように歪んだ。

真名。

その名前だけを残して、頭の中からあいつの顔が消えていく。

そのぬくもりも。

声も。

何もかもが消えていく。

俺は……。

だが、俺は……。

龍一は頭を抑え、そして虚空に向けて絶叫した。



「…………ここか」

小さく呟き、一人の男が砂漠の中、大型のバイクに跨っていた。

白いフルフェイスのヘルメットをかぶり、その表情は伺い知れない。

「相葉。死ぬなよ……!」

アクセルを吹かし、砂上だというのに、猛スピードでバイクは走りだした。

その視線の先には、無数に広がるスラム街。

そして、遥か彼方にそびえ立つ塔。

ジャパンシティの姿が映っていた。



第3話に続く!!!

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仮面ライダーアルズ 第1話 我らを狙う黒い影

注:この小説は創作小説です。現存する団体とは一切関係がありません。

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仮面ライダーアルズ
……Masked Rider Al-z

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第1話 「我らを狙う黒い影」

仮面ライダー、本郷猛は改造人間である。
彼を改造したショッカーは、世界征服を企む悪の秘密結社である。
仮面ライダーは、人間の自由のためにショッカーと戦うのだ!!

――「仮面ライダー」より




二つの光がぶつかり合っていた。

赤い光と緑の光。

それが、見渡す限りの廃墟の中、所狭しと飛び回っている。

光の中心には、異様な姿をした者達がいた。

昆虫のようなマスク。

複眼のような大きな目。

そして、体全体を覆うボディスーツ。

赤い光の中にも、緑の光の中にも、それはいた。

同じような姿形をしているが、違う。

見た目がまず大きく違ったが、何よりそれらの纏う雰囲気、オーラとでもいうのだろうか、それが圧倒的に違った。

赤い光は激情。

緑の光は絶望。

それぞれ相反する感情をぶつけ合うようにして、空中で組み合い、殴り合い、蹴り合っている。

赤い光の中にいる者が叫んだ。

「一文字先輩! 目を……目を覚ましてくれ!」

赤い光に殴り飛ばされ、十メートル以上もの空中から地面に叩きつけられた、一文字と呼ばれた男が、もうもうと土煙を上げながら立ち上がる。

「風見ィ!」

憎しみ。

怒り。

悲しみ。

それら全ての負の感情を乗せたおどろおどろしい声を発し、一文字は、自分に向けて空中で回転し、右足をつきだして急速降下してくる相手を見た。

「V3!」

はるか上空から、まるで矢のように赤い光が疾走った。

「反転!」

雄叫びを上げ、風見と呼ばれた赤い光は蹴り抜いた一文字の胸を踏み台にし、さらに高く舞い上がった。

人間の跳躍ではおよそ成し得ない、先ほどよりも高く飛び上がる。

そう、まるで虫のように。

「キィック!」

絶叫とともに、先ほどとは比べ物にならない速度で、赤い光が緑の光に突き刺さった。

数十メートルも地面を滑り、抉り、土煙をまきあげ、瓦礫を爆散させながら、風見が一文字を吹き飛ばしたかに見えた。

しかし、そうではなかった。

一文字は、その赤い両手のグローブで風見の足を掴み、地面をスライドしながらその場に踏みとどまっていた。

「手加減とはな……ひよっこが……!」

くぐもった声でそう呟き、掴んだ風見の足を、まるで発泡スチロールのサンドバッグを振り回すように、大きく振りかぶって地面に叩きつける。

何度も、何度も。

一度。

二度。

三度。

数えきれない程地面に叩きつけられ、風見の昆虫のようなヘルメットに嫌な音がしてヒビが広がっていく。

数分後、ボロ雑巾のようになり赤い光が消えたその体を、一文字はゴミのごとく脇に放り投げた。

鈍重な音がして、風見は力なく地面に転がった。

「俺は2号……『力の』2号だぞ……」

一文字は足を振り上げ……。

「なめるな」

そう言って、それを躊躇なく風見の頭に向けて踏み抜いた。

ゴキィ、と何かが砕ける音がして、ヘルメットに入ったヒビから、放電が走り始める。

風見は、自分の頭を踏み砕こうとしている一文字の足を掴み、血反吐と共に言葉を絞り出した。

「一文字先輩……あんたの力が、必要だ……奴らの封印が解けたら……大変なことになる。昔の……誇り高かったあんたは、どこにいった……!」

「一文字隼人という男は死んだ」

足に力を込めていきながら、異形の男は喉を鳴らして笑った。

「お前もそうなるのだ。『仮面ライダー』……V3」

「逃げろ! こいつは本気だ!」

風見が必死の声音で叫ぶ。

……俺は、しかしその場から動くことが出来なかった。

何もかもに圧倒されていた。

人間業ではない戦いの応酬にも。

目の前で繰り広げられている惨劇にも。

剥き出しの殺気にも。

絶望や怒り、悲しみの感情に、圧倒されていたのだ。

「零距離……ライダー……」

一文字が両手を天に向けて高く伸ばす。

そして顔の脇で両腕を握るような動作をする。

「逃げろォ!」

――だめだ。

俺は叫んだ。

今、風見さんを失ったら。

何もかもが狂ってしまう。

何も変えられないまま、世界は暗黒の渦に落ちていってしまう。

――やめろ!

殺さないでくれ。

その人を。

その人は……その人は!

「キィック!」

「逆! ダブルタイフーン!」

一文字と風見の声が同時に、乾いた廃墟に響く。

嫌な音がした。

次の瞬間、俺の目に天を衝くほど巨大な竜巻が、突然目の前に発生したのが見えた。

強風。

暴風。

狂気の風が体を襲う。

周囲の瓦礫が吸い上げられ、空中でぶつかって爆発する。

地面の砂が吹き上がり、炸裂した。

俺はたまらず吹き飛ばされ、体をしたたかに何かにぶつけた。

意識が薄れていく。

体が、何かに引きずられるように二人と逆方向に動いていく。

風見さん。

俺は……。

意識を失う寸前、最後に見たのは。

竜巻の中心で鮮血に濡れる緑色の光と。

力なく横たわる風見……仮面ライダーV3の姿だった。



息ができなくて目が覚めた。

苦しくて、辛くて、このまま死んでしまうのではないか。

そう思って、青くなって飛び起きる。

夢の中で俺の目の前に、唯一覚えている記憶、そのままの緑の怪人。

昆虫のような頭部に、ボディスーツを着た異様な男が、近づいてくる。

それは手に、何かボールのような大きさのモノを持っていた。

赤い。

液体がその切断面からボトボトと垂れている。

口を開けて絶叫の表情で絶命している、ソレ。

緑の怪人は、ゴトリとソレを地面に落とし、俺に向かって指を突き出した。

決まってそこで目が覚める。

――最悪の気分だ。

頭を抑えて荒く息をつく。

時間が経過するに連れて、段々と肺に空気が入ってきて、呼吸が正常に戻っていく。

あばら屋の屋根の隙間から、朝日が差し込んでいた。



とりあえず着ていたタンクトップとジーンズ姿で、彼……龍一は、水道の前に並んでいる人々の列に加わっていた。

ひしゃげた古いバケツを地面に置き、大きく伸びをして欠伸をする。

筋骨隆々というわけではないが、しっかりした体。

黒のボサボサな長髪を、首のあたりで一つにまとめている。

見た感じ十七、八ほどの青年だった。

快活で明晰そうな顔立ちをしている。

そこで彼は、ボン、と背中を強い力で叩かれて、よろめいて振り返った。

「やっと起きたか、龍一。この俺よりも遅く起きるとは、肝っ玉だけは相変わらず据わってやがる」

後ろから大きな声をかけてきたのは、ウェスタンハットを被った壮年の男性だった。

五十代ほどの顔立ちだったが、人の良さそうな笑みを浮かべている。

体にはマントを着用していた。

「おやっさん、おはよう」

軽く手を上げて龍一はヘラヘラと笑ってみせた。

おやっさん――そう呼ばれている男性は、呆れたように胸の前で腕を組むと、息を吐いた。

立花藤兵衛。本名かどうかは分からないが、龍一はその名前を教えられていた。

みんなは親しみを込めておやっさんと呼んでいる。

「まったく……お前はそうやっていつもニヘラニヘラしおって。早く水を汲んでこい。そうしたら、砂出しの仕事だ」

「うへぇ。人使いが荒いぜ」

「居候の分際で何言ってやがる。いいからさっさと来い。人出が少なくて困ってるんだ」

そこで藤兵衛と龍一は、少し離れた所で、地面に座り込んでボソボソと会話をしている、薄汚い男たちに目をやった。

「……また人さらいだとよ」

「酷いもんだぜ……昨日は五番地の一家が全部やられたそうじゃねぇか……」

「機動隊は何してやがるんだ……」

「奴らは上層の機動隊だ。どうせ下層のスラム市民がどうなろうが、上層の連中は知ったこっちゃないんだろうて……」

龍一はそれを聞きながら、軽く唇を噛んだ。

「やっぱり、まだ滅んでないんじゃないか……あの……『デストロン』は……」

男の一人がそう呟く。

藤兵衛は、その単語を聞いた途端、龍一の瞳孔が異様な色に変色し、拡散したのを見て口をつぐんだ。

ワインレッド。血の色に瞳が染まっている。

「龍一、落ち着け」

手を伸ばし、ポンポンと彼の肩を叩く藤兵衛。

龍一はハッ、として、次いでポカンとした顔で藤兵衛を見た。

「ん? 何が?」

「ほら、マントだ。着ておかねぇと砂とお天道様にやられるぞ」

バサ、と龍一に持っていたマントを放って、藤兵衛は軽く笑った。

「何せ、ここは『神様に見放された世界』だからな」



大災害、と人は呼んでいる。

実際何が起こったのかは、誰も分からない。

分からないのだが、三十年前のその異変により、世界は大きく退化した。

一説によると、何らかの原因により地球の自転そのものが狂ってしまった、という学者もいる。

世界には奇妙な磁場が多数出現し、電波は阻害され、大気の状態は著しく不安定になった。

何より一番大きな変化は、「コリオリ力」の変動によりそれまでの「戦争」に関する事柄が一変したことだった。

コリオリ力とは、地球の自転により、直進する物体は一定の力を受けるというものである。

例えば十km離れた場所を狙撃する際。

予想された着弾地点よりも、少し曲がって到達することを計算して撃たなければならない。

しかし大異変後。

そのコリオリ力が一変した。

力は不規則に変動するようになり、銃などの射撃武器が一切使えなくなった。

気候の変動などにより、磁場の影響も受け、航空機や新幹線などの高速移動手段も絶たれた。

各地で戦争を勃発させていた人間たちは、それにより、電子化されていた戦争を、白兵戦に切り替えざるを得なくなった。

それと同時に、人々は「生き残る」ために必死にならなくてはいけなくなった。

気圧、気候、大気、磁力。

全てがめまぐるしく変わる世界。

そんな中で、地表は砂漠化が進行し、廃墟は続々と砂になり、生き残った人々は「シティ」と呼ばれる生命維持機関を作り、ひっそりと生きながらえていた。

シティには日を遮る建物や、水道設備、下水設備、そして何より、滅亡の危機に瀕している「植物」が存在している。

主に、環境が整備されている上層、そしてあまり整備が整っていない下層に分けられるが、生活している市民の大部分は下層市民だ。

龍一がいるここ、第十五番地もそんなシティの、下層スラム街だった。

ちなみに、シティは世界中に点在している。

ここは「ジャパン」と呼ばれているシティだ。

それら知識は、全て龍一は藤兵衛から聞いて、学んだものだった。

そもそも、「龍一」という名前。

それは、呼ぶときに名前がないと困るから、という理由で藤兵衛がつけたものだ。

龍一がここに来たのは、一週間前のこと。

流砂の中に埋もれていた彼を、藤兵衛達スラム街の住民が総出で救出した。

救出された龍一には、外傷や内傷は見受けられなかったものの……。

彼は、全てを思い出すことができなくなっていた。

嘘のような話なのだが、本当のことゆえ始末が悪い。

自分が誰で。

どこから来て。

どこに住んでいて。

家族は何人か。

知り合いはいるのか。

恋人はいるのか。

何も分からないのだ。

覚えているのは、緑の怪人と赤い怪人が戦う光景。

そして

「風見」と、「一文字」という名前。

それだけだ。



水を汲んで顔を洗う。

自分に何があったのか、不安でたまらないといえば嘘になる。

しかしどんなに悩んでも、苦しんでも、変わらず世界は回り、朝はやってくるものだ。

もともと少しばかり楽天的な性格だった龍一は、藤兵衛の世話になりながら、ずるずると彼の所に居続けて今に至る。

マントを羽織り、バケツに水を汲んで列を出る。

歩き出した彼の目に、こちらに手を振りながら歩いてくる少女の姿がうつった。

十五、六くらいの小さな女の子だった。

スラム街の住民のため着ているものは薄汚れているが、珍しくきれいな顔立ちをした可愛らしい子だった。

「紗代子、いいのか? 外に出てきて」

龍一が声をかけると、紗代子と呼ばれた女の子はニッコリと笑ってそれに返した。

「うん。おやっさんが少し散歩してこいって」

「無理すんなよ。お前は人より全然体弱いんだからさ」

紗代子――藤兵衛が開いている町医者の医院に入院している少女だった。

心臓の病を抱えているようで、定期的に医療の心得がある藤兵衛の治療を受けなければいけない体だ。

痩せていて、普通よりも一回りくらい小さな彼女の腕を掴んで、龍一は自分の方に引き寄せた。

「ほら、俺に掴まれ」

「ありがとう。リュウは優しいね」

「そうか? まぁ、人は褒めときゃバチは当たらんってな」

「ふふ、何それ? おやっさんの受け売り?」

「いや、俺の言葉だ。適当に考えた」

軽く雑談をしながら、あばら屋が立ち並ぶスラム街を歩く。

しばらく歩いていると、紗代子は少し表情を暗くして龍一に言った。

「リュウは知らないと思うけど……最近人さらいが多く出てるの。私の知り合いも、いつのまにかさらわれていなくなっちゃった……」

「…………」

知ってる、とは言わずに、龍一は口をつぐんだ。

紗代子の深刻そうな顔を見て、口を挟むのを憚られたからだった。

「ねえ、機動隊は一体何をしてるんだろう。私達だって市民の一員なのに、上層は動いてくれない。やっぱり……下層のことなんてどうでもいいのかな……」

寂しそうにそう言った彼女の頭をポンポン、と叩いて、龍一は軽く笑ってみせた。

「大丈夫だ。紗代子がさらわれそうになったら、絶対に俺が助ける」

「え……」

「だから安心して、お前は早く病気を治せ。言うだろ? ヒーローは意外と身近にいるってな」

「クスっ……何それ」

「今適当に考えた俺の格言だ」

軽く笑った紗代子が顔を上げ、小さく笑う。

「リュウは、いきなりいなくなったりしないよね?」

無邪気にそう聞かれ、しかし龍一はとっさに答えを返すことが出来ず、唾を飲み込んだ。

紗代子の両親、兄は、テロリストによる自爆テロで、一ヶ月前に他界したそうだ。

藤兵衛からそう聞いている。

貧困と格差は、時にして危険思想を生む。

下層市民が上層市民に対する抗議のために活動を起こすことは、残念ながらそう珍しいことでもなかった。

事実、龍一が目を覚ましてから一週間で、暴徒による抗議活動が数件、上層の機動隊により鎮圧されていた。

その現場に居合わせたこともある。

藤兵衛に止められて、容赦なく警棒などで叩き伏せられていく市民を前に、龍一は歯噛みするしかなかった。



「何でだよ! こんなの……こんなの数の暴力だろ! あっちは武装してるのに……!」

怒鳴る。

悲鳴、怒号、断末魔。

爆薬が炸裂する音。

藤兵衛と、患者がいるからと来た別の区画で起こった抗議活動は、地獄の様相を呈していた。

黒いボディスーツにヘルメットを被った機動隊員たちが、特殊警棒で火炎瓶や刃物を持った暴徒達を、感情を感じさせない動きで叩き伏せていた。

頭を殴られ、嫌な音を立てて動かなくなる者。

胸を抑えて崩れ落ちる者。

藤兵衛は、今にも飛び出さんとしている龍一を押さえつけ、悲鳴に負けないくらい大きな声で怒鳴った。

「こうなりたいのか!」

ズボンの裾をまくり上げる。

彼の左足は、太ももから下が金属。

義足になっていた。

藤兵衛は龍一の肩を掴むと、押し殺した声で言った。

「よく見ておけ、龍一。これが上層の奴らのやり口だ。奴らは下層に住む同じ人間を、人間とも思っていない。殺すことに一切の躊躇がない。立ち向かえば、お前は奴らにマークされ、数の暴力で殺されることになる」

「でも……!」

「そして覚えておくんだ」

ドン、と握りこぶしで胸を叩かれ、龍一は口をつぐんだ。

「これが……俺達の世界の、『現実』だ……!」



「リュウ?」

下から紗代子に顔を覗きこまれ、龍一はハッとしてから笑い、くしゃくしゃと彼女の髪を撫でた。

「当たり前だろ。俺は、強いからな」

「本当?」

「ああ、本当だ。見ろこの筋肉」

腕を曲げて力こぶを見せると、紗代子はクスクスと笑った。

本当ならば、いつこの区画も暴動を起こし、そして上層に鎮圧されるか分かったものではなかった。

本当だ。

本当なのだ……。

あの、無気力な住民達が噂していたことは。

上層の機動隊は、下層の市民などいなくなったところで、気にかけはしない。

それは、誰もが感じていて。

そして、口にしない「真実」だった。

「あら?」

そこで紗代子が口を開き、軽く走って道端に移動する。

「どうした?」

それを追っていくと、彼女はしゃがみこんで、手の平サイズの何かを掴みあげた。

「珍しい……機械だわ。無線かしら」

「え?」

龍一が聞き返したのも無理はなかった。

電波が変調をきたしているこの社会では、上層の機動隊が持っているような高性能品ではない限り、無線などという装置は使えない。

たまに砂の中から、大異変前の骨董品が発掘されるくらいだ。

「それにしては綺麗だな」

紗代子からそれを受け取って、龍一はバケツを下ろしてからまじまじと見つめた。

携帯できるサイズの、何かの端末だった。

前面が全て画面になっていて、特にボタンなどは見受けられない。

背面が砕けて、中の端子などが飛び出していた。

「売ったらいい値段になるかもしれねぇな」

「いいの? 誰かの落し物かも……」

「とりあえずおやっさんに見せてみるよ。この近くで誰かが落としたってんなら、おやっさんに話が行くだろ」

龍一はそう言って、壊れた端末をポケットにねじこんで、バケツを掴みあげて歩き出した。

「ほら、行くぞ」

「うん」

その時の龍一は、深く考えなかった。

誰がそれを落としたのか。

そもそも、何に使われていたものなのか。

骨董品ではないなら、何故壊れていたのか。

その大事なことを、その時の彼は考えなかったのだった。



スラム街の夜は暗い。

近くに街灯などがなく、電気系統が安定しないからだ。

電柱を立てても砂で倒れてしまうため、大概は発電設備を利用するが、その発電設備も古くなって安定しないのだ。

ろうそくの光に照らされた部屋の中で、龍一はベッドに横になっていた。

――リュウはいきなりいなくなったりしないよね?

朝、紗代子に言われた言葉が、頭を反響する。

「いきなり……か」

突然降って湧いたように現れた自分が、あんな約束をして良かったのだろうか。

何となくそう思う。

自分が誰かさえも分からないのに、守るなんて言ってしまって、良かったのだろうか。

もしかしたら。

もしかしたら自分は、機動隊の一人で。

下層市民を叩き伏せる無慈悲な存在だったのかもしれないのだ。

「俺は……」

小さく呟く。

声に出すことで不安を押し飛ばすかのように。

「誰だ……」

『……ザザ……その問いに対する答えが見つかりません。質問の再入力を……』

唐突にベッドの下の方から男の声がした。

飛び上がるほど驚き、龍一は実際飛び上がって跳ね起きた。

「え?」

『思考回路が安定しません。バッテリーに重大な損失を確認。至急修理を要請』

「誰かいるのか!」

声を上げる。

男の声はしばらく沈黙した後、淡々とそれに返した。

『現在地のダウンロードを開始。マップ照合。現状の認識不能。記憶領域の損失を確認』

そこで龍一は、声が自分のズボンのポケットからすることに気がついた。

慌てて手を入れ、紗代子が拾った携帯端末を掴み出す。

完全に存在を忘れていた。

そのディスプレイが光って、大きく赤い字で「×」と表示されていた。

『現端末の再起動コードの入力が不正です。異常ジャンクションを確認』

音は、携帯端末から鳴っていた。

「壊れた端末……誰かと通信が繋がってるのか……?」

呟いて、呆然とそれを見る。

端末の「×」が点灯し、龍一の声を認識しているのか、それに淡々と答えが返ってきた。

『私、「AL―Z(アルズ)システム」は通信ではありません。当端末にインストールされた、ナビゲーションデータ集合体です』

「インストール? ナビゲーション?」

聞きなれない言葉が出てきたことで混乱した龍一に、端末の声は静かに言った。

『当端末は、電送システムの中継地点として機能する複合オペレーションシステムです。あなたの声紋を確認しました。カメラ良好。指紋認証開始』

「何だ……?」

『認証終了。あなたのことを、当端末のナビゲーターとして登録しました。おかえりなさい、システムを再開します。呼称を入力してください』

「……俺の名前?」

『はい』

「俺は……龍一。あんたは……?」

『リューイチ、了解しました。私は当端末にインストールされた、ナビゲーションデータ集合体です』

先ほどと同じことを繰り返し、アルズシステムと言った声は続けた。

『記憶野に重大な損失があります。現状認識ができません。ここはどこですか?』

「データってことは……機械なのか? ここは、ジャパンシティの下層だよ」

『はい。私は機械により制御されたAIです。ジャパンシティ……未登録の単語です』

「喋る機械か……何かすげぇもん拾っちまったな……」

頭をボリボリと掻いて、龍一はベッドの上に胡座をかいた。

「よく分からねぇけど……アルズシステムだっけ? あんたも、俺と同じ記憶喪失なのか?」

『記憶喪失……正確には私の場合、「記憶野を消去されている」という表現になりますが、おそらくはそのような状況かと推測されます』

「お互い難儀だな……あんた、上層の機動隊の持ち物か? すげぇ機械持ってるんだな」

『質問の再入力をお願いします。上層とは何ですか?』

「そういう場所があるんだよ。なぁ、丁度暇してたんだ。話し相手になってくれ」

『了解。コミュニケーションをとりましょう』

「はは、まずは空いてる穴を塞がなきゃな」

軽く笑う龍一。

携帯端末に表示されていた「×」が「○」になった。



龍一の部屋のドアの反対側に、寄りかかるようにして藤兵衛が立っていた。

彼は義足を庇うように壁に背中をつけ、龍一が持っているのと同じ端末に指を付けた。

そして耳に当てる。

「被験体がシステムと接触したようだ」

藤兵衛がそう呟くと、端末の奥からノイズ音と共に、くぐもった男の声が聞こえてきた。

『早いな……』

「ああ」

『奴らの動きが活発化している。接敵するのも時間の問題か……』

「やはり、今回も……」

『君の役目は「見届けること」だ。余計な私情は挟まないでおいていただこう』

「…………」

『それが君の「正義」のためにもなるんだよ。ナンバー1……いや、今は「立花藤兵衛」と名乗っているんだったかな……』
「……動きがあり次第連絡する」

藤兵衛はそう言って端末を耳から離し、ポケットに突っ込んだ。

ドアの隙間から部屋を覗くと、ベッドの上で端末に向かって親しげに話しかけている龍一と、僅かな光を発している端末が目に映った。

藤兵衛は少し歯噛みすると、足を引きずりながらその場を後にした。



「アルズシステム?」

紗代子が素っ頓狂な声を上げて、目を丸くする。

スラム街の一角で、道端に座り込んだ彼女に、通行人には見えないように、龍一はポケットから端末を取り出してみせた。

『おはようございます。お嬢さん。私の名前はアルズシステム。当端末にインストールされた、ナビゲーションデータ集合体です』

「機械が喋ってる……」

「最初は通信してるのかと思ったけど、どうやら違うらしい。この端末自体が意思を持ってるって考えたほうがいいかもな」
『その認識で間違いはありません』

穴が開いていた端末は、龍一がセットした無骨な鉄くずのカバーで覆われていた。

「これ……やっぱりまずいんじゃ……もし上層の人の落とし物だったら大変よ。リュウ、おやっさんに相談した?」

不安そうに紗代子が言う。

龍一は軽く肩をすくめてから答えた。

「そうも思ったんだけど、『こいつ』がどうも、それを止めるんだよな」

『こいつ、ではありません。私の名前はアルズシステム。当端末にインストールされている……』

「ああ、はいはい。分かってるよ」

アルズの声を打ち消してから、龍一は続けた。

「だから何でだよ、アル。おやっさんは信用できるって」

『アル?』

「お前の愛称だ。今適当に決めた」

『了解。登録しておきます。リューイチ、タチバナトウベエを信用してはいけません』

「え?」

きょとんとした紗代子を見て、龍一は肩をすくめた。

「昨日の夜からこの調子なんだ」

『記憶野が消去されているため、原因は分かりませんが、あなたがタチバナトウベエと呼称したあの人物は、私の中に、特A級危険人物として登録されています』

端末のディスプレイが点灯し、藤兵衛の顔写真が映し出された。

「そんな……おやっさんはいい人よ?」

戸惑いながら紗代子が口を挟む。

アルズは少し沈黙した後、繰り返すように言った。

『信用するのはお勧めできません。これは、世界重犯罪者データベースの登録に照合されたデータです。九十%の確率で、彼は黒です』

「お前が間違ってるんだろ。十%も白の確率があるじゃねえか」

『確かに、現状その可能性も否定はできません。しかし私の登録者の身に、九十%の割合でエマージェンシーが発生すると考慮しますと、可能な限りそれを避けるべきかと提案します』

「だけどな……おやっさんは俺の命を助けてくれた大恩人だ。昨日今日拾ったばっかの、お前の言葉をはいそうですかと鵜呑みにするわけにもいかねぇんだよ」

ボリボリと頭を掻いて、龍一は息を吐いた。

「まぁ、そういうわけなんだ。まだおやっさんには相談できてなくてな……」

「そうだったんだ……」

紗代子は困ったように目を伏せてから言った。

「アルズ君……だっけ?」

『イエス、お嬢さん』

「人を最初から悪いって決め付けるのは、正直どうかと思うな……おやっさんは私達全員の恩人よ。それを悪く言うのは、感心できないわ」

『…………』

アルズが沈黙する。

カリカリと端末から、何かを書き込んでいるような音がしていた。

少しして、アルズは淡々とそれに返した。

『了解。以降発言には気をつけましょう』

「とりあえず、今日は紗代子がもともと住んでいた家に、家財道具を取りに行く。それより……いいのか? 紗代子、お前……」

つらくないのか、と聞きかけて、龍一は口をつぐんだ。

紗代子がニッコリ笑って、自分の手を握ったからだった。

「行こ。アルズ君も、おやっさんのことをよく話せば、きっと分かってくれるよ」

「ああ……そうだな」

軽く笑って、龍一は彼女の手を握り返した。



紗代子の家は、三区画ほど先のスラム街の隅にある。

正直、龍一はあまり乗り気がしていなかった。

すぐ近くの区画で、先日暴動があったばかりだったからだった。

心臓が悪い紗代子を、できるだけ争いには巻き込みたくない。

そう思うのも、当然のことだろう。

おやっさんから借りた、骨董品の砂地用スクーターで、低速に進む。

これは電気で動くもので、三日前から充電していたので、何とか動くくらいにはなっていた。

しかし古く、いろいろガタついているため中々速度が出ない。

砂をかき分けるようにして大きなタイヤが進んでいるので、やはり早く進めることは困難だった。

自分の腰に抱きついている紗代子の調子を確認して、龍一はアクセルを更に踏み込んだ。

太陽が二人をジリジリと焼く。

空気も熱い。

マスクをつけていなければ、肺に変調を起こしてしまいそうだ。

しばらく進んで、龍一は転々と家が立ち並んでいるのを見た。

目的のスラム街だ。

しかしそこで、彼は、ドンッ! と重低音がして少し離れた家屋から爆炎が上がったのを目にした。

慌ててスクーターを止める。

砂を押し分けながらスライドしたスクーターの上で、紗代子が小さく悲鳴を上げた。

「何だ……?」

もうもうと黒煙が上がっていた。

「まさか……」

暴動。

最悪の予想が頭をよぎる。

もしそうなら、紗代子もいるのだ。

すぐ引き返して隠れなければいけない。

しかし……。

龍一は見てしまった。

燃え盛るあばら屋の中から、人間を抱えた「何か」が出てくるところを。

人間、のように最初は見えた。

しかし決定的に違った。

それには、まるで虫……そう、蝶、いや違う……もっとおぞましい、蛾のような白と紫の斑点を持つ「羽」が、背中から生えていたのだった。

顔も異常だった。

巨大な複眼が顔面の二分の一を覆っている。

口元には鋭いトゲ。

触覚も見て取れる。

人間大の、人間の四肢を持つ蛾。

そう、龍一には見えた。

その蛾人間は、両腕に子供を抱きかかえていた。

そして、火がまたたく間に燃え移り、たちまち地獄のような様相を呈し始めたスラム街の、あばら屋の屋根から屋根に飛び移り始める。

『リューイチ、エゾルデ反応です。直ちにこの場所から離脱してください』

ポケットからアルズの声がした。

それにハッとして、龍一は口を開いた。

「エゾルデ反応?」

『デストロンの生体兵器が放つ、パルス信号のことです。距離からして、ハザード特一級事態と思われます。即刻離脱を』

「デストロン……!」

その単語を聞いた途端、龍一の眼の色が変わった。

瞳がワインレッドに染まり、瞳孔が僅かに拡散を始める。

「リュ……リュウ……?」

それを見て、不安そうに紗代子が口を開いた。

ハッ、として龍一は振り返り、スクーターを降りてから、瓦礫の影に抱き上げた紗代子を降ろした。

「紗代子、見たか?」

聞かれて紗代子は、青くなって彼に言った。

「な、何を……? 暴動? 火が凄い燃えてる……!」

「ここにいろ。絶対に動くんじゃないぞ」

「リュウ! ど、どうしたの!」

「人さらいだ。子供が連れ去られていく所を見た」

「ちょっと待って! 今行ってどうするの、相手は武装してるかもしれないのよ!」

「でも……見過ごしてなんていられない!」

龍一はそう言って、紗代子に背を向けて走り出した。

それに。

この胸の奥に湧き上がるドス黒い感情は……一体。

何なのだろうか。

デストロン。

その単語を聞くたびに、何か自分ではない別のモノが胸の奥からせり上がってくるのを感じる。

紗代子が背後で何かを叫んでいたが、龍一は振り返らなかった。

視線の先には、燃え盛る炎の向こうに屋根から屋根に飛び移る蛾人間の姿。

抱えられた数人の子供が悲鳴を上げている。

「待てェ!」

『リューイチ、落ち着いてください。エゾルデ反応がこちらに向きました。危険です』

「何のことだか分からねえが……逃すわけにはいかないだろ!」

怒鳴り返し、龍一は足元の石を手に取った。

デストロン。

カイジン。

怪人。

蛾人間が、数十メートル離れた先で屋根の上に立ち上がり、こちらを向いたのが見えた。

――当てる。

石を投げる。

それがコリオリ力の変動により、直進しないことは子供でも知っている。

時には九十度近く曲がってしまうこともある。

しかし、ワインレッドに瞳孔が拡散した龍一は、何も考えず、本能的な動きで石を振りかぶった。

彼の腕の筋肉が、異様な音を立てて盛り上がる。

それは生物の音が発するものではなく。

さながら、機械。

ギチギチに詰まった機械繊維がきしみを立てる音のようだった。

『力場が変動しています。それに距離が遠すぎます。投石は到達しません』

もう片方の手に持った端末の中のアルズが言う。

「当たれ……!」

龍一は小さく叫ぶと、血液色の瞳を見開いて、石を投げた。

一直線に石は飛ぶと、大きく右にカーブして上空に舞い上がった。

コリオリ力の変動により、直進しないのだ。

しかし、次の瞬間だった。

右に曲がった石が、まるで磁石のSとNが引き合うように、蛾人間に向けて急速に吹き飛んだ。

まるで矢、いや。

光。

閃光となった何の変哲もない石は、蛾人間の翼を貫通して、遥か向こう側に消えた。

『……サイキックウェーブの発動を確認。リューイチ、あなたは……』

呆然としたアルズの声が聞こえる。

羽を貫かれた蛾人間は、子供を離すと、よろめいてそのままあばら屋の向こう側に消えた。

龍一はそれを見て、その場に両膝をついた。

ぜぇぜぇと荒く息をしていた。

何か凄まじく重いものを持ち上げた時のように、体全体から力が抜けていた。

しばらく息を吐いて、彼はそこで、ハッと我に返った。

――紗代子。

気づいて青くなる。

俺は、紗代子を置いて何をしていたんだ。

この大火事に紛れて、暴徒がいたるところに発生していたのだ。

「紗代子!」

慌ててスクーターの方に駆け戻る。

しかし、先ほど紗代子を降ろした場所には、誰もいなかった。

代わりに転々と青い液体が、砂に落ちていた。



「馬鹿野郎!」

藤兵衛に思い切り頬を殴られ、龍一は砂に叩きつけられた。

「何のためにお前を、紗代子ちゃんにつけたと思ってやがる……暴動に巻き込まれて見失っただぁ? 寝言ほざいてるんじゃねぇぞ!」

「く……」

言い返せず歯ぎしりした龍一をもう一発殴ろうとした藤兵衛が、スラム街の住民に止められる。

「おやっさん、足の傷に障る

「くそ……!」

藤兵衛は吐き捨てると、倒れたまま起き上がろうとしない龍一に言った。

「お前は家の中でおとなしくしてろ。みんな、紗代子ちゃんを探しに行く。手伝ってくれ!」

「おやっさん……教えてくれ」

そこで龍一は、吐き出すように言葉を絞り出した。

「デストロンって……何だ? 紗代子は、奴らにさらわれたのか……?」

「…………」

藤兵衛が口をつぐみ、拳を握りしめる。

「人間じゃないものを見た……火の中……」

「やかましい!」

しかし大声でそれをかき消され、龍一は口をつぐんだ。

「今は紗代子ちゃんの命だ! みんな、行くぞ!」

バラバラと集まっていた住民たちが散っていく。

藤兵衛も、倒れている龍一を無視して脇を抜け、スクーターを起動させて走り去った。

「ぐ……」

歯ぎしりして、龍一は握った拳を砂に叩き付けた。

「俺は馬鹿だ……! 紗代子は、俺を信じてついてきてくれたのに! あいつは俺を信じてたのに!」

『リューイチ。追跡しましょう』

そこでアルズが端末越しに、龍一に淡々と言った。

「え……?」

『もうじき夜になります。捜査の手も中断せざるを得ないでしょう。提案します。サヨコ嬢を救出するため、エゾルデ反応の追跡を提言します』

「お前……紗代子がどこにいるのか分かるのか!」

『正確には、サヨコ嬢を連れ去ったと思われるデストロン生体兵器の反応を追跡可能です』

「考えるのは後だ! 教えろ……紗代子の居場所を!」

龍一は怒鳴って立ち上がった。

「助ける……俺が、絶対!」

『了解。反応値追跡を開始します』

龍一は端末を持ったまま走りだした。

そして藤兵衛の家の納屋にとめてある数台のスクーターから一台を選んで飛び乗る。

アクセルを全開にして、彼はあばら屋を飛び出した。



じゅるり、じゅるり、何かを吸い込むようないびつな音が響いていた。

紗代子は胸の痛みを押し殺すように息を吐き、霞んだ目を開いた。

そこは、ボロボロになった廃倉庫の一角だった。

人が屈んで何かをしていた。

「リュウ……?」

見覚えがあるその背中に、紗代子は恐る恐る声をかけた。

しかし振り返った彼は……。

異常。

その一言だった。

目の前の光景をやっとのことで認識した紗代子は、次いで空気をつんざく悲鳴を上げた。

目の前の青年が、音をたてて「何か」をすすり、貪り食っている光景を見てしまったからだった。

倒れている人、ヒト、ひと。

そのどれもが、頭を鋭利な刃物でカチ割られていた。

内蔵が見えている。

脳だろうか。

ピンク色の肉が散乱している。

――違う。

リュウじゃない。

ゆらりと立ち上がった青年は、震える紗代子に近づき、傍らに置いてあったチェーンソーを手にとった。

そして起動ロープを引っ張ってドルン、と起動させる。

見た目は、龍一にそっくりだった。

いや。

瓜二つと言ってもいい。

背丈も、顔立ちも、何もかもがそれは「龍一」だった。

マントを羽織り、体には何も着ていないようだ。

しかし何より異様だったのは、その体。

右腕から、血。

「青い」血が流れていたことだった。

死体が転がる中、紗代子は立ち上がろうとして腰が抜けていることに気づき、青くなった。

体が動かない。

「リュウ……リュウ!」

この人は違う。

優しくて、大きくて、強い龍一ではない。

いない彼のことを、紗代子は絶叫して呼んだ。

「リュウ!」

「紗代子ォ!」

次の瞬間だった。

廃倉庫の扉を蹴破って、スクーターに乗った人影が踊り込んできた。

所々ろうそくのあかりに照らされた、血なまぐさい倉庫の中に、スクーターのライトの光が差し込む。

飛び込んできた龍一は、あまりの光景に絶句して、スクーターをスライドさせながら止まった。

チェーンソーを持つ、自分と同じ顔形をした人間。

いや。

人間なのだろうか。

その理由不明な不安が、心の奥に湧き上がる。

「リュウ! 助けてえ!」

紗代子が絶叫した。

「うおおお!」

龍一は雄叫びを上げ、チェーンソーを振りかぶった、自分そっくりな男に、肩口から体全体を叩き付けた。

よろめいた男を蹴り飛ばし、紗代子を抱きかかえて離れたところに転がる。

「リュウ……!」

「紗代子、大丈夫か!」

「怖いよ……!」

「アルズのナビを聞いてここまで来たんだ……もう大丈夫だ!」

荒く息をつきながら、龍一は声を絞り出した。

『リューイチ、エゾルデ反応が増大。生体兵器、「改造人間」の姿を確認』

「何だと!」

――改造人間。

その単語を聞いた途端、龍一の頭にズキリと鈍い痛みが走った。

龍一そっくりな青年は、血に濡れたマントをその場に脱ぎ捨てた。

自分自身の全裸を見て息を呑んだ龍一の目の前で、彼は身を屈め……。

その体が、まるで昆虫が「脱皮」するかのように背中の皮が破け、中からズルリ、と人間大のモノが顔を出した。

人の皮が、嫌な音を立ててその場に転がる。

「脱皮」……そう形容するしかない。

人間の皮を脱ぎ捨てたそれは、蛾。

先ほどスラム街で龍一が見た、蛾人間の姿だった。

右翼から、ボタリボタリと青い血液が流れている。

「きゃああああ!」

紗代子が絶叫する。

「くそ……! 何なんだあれは!」

彼女を庇うように前に出た龍一に、そこでアルズが静かに言った。

『リューイチ、私を「着装」してください』

「着装?」

『ジャンクションコードは「変身」です。あなたのサイキックエナジーを、着装に足るレベルと判断しました。迎撃プログラムを起動します』

「何? よく分からねぇぞ!」

『変身。私を掲げてそう声を上げてください』

アルズがそう言うと、携帯端末の光が白く明滅し始めた。

『フレキシブルサイキックアーマーを転送します。準備完了。オールレディ』

「い……言えばいいのか?」

『はい』

龍一は、携帯端末を顔の前にかざし、そして怒鳴った。

「変身!」

『電送機構、通常転送を確認。電送完了。実体化します』

アルズの声とともに、龍一の体を白い光が包んだ。

次の瞬間だった。

チェーンソーを掲げた蛾人間が、人間とは思えない跳躍で数メートルも宙に浮き、龍一に向けて思い切りチェーンソーを振り下ろした。

「く……」

歯ぎしりして龍一は手を伸ばし……。

その、チェーンソーの刃を手で掴んで。

粉々に握りつぶした。

「え……」

自分のしたことに唖然として言葉を失う。

『リューイチ、攻撃を開始してください』

目の前に蛾人間の顔があった。

複眼。

トゲ。

触覚。

人間ではない。

「うああああ!」

龍一は悲鳴のような絶叫を上げ、握り拳を振りかぶった。

足で地面を踏みしめ、蹴り、正拳突きの要領で腕を振り抜く。

『武装「サイキックナックル」を使用します』

一瞬後。

龍一の拳は、まるで流星のように蛾人間の頭を捉え。

そして人間一人を段ボールのように吹き飛ばし、実に十数メートルも弧を描いて打ち上げた。

ドチャリ、と蛾人間が、背中から倉庫の地面に落下する。

「何が……」

『実体化完了』

アルズの声。

龍一はそこで、床に溜まっていた青い血液に、自分の姿が反射しているのに気がついた。

ほとんど暗闇のはずなのに、ハッキリと周りのものが見える。

血だまりに映った姿は。

赤い複眼。

触覚。

昆虫のようなヘルメット。

白と黒のボディスーツ。

ベルトのバックル部分に、携帯端末がはまっている。

プシューッ、と音を立てて、マスク下の排出孔から水蒸気が噴出した。

これは……。

……色は違うが、あの記憶にある赤い光。

2号、そしてV3。

あれら「仮面ライダー」……その姿に酷似していた。

――そうだ。

俺は……。

そこで、龍一の脳裏に、赤い昆虫のようなヘルメットを被った風見の姿がフラッシュバックする。

――いいか、よく聞け。本当に誰かを守りたい時。自分に力が足りなくて、絶望した時。お前は変わる。「変身」しろ。そして名乗れ。その時こそお前は……。

俺は……。

頭の中の記憶をたどり、龍一は両手を天に伸ばし、無意識に顔の前で拳を握りしめ、右手を拳闘のポーズのように構えた。

俺の名前は……。

感覚が研ぎ澄まされていく。

周囲の音が聞こえなくなり、蛾人間と自分以外は見えなくなる。

――お前は名乗れ。「仮面ライダー」を!

風見の声が、聞こえた気がした。

「リュ……リュウ……?」

怯えた紗代子の声が聞こえる。

龍一は、昆虫のようなヘルメットの奥で、くぐもった声で言った。

「俺は……仮面ライダー……」

「え……」

「仮面ライダーだ!」

蛾人間がよろめいて立ち上がり、奇声を上げながら飛びかかってくる。

龍一のボディースーツの各部から、水蒸気が凄まじい勢いで噴出した。

肩の装甲がバクン、と開き、そこからも白い煙が上がる。

『サイキックウェーブ反応、急激に増大。三十……四十……五十。リューイチ。撃てます』

「おおおお……!」

拳闘の構えを作って、龍一は本能的に右足に力を集中した。

彼の右足全体が、太ももから白く輝き始める。

「うああ!」

絶叫して地面を蹴った。

まるで人間ではないかのように。

虫のように、軽々と、天井近くまで龍一の体は宙を舞った。

「ライダァァ!」

風見のように叫ぶ。

そう、彼は。

俺の……。

俺の。

師。

気高い戦士。

誰よりも強く。

誰よりも輝く。

孤高の戦士。

仮面ライダー、V3だ!

「キィック!」

龍一の体は、流星となった。

風を巻き上げ、つきだした右足が、一筋の光となった体ごと、蛾人間の胸を捉える。

そのまま土煙を巻き上げて、地面に突き刺さる。

蛾人間は吹き飛ばされ、きりもみに回転しながら反対側の壁を貫通し、その向こうの砂漠に頭からドチャリと落ちた。

「ガ……」

シュゥゥゥ……と龍一のボディスーツから白い煙が立ちのぼる。

蛾人間は立ち上がろうとして失敗し、地面を手で引っ掻いて悶え苦しんだ後、喉を鳴らして笑った。

「クク……クックック……!」

「…………」

立ち上がった龍一の耳に、かなり離れているはずなのに蛾人間の声がはっきりと聞こえる。

「そうか……『実験体』が……ようやく完成したのか……」

「何……?」

聞きなれない言葉に声を上げる。

『リューイチ、サヨコ嬢を連れてここから離れてください。超小型原子炉の暴走を確認。あの怪人は、自爆します』

アルズの声が聞こえる。

しかし龍一は、声を張り上げて怒鳴った。

「お前! 俺のことを知っているのか!」

「ククク……ククック! デストロンに……」

「答えろ!」

「栄光あれえ!」

蛾人間が一瞬だけ立ち上がり、そして次の瞬間、まばゆい閃光にあたりは包まれた。

龍一はとっさに紗代子を抱きかかえると、地面を蹴って廃倉庫の天井に突き刺さった。

そしてそのまま天井を破って空中に踊り出る。

実に数十メートルも舞い上がった彼の目に。

眼下のスラム街に、十メートル程の、キノコ型の爆炎が上がったのが見えた。



「怪人の殲滅を確認した」

離れた位置からキノコ雲を見ていた藤兵衛が、携帯端末に向けて口を開いた。

『そうか……』

端末の向こうの男が重苦しく口を開く。

『やっと、「フェイズ2」に移行できる……』

「ああ、やっとだ……」

藤兵衛は左足を押さえ、絞りだすように呟いた。

「俺の左足が、哭いている……」



紗代子を抱きかかえた、異形のボディスーツを着た龍一は、猛烈な脱力感とともに、足を引きずりながら砂漠を歩いていた。

意識は混濁し、すでに自分がどこを歩いているのか分からなかった。

少しでも爆発から離れようとした所、この猛烈な虚脱感に襲われたのだ。

『電送を解除します』

アルズの声とともに龍一の体が白く光り、ボディスーツが光の粒子となって消え去っていく。

紗代子を地面に降ろし、龍一はその場に仰向けに倒れこんだ。

紗代子が自分を揺さぶって、泣きそうな顔で何かを叫んでいる。

その顔が、不意によく知った……いや、よく知っていたはずの女の子の顔と重なり。

龍一は、無意識に呟いていた。

「真名(まな)……」

……と。



第2話に続く!!!

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